H's monologue

動き始めた未来の地図は君の中にある

使命の道に怖れなく どれほどの闇が覆い尽くそうと
信じた道を歩こう

田坂賞をいただきました 〜千の風に感謝〜

2020-08-29 | 臨床研修


日本プライマリ・ケア連合学会から「田坂賞」をいただきました。

子供の頃から賞と名前のつくものは,物心ついてからもらった覚えがありません。この歳になってこんな名誉な賞をいたただいて本当に身に余る光栄です。

故田坂佳千先生が始められたTFC-MLに入れてもらったのは2000年,ちょうど東海大学で総合内科の立ち上げのために,卒業以来初めて大学病院で働き始めてまもなくの頃でした。当時は,細分化された専門内科ばかりの中にあって総合診療に対する理解はなく,周囲との軋轢に苦しんでいた時期でした。そんな時に,TFC-ML上で交わされる実践にもとづいた議論と,それに対する的確で暖かい田坂先生のコメントには,いつもほっとさせられていました。直接お目にかかったことがなくとも田坂先生は,いつしか私の中ではメンターのような存在になっていました。何よりベッドサイドで身体所見をこまめに画像に記録するようになったのも田坂先生の影響があったと思います。

初めて広島に講演でお招きただいたのは13年前,田坂先生が急逝された直後のことでした。広島駅に降り立ち中西重清先生に出迎えられて,そのまま田坂医院に向かいました。ご遺族の特別のお計らいで先生の御霊前にお花を手向け,先生が使っておられた診察室やいつもコメントを書いていたPCを見せていただいたのが昨日のことのように思い出されます。それ以来お世話になっている中西先生を始めとして,TFCを通じて得た多くの先生方との繋がりは私の大きな財産になっています。

 今回Web開催になってしまいましたが,田坂先生ゆかりの広島で開催された学会で「田坂賞」をいただいたことは,自分にとって特別の想いがあります。「万年研修医」の気持ちを忘れず,自分が得た知恵を惜しみなく周囲に分け与えること,すなわち田坂先生がされていたことをこれからも実践すべく,この賞に恥じないように精進したいと思います。本当にありがとうございました。

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若手医師セミナー2020  Q&A

2020-08-28 | 臨床研修


8月21日に行われた若手医師セミナーでの,皆様からの質問とそれに対する回答です。青木眞先生のブログに掲載されましたが,こちらにも上げておきます。

 

1. 質問者 : 医師 内科 50代
 質問 : 体液分画の推測で、身体所見が変化するのはどの程度のvolume変化があった時でしょうか

間質(浮腫)に関しては,身体所見で分かるほどの変化は3−4kgと言われています。細胞内液や血管内に関しては,具体的なvolumeを記載したものは聞いたことがありません。血管内に関して言えば,例えば頸静脈が座位で認識できるようになればCVP上昇と捉えますが,それが具体的にどれ位のvolumeかというのは正直私にもわかりません(単にvolumeの問題だけでなく心機能にも関連します)。

 

2. 質問者 : 薬剤師 30歳台
 質問 : サードスペースはどのように考えたら良いのでしょうか。

急性膵炎や腹部手術後などに血管外に体液が移動して,しばしば戻りにくいスペース(分画)という意味でサードスペースと表現されています。細胞内と血管内以外の「仮想上」のスペースという意味で使われます(細胞外液とも同義ではありません)。なぜか腎臓病の教科書にはサラッとしか書かれていないことが多く,サードスペースに確固とした定義はないように思います。私自身は最近,その言い方をあまり使ったことはありません。

 

3. 質問者 : 研修医2年目
 質問 : 浮腫は酷いですが,血管内容量は減ってるという状況も多いと思うのですが,どのように対処すればいいですか?
少し細胞外液を入れながら,利尿薬でいいのでしょうか?

