少し前のことですが,Pemberton徴候が見られた患者さんの件で追加です。その方では腫大した甲状腺上で明らかな血管雑音を聴取しました。
甲状腺の血管雑音については,McGeeなんかを見るとBasedow病では70%くらいに甲状腺上に血管雑音を聴取すると書かれています。でも,私の個人的な経験では「そんなにあるかな〜?」と思っています。
私は内分泌を専門にしているわけではないし,もちろん甲状腺専門でもありません。症例記録として残してある甲状腺機能亢進症(≒大部分はBasedow病)の数はせいぜい40例くらいです。記録を残していない症例もありますが,大体それくらいだとして,甲状腺上ではっきり血管雑音が聴こえたという症例は,どんなに多く見積もっても半数もないと思います。この違いは何かな・・とずっと疑問には思っています。
甲状腺上で明らかに血管雑音を聴取した患者さんの中で,とても印象に残った方がいます。
当初,血管雑音は収縮期+拡張期ともに聴取し,治療によって機能亢進が安定してくると,雑音は収縮期のみになり,その後消失するという経過をとりました。教科書的には,収縮期のみの血管雑音は,単に頸動脈の血管雑音が伝搬しているだけのこともあるので注意すべきと書かれています。本来の甲状腺機能亢進症でみられる血管雑音は収縮期+拡張期ともに聴取するという理解でよいかもしれません。細かいことを言えば,収縮期+拡張期雑音というよりは,連続性雑音としたほうがいいのかもしれません。(収縮期+拡張期だと大動脈弁閉鎖不全のときの to and fro murmurという意味になるかも。この場合は,血流が収縮期と拡張期で逆ですね)
追記)甲状腺の雑音に関しては,1月に受講した循環器フィジカル講習会で,坂本二哉先生がレクチャーの中で
「甲状腺の雑音は動脈ー動脈(arterio-arteriolar fistula) 治療で消える」
とおっしゃってました。自分で書いたメモを見つけました(覚えていないもんだなぁ)。
それともう一つ,甲状腺機能亢進症の患者さんで,甲状腺の上を聴診した時に見られる所見として自分で気づいた「所見」があります。こちらの方が,血管雑音よりもずっと多いと個人的に感じています。それは,
「甲状腺の上を聴診したときに,あたかも心尖部や心基部に聴診器を当てたときのように心音(1音,2音)が甲状腺上ではっきり聴こえる」
というものです。これは自分で勝手に思っていることなので。多分どこの教科書にも書いていないと思います。さらにずっと疑問だったのは,心音が甲状腺上ではっきり聴こえるのは「Basedow病」に特徴的(特異的)なのか?ということでした。
かなり長い間の疑問だったのですが,あるとき反証となる症例を経験しました。それは「著明な貧血」の患者さんで同じ所見を経験したのです。つまり著明な貧血による高拍出状態の時に,甲状腺機能亢進のときと同じように「甲状腺上で心音が聴こえ」たのです。たった1例ですが,少なくとも甲状腺機能亢進症でなくても,その所見があったということは反証として意味がありそうです。
いずれにしても症例数が少ないので大っぴらにはできませんが(ってブログには書いてますが・・笑)個人的な経験として,ご参考までに。もし同様の経験とか,ご意見があれば教えて下さい。