H's monologue

動き始めた未来の地図は君の中にある

使命の道に怖れなく どれほどの闇が覆い尽くそうと
信じた道を歩こう

水中毒について

2018-06-27 | 臨床研修

大分の講演会の参加者の方から,コメント欄に質問をいただきました。個別にお答えするよりここで解説したいと思います。

<質問>
6/14の講演会に参加したものです。貴重なお話、ありがとうございました。
1点質問をしたいのですが、先生は講演の中で1時間で7Lの水を飲んだら水中毒になるとおっしゃっていました。正常な腎での排泄との兼ね合いで7Lという数字を導かれたと考えていますが、具体的な数式等分かりましたら教えていただけると幸いです。
よろしくお願いします。

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<回答>
正常では,腎臓からの水(free water :自由水)の排泄能力(free water clearance 自由水クリアランス)は,およそ1L/hr あるいは10〜20L/日程度と言われています。つまり1時間に最大1Lの真水を排泄することができるけれど,仮にそれ以上(1時間あたり1L以上)の飲水をすると一時的にNa濃度は低下します。たとえば急速に2Lの水を飲むとどうなるでしょうか?

体重50kgとして総体液量は 50kg x 60% = 30 kg (L) 血清Na濃度が140mEq/Lとすると,総溶質量は 140 mEq/L x 30 L = 4200 mEq(mosm)になります。ここで, 急速に2L飲水すると,直ちに希釈尿の排泄が始まったとしても1L/hしか排泄できないので,最初の1時間以内だと少なくとも1Lの水が排泄できずに体内に貯留します。総溶質量に変化がなかったと仮定すると次の式が成り立ちます

 50 x 0.6 x 140 = (50 x 0.6 + 1 ) x 0.6 x 新しいNa濃度

この式から 新しいNa濃度 = 135.5 mEq/L となります。すなわち一時的に,Na濃度は140mEq/Lから135.5mEq/Lまで低下するわけです。でもNa濃度が140mEq/Lから135.5mEq/Lに低下したとしても,生理的範囲内の動きであれば特に問題にはならないでしょう。これに対して統合失調症患者などで時にみられる心因性多飲症では,短時間に大量に飲水して重症の低Na血症をきたすことがあります。
講演会の時には,そのような重症の低Na血症をきたすには,どれくらい飲水すれば起こりうるかという仮定のお話をしたわけです。

上記の式を使って,今度は一気に7L飲水したらどうなるか考えてみましょう。最大で1L/hrしか水は排泄できないため,6Lの水が貯留するので

 50 x 0.6 x 140 = ( 50 x 0.6 + 6)x 0.6 x 新しいNa 濃度
 新しいNa 濃度 = 116 mEq/L


理論的には,体重50kgの人に急速に6Lの水が貯留するとNa 116まで低下する可能性があるということです。ここまで急激にNa濃度が低下すると痙攣を起こすこともありえます。実際に私はそのような症例を経験しています。腎機能が正常であれば,飲水した直後から低張尿が排泄(最大で1L/h)されはじめるので,理論上は次の6時間で負荷された水が排泄されてNa濃度が回復します。実際,心因性多飲症の患者さんでは,救急室に到着したときから非常に低張な水のような尿が大量に排泄されるのが観察されます。

以上,おわかりいただけたでしょうか。


追記)
これを書きながら,学生時代に部活の先輩に頼まれて同級生たちと「水負荷試験」の健常ボランティアのバイトをやったことを思い出しました。前採血をされたあと,15分以内に水を飲んでそのあとまた採血をするのです。今から考えるとADHの抑制をみるための何かだったんだろうな〜と思います。「さあ,これを15分以内に飲め!」と言われて大きなヤカンをどん!と目の前に置かれて,同級生たちとヒイヒイ言いながら飲んだことを覚えています。真水ってそんなに大量に飲めたもんじゃありません。ビールなら不思議と大ジョッキでスイスイ飲めるのにね・・・
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久々の面白看板

2018-06-26 | 路上観察

大分で見かけた看板。よくこんな名前にしたもんだ,この会社名なら絶対に忘れない!
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Quotable Oslerふたたび

2018-06-25 | Quotation

今回のプレゼンを作るため『Quotalbe Osler』をパラパラ読み直してみて,新しい発見がいくつかありました。

The young physician starts life with twenty drugs for each disease, and the old physician ends life with one drug for twenty diseases.


この言葉は以前から知っていたのですが,びっくりしたのがこれ。いままで見落としてました。

Avoid polypharmacy

The battle against polypharmacy, or the use of a large number of drugs (of the action of which we know little, yet we put them into bodies of the action of which we know less), has not been fought to a finish.


最近polypharmacyについて問題にされるようになっていますが,何と100年前にOsler先生はPolypharmacyに言及してるんですね。すごいと思いました。何かあることに気づいたり,コレは!と思って調べたりすると大抵は過去にどなたかがすでに指摘していることが多いのですが,まさにこれがそうでした。


もう一つ,へ〜っOsler先生こんなことおっしゃってたんだ〜?とちょっと笑いました。

Beware of the men that call you "Doc." They rarely pay their bills.


いままでPaperback版を読んでポストイットで付箋をつけていたのですが,Kindle版(をMacBookやiPhoneで使う)がほんとに便利なことがわかりました。(今頃?・・だってiPhone使い始めたの今年からだし
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野獣合宿@大阪

2018-06-23 | 臨床研修

毎年,諏訪湖で行われていた野獣合宿が今年は規模を変えて,適々斎塾の勉強会として大阪で行われました。私は「Word from Master Yoda」というタイトルで先達の言葉を日常臨床で感じるとき・・という感じの内容でお話しました。主には,『 Quotalbe Osler』本からSir William Oslerの言葉を引用して,それとセットで自分の経験した症例を組み合わせました。最後にちょこっとSapiraの毒舌・下ネタ(新版では残念なことに省かれている)の紹介を付け加えました。(いや今回も準備はぎりぎりで辛かった・・・あ,いつもか)

それにしても適々斎塾の雰囲気は素晴らしい。若い学生・研修医からたぶん彼らの親の世代になる我々おじさん達の世代まで,年代の枠を超えて和気あいあいと,嬉々として楽しそうにお勉強です。夜の部もあれだけ沢山の美味しい日本酒が並んでたのに,そっちのけ・・(あ〜モッタイナイ)。






皆さんの笑顔!!二日目も楽しむべし!
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あじさい電車

2018-06-21 | 写真

かねてより念願だった「あじさいの季節の箱根登山電車」に乗ってきました。天気はあいにくでしたが,雨のせいで緑はより深く,紫陽花の色が美しく映えていました。箱根湯本と強羅を往復して車窓とホームからちょろっと撮影しただけでしたが,かなり楽しめました。写真はそんなに撮れなくても,あじさい電車は文字通り紫陽花を車窓から楽しむものですね。














有名な撮影ポイントとおぼしき踏切では,カメラマンが鈴なり! 心なしか運転士さんは速度を落として走ってくれているように感じました。



スイッチバックは,いいトシした大人でも心躍るものがあります。



トンネルを抜けるたびに色鮮やかな紫陽花が目を楽しませてくれました。
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