いわゆる ”million-dollar question” ですね。もっとも難しい状況のひとつだと思います。例えば,肝硬変やネフローゼで低アルブミンで,浮腫が著明な場合とかですね。ご指摘のやり方を試みる場合もありますし,もとの病態の治療を行うこと(治療可能であれば低アルブミンの治療をする)などでしょうか。

 

4. 質問者 : 薬剤師 40代
 質問 : Drから「ハーフ生食いれて」と言われたときに、「生食と5%Gluを同量で割ったもの(KN1号液)」だと思っていたのですが、「生食(0.9%食塩)と注射用水を同量で割ったもの」と言われたことがあります。注射用水で割ると等張にならないと思うのですが、これを点滴してよいものなのですか。

ハーフ生食とは,厳密に言えばDrのおっしゃる通りだと思います。たとえば糖尿病性ケトアシドーシスや非ケトン性高浸透圧性昏睡の治療のときに用いられます。しかし多少のブドウ糖が入ってもよければ1号液で代用してしまうこともあります。等張でないと点滴できないということはないと思います。

 

5. 質問者 : ICU Dr
 質問 : アルブミンを投与すると血管内の浸透圧が上がり間質から水を引っ張るということはあるのですか?いわゆる術後のサードスペースに逃げている病態で有効だったりするのですか?見当違いな質問だったらすみません。

アルブミンを投与して「血管内の浸透圧を上げて間質から水を引っ張る」というのはイメージとして分かりますが,本当にそうなのかはっきりしません。同様にアルブミンを投与して,ラシックスを投与して浮腫の改善を目指すというのも,よく言われます。しかし,アルブミン投与後にラシックスと投与して利尿効果が得られるのは,間質から水を引っ張ってくるわけではないようです。アルブミンはラシックスのキャリア蛋白として働いており,より多くのラシックスが尿細管腔に到達するため利尿効果が得られるとされています(Burton Roseのテキストより)

 

6. 質問者 : 研修医
 質問 : 3rd spaceってよく聞きますけれど,なんでしょうか?間質のことでしょうか.

質問2の回答を参照下さい。

 

7. 質問者 :  
 質問: 低アルブミン血症で浮腫がある患者さんでもナトリウム過剰でしょうか。またその場合でも利尿剤が有効ですか。血管内脱水に陥ることが多い印象ですが。

基本的には浮腫のある患者は,Na過剰と考えていいと思います。低アルブミンがあると利尿薬は効きにくくなると言われています。(質問5も参照)

 

8. 質問者 : 新人薬剤師
 質問 : 抗菌薬治療において、糖液で溶かす場合と生食で溶かす場合で、効果に違いはありますか?

たぶんないと思います。

 

9. 質問者 : 薬剤師 20代
 質問 : 貴重なご講演ありがとうございます。1日に必要な輸液量は喪失量と維持量の合計とありましたが、水分量としての上限などはあるのでしょうか。お時間ありましたらご回答お願い致します。

腎機能(溶質および自由水の排泄能力)によると思います。

水分量の許容量は,腎機能と溶質負荷の量によって決まります。たとえば普通の食事をしている人の一日の溶質負荷は約600mOsmとされています。腎機能が正常であれば尿浸透圧は50〜1200mOsm/Lとされています。

600mOsm/日の溶質(ツブ)を50〜1200 mOsm/Lの濃度で排泄するとすれれば,取り得る尿量は0.5L〜12L/日になります(実際に自分で紙に書いて計算してみて下さい)。ここで腎機能がGFR25ml/minになると,取り得る尿浸透圧は約半分の範囲(150〜600mOsm/L)くらいになります。このとき,尿量の取り得る範囲は,1L〜4Lになります。つまり,これが水分量の許容範囲になります。さらにほぼ末期腎不全になると,300mOsm/Lにほぼ固定され(等張尿),尿量の幅は2L前後になります。

腎機能に合わせて,排泄できる水分量は12L →4L→2Lとなります。これ以上の自由水を投与すると,水貯留で低Na血症をきたします。これが,free waterの投与限界(許容範囲)ということになります。実際には,溶質負荷の量が変化すると,さらに変動の幅は変わります。

 

10. 質問者 : 医師 内科 50代
   質問 : 熱中症の多い時期、脱水の際、経口で補正する場合があります。生食を飲むことはなく、電解質の多いOS-1でもNa50mEq/l
Glucose1.8%です。血管内に入れる場合と、経口にて補正する場合は、全く異なると考えたほうが良いでしょうか。

すみません。よくわかりません。経口摂取の方が,腸管からの吸収というステップを踏むので,おそらくは許容範囲は大きいとは思いますが。

 

11. 質問者 : 医師 内科 (元々は放射線診断科) 60代
  質問: 内科を標榜して15年になる放射線診断医です。大変分かり易い御講義有難う御座います。ど素人で始めた内科の仕事でいつも悩むのが輸液の内容でしたが、今回の講義のおかげで今までより少しは医師らしい捌きが出来そうです。今後ともよろしくお願いいたします。

お言葉ありがとうございます。

 

12. 質問者 : 医師 内科
 質問内容 : 生理食塩水とヴィーンFの使い分けはいかがでしょうか?

ほぼ同等と考えていますが,生理食塩液の方がClが圧倒的に高いし,実は生理的ではないので,より生理的に近い成分として考えるなら。リンゲル液(ヴィーンF)を使います。ただ患者の腎機能に問題がなく,よほど大量輸液をするのでなければ,そこまで厳密に考えなくてもいいんじゃないかと個人的には考えています。

生理食塩液を大量(例えば数L以上)に投与すると,高Cl性アシドーシスをきたす可能性があると言われています。Critical care の領域(たとえば外傷など)で大量輸液をするような場合でなければ,なさそうな気がします。私自身は経験がありません。

 

13. 質問者 : 医師 50代 医師
   質問 : 28歳の大工さんの症例では尿ナトリウムがとれれば濃縮で高値でしょうか 2例目の症例では正常でしょうか

二つの考え方があります。まず細胞外液量が低下しているので,尿中Naは原則として低値になると予想されます。ただし尿中Naが少なくても,尿量そのものが著しく少なければ濃縮されて,見かけ上尿中Na「濃度」は予想よりも高めにでることは考えられます。この場合でも,FENaは低値になると思います。

2例目も細胞外液量として低下しているので,原則として尿中Naは低いことが予想されます。

 

14. 質問者 : 医師 内科 30代
   質問 : フルイトラン投与中、水分摂取ができない状況で2日間過ごした後に下腿浮腫を伴うの低Na血症(109)で入院した高齢者女性がいます。夜勤帯に生理食塩水で補正後のFENa,浸透圧は脱水パターンでした。
質問1、補液で補正後の尿生化学は、参考になるのでしょうか? - 夜間に尿中Na、Kが測定できない場合、低Na血症の原因は何を指標に判断すればよいでしょうか?
質問2、浮腫と脱水パターンが両立する場合はあるのでしょうか?フルイトランが原因になりうることはあるのでしょうか?

 

回答1)補液をすると直後から尿生化学は,すぐに変化してしまうことが多いので,できれば最初の尿をとっておいて検査することが望ましいです。

それでも,たとえば著しく低値であれば参考になる・・といった使い方はできます。夜中に尿中Na,Kが測定できないことは病院によってはいくらでもあります(当院も以前そうでした)。その場合でも,病歴,身体所見からおよその見当はつけられることが多いと思います。

回答2)質問3と同じことですが,実際には経験します。ここでいう「脱水パターン」が何を意味しているかをはっきりさせる必要があります。「循環血漿量低下」という意味なら,よくあります。つまり心不全や肝硬変など,身体全体としては,Na貯留だが循環血漿量は低下していて,尿中NaやFENaが低値となるパターンです。サイアザイド利尿薬は,低Na血症をしばしば起こす原因になります。

 

15. 質問者 : 外科医
 質問 : アルブミンの使い方で質問です。術後のサードスペースに水が逃げているといわれる状態でアルブミンを使うと血管内に水を引き込むことができるのですか?もしできるならばアルブミン投与後にラシックスを打つと尿が出てくることがあるのですか?

質問5の答えを参照下さい。

 

 

(写真は2019年京都で行われた日本プライマリ・ケア連合学会で展示されていた昔のリンゲル液)

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8月 居酒屋で生ビール

2020-08-24 | 内科医のカレンダー


<居酒屋から頭痛のため歩いて受診した56歳女性>

土曜日の夕方,当直帯に入ったばかりの午後5時30分頃のこと。頭痛を主訴に,56歳の女性が救急外来を受診してきた。

清掃の仕事をしていて,仕事帰りの午後4時40分頃から友人と駅前の居酒屋で生ビールを飲んでおしゃべりを楽しんでいた。1杯めを飲み終わって,お代わりをした2杯目の1/3くらい飲んだところで後頚部が痛くなってきた。その後,前頭部も痛むようになった。当初,少し吐気があったが,15分位歩いて病院に到着したころにはなくなっていた。現在は前頭部がズキン,ズキンと痛む感じがするが,吐き気はないという。

 

友人と居酒屋で飲んでいて頭痛?お楽しみのところ,わざわざ中断して歩いて病院まで来た?何かイヤな感じ。突然発症ではないか,気になる。

「何時何分というくらいに突然痛くなりましたか」とまず聞いてみる。
「いや,何となく・・」という返事。しつこく聞く。
「突然,ガーンと後頭部を殴られたような感じで痛みましたか?」
「別にそんな感じではないけど・・・,急に首筋のあたりが痛くなりました。」
「急に痛みがきましたか?それともだんだん痛くなってきましたか?」
「だんだん痛くなりました。」
「こんな痛みは初めてですか?」
「いままでこんな痛みはないです」
「日頃から肩凝りはありませんか?」
「そうですね。」
「肩凝りのような痛みですか?」
「それは違います」

「首を2-3回横に振ってみてください。どこか痛みますか?」
「前の方(前頭部)がちょっと痛いです」

 

職業は清掃会社に勤めていて,たまに仕事帰りに同僚と居酒屋に寄るという。今日も仕事の帰りに同僚の友人と生ビールを楽しんでいた。タバコは吸わないが,飲酒はビールをいつもは2本位飲む。今日はいつもよりも少ない。


診察してみると,バイタルはBP 178/92とやや高め。体温は35.8℃で発熱なし。意識はまったく清明で失見当識なし。自覚症状として軽い頭痛を訴えているのみ。項部硬直はない。それ以外の一般身体所見にはこれといった異常なし。神経学的にも麻痺,感覚障害などまったく認めない。


さてこの頭痛をどう考えるか?一見,まったく元気そうなお掃除のオバちゃんである。

でもなぁ,お友達と楽しく居酒屋で生ビールを飲んでいたところで,ちょっと頭が痛くなったからといって,それを止めてわざわざ歩いて(病院まではたっぷり10分以上はある距離である)来るかな? 普通は来ないよな。池田正行先生がよくおっしゃっていたまさに「お告げ」だよ,これは。

 

お告げとは・・

例えば,家族に付き添われて高齢男性が受診したとする。一見大したことがなさそうに見える。ところが,ご家族がぼそっと「うちのおじいちゃん,普段は絶対に病院なんか行かないって言うんですけど,今日は変なんです。何故か病院に行くっていうんですよ。」と話したとしたら,それは「お告げ」である。明らかに普段と違うという情報はあだやおろそかにしてはいけない。

 

この56歳の女性は「友人と楽しく飲んでいる」ところをわざわざ中断して,歩いて病院まで来た。これは絶対に何かあると思うべきである。

さっきから,何度も「突然の頭痛」ではないかと根掘り葉掘り聴くが,どうもはっきりしない。以前,米国のある感染症専門医が東海大学に来たときに教えてくれたパールに「同じことを3回,聴き方を変えて訊ねる」というのがある。言い得て妙なので,自分も心がけている。

そこで,さらにしつこく訊ねた。

「もう一回訊きますが,どんな風に痛くなったんですか?」

「急にアイタタ・・という感じです。」

(それって,突然じゃん!!)

生ビールをお代わりして,1/3飲んだところというのを覚えているのもそれを裏付ける。

やっぱり「突然発症の,これまで経験のない頭痛」である。くも膜下出血(SAH)は絶対に考えるべきである。

 

さっそく頭部CTを行う。結果は,明らかなHDAはない。前頭部(脳底部)のあたりにHDAがあるような気がするが,ちょうど頭蓋底に重なる位置なので,はっきりと断言できず自信がない。こういうときには「責任を他人になすりつける」に限る。ありがたいことに脳外の先生が当直でおられるので,さっそく電話で相談する。

「突然発症の頭痛で歩いて来られた患者さんなんですけど,どうでしょう?」

電話の向こうで,電子カルテ上で画像を見ながら脳外の先生は,

「う〜ん・・そうですねえ・・。どうかな〜。
 病歴とか話を聴く限りは,もし私が外来で最初に見たら,帰すかもしれませんね〜」

「でも先生,突然アイタタってきて,こんな痛み初めてだそうですよ・・
 とにかく,一度患者さんを診ていただけませんか。お願いします」

ちょうど救外に他のウォークインの患者さんが何人か来たので,ここは脳外当直医の先生にお任せして,たまった患者さんの診察にあたる。外来の他の患者の診察をすませて,先ほどの患者の様子はどうかと脳外の先生のカルテ記載確認してみると・・。

「患者の症状とあわせるとCTで前頭部のHighに見えるところが若干気になるので,腰椎穿刺」

そして結果は・・血性髄液。さらに行われた3D angioでは前交通動脈に動脈瘤。血管造影にて同部位に動脈瘤を認め,そのまま緊急クリッピング手術となった。その後,術後も問題なく患者は退院となった。

 

<What is the key message from this patient?>

教科書的にはSAHの頭痛は「ガーンとバットで殴られたように突然=雷鳴頭痛」というのが典型的とされるが,必ずしもそうではない。重症感がない状態で受診するマイナーリーク(軽度の出血)の患者が20%前後あるとされる。まさにこの患者のように重症感なく歩いてくるSAHが5人にひとりはいることになる。救急外来だけでなく,忘れた頃に初診外来に普通に歩いてくることもあり,何とも恐ろしい疾患である。そのときに手がかりになるのは「突然発症」という発症様式である。

この患者では最初「突然」という言葉で訊ねても,否定的な言葉しか返ってこなかった。何度か聞き方を変えても「突然ではない」と否定していた。それでも,しつこく聞き方を変えて繰り返し確認することで,結局は「突然発症」であることが確認できた。聞き方ひとつで患者の返答が異なることはしばしば経験する。怪しいと思ったら何度も確認する必要がある。聞き方を変えて3回は訊ねる,というのは役に立つ。そして,きっかけとしての「お告げ」は大事である。

 

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若手医師セミナー2020

2020-08-21 | 臨床研修


今年も無事終了しました。青木眞先生,サポートの相野田祐介先生ありがとうございました。

最近は青木先生とゆっくりお話する時間がほとんどないのですが,年に1度はご一緒できるのが楽しみでもあります。今回も私が一方的に講義をするのではなく,青木先生が絶妙のタイミングでツッコミを入れて下さるので聴衆の皆さんが目の前にいなくても,とてもやりやすいです。Webを通して沢山の質問をいただきました。いくつかは途中でお答えしましたが,すべてお答えすることは時間的に無理でした。例年のように,質問と回答は青木先生のブログとこのブログでご返事させていただく予定です。しばらくお待ち下さい。

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あなただけではない

2020-08-19 | 臨床研修


雑誌『総合診療』8月号に掲載された深田絵美さんのエッセイを読みました。山中克郎先生がFBでも紹介されていましたが,深田さんは研修医担当のカリスマ事務として名古屋方面の学生・研修医の間ではつとに有名な方です。初めてお目にかかったのは,もう10年以上前でしょうか。大船GIMにも初期の頃に研修医を連れて来て下さったこともあります。

深田さんがおられる部屋(通称深田部屋)には研修医たち(ときには指導医も)が立ち寄って身近にあった出来事やちょっとした相談事などを話してゆくそうです。このエッセイでは,ある女性研修医が受け持ちの患者さんが亡くなられたあとに「もし自分でなかったら」その患者さんの予後は変わっていたのではないか・・そんな気持ちを吐露する様子が描かれています。

これを読んだとき(そうそう・・)ととても共感するものがありました。

 「もし自分でなければ,もっと優秀な医師だったら」

これは,内科医として30年以上仕事をしてきた今でも,そう感じる瞬間があります。目の前にいる患者さんの診断がよくわからなくて,どう判断したらよいのか迷うことがあります。これがもし自分ではなく「あのTierney先生だったら・・たちどころに診断が分かるのではないか?あの○○先生なら,もっとよい治療ができるのではないか?本当に自分でいいのか?」
そうやって自問自答します。

 

深田さんはこのエッセイの最後をこう締めくくっておられます。
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「自分でいいのか」という不安と,「自分が診なければ」という責任感の間で,臨床現場にしがみつくようにして彼らは学んでいく。そして駆け出しの研修医たちが,謙虚な気持ちで臨床に向かう時に見せる成長は,たくさんの講義の聴くのにも勝る,医師になる確かな瞬間なのだなとつくづく思う。
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研修医たちの気持ちをよく理解された深田さんならではの文章です。彼らを見守る眼差しがとても優しく温かいです。

 

「自分でいいのか」という不安を自覚しつつ「自分が診なければ」という責任感に揺れ動きがら,それでも前に進むしかないのが研修医に限らず医師という仕事です。それは今の自分にできることを(限界も知りつつ),精一杯やるという「覚悟」のように思います。

 

私がその研修医さんに伝えたいこと,それは「あなただけではありません」ということです。その気持ちは「自分の能力を過信せず謙虚な気持ちを持ち続けることの証」だと思います。どんな医師であれ,その気持ちを失くしたときは進歩が止まるときです。

大切なことなので,もう一度言います。

あなただけはありません。わたしもそうです。

コメント (2)
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