H's monologue

動き始めた未来の地図は君の中にある

使命の道に怖れなく どれほどの闇が覆い尽くそうと
信じた道を歩こう

第27回臨床力アップのための腎臓内科セミナー

2020-10-31 | 臨床研修


慶應義塾大学の門川先生からのお声がけで「第27回臨床力アップのための腎臓内科セミナー」で輸液大盤解説のレクチャーをさせていただきました。本来は5月頃に予定されていたのですが,コロナの影響で延期の上,オンライン開催になりました。

やはりオンライン開催では,参加者の反応が見えないので話していて不安になることもありますが,一ついいことにも気がつきました。この輸液大盤解説では,輸液の思考過程を説明するのに臨床経過を細かい表で提示した上で説明を加えていきます。つまり臨床のデータ,血液や尿の検査所見,それに対する尿量や輸液の選択など,沢山の情報を見ていただく必要があります。これまで何度か対面でやった講演では,プレゼンをプロジェクタで投影すると文字が小さくなって読みにくいのが難点でした。これを解決するために,これまでは紙に印刷した経過表を予め配布しておいて,経時的に少しづつ別の紙で隠した内容を少しづつ見てもらうという苦肉の策をとっていました。オンラインで行うと,参加者が各自の画面で見ていただけるので,多少細かい経過表でもクリアに見てもらうことができます。これはオンラインで行う明確なメリットですね。

対面で実際に参加者の皆さんの反応を見ながらお話しできないのは残念ですが,オンラインならではのメリットにも気づかされました。今後はさらにこういった利点を生かしたセミナーが生まれていくのではないでしょうか。こういった可能性を感じた一日でした。

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10月 奥さんより劣る?

2020-10-30 | 内科医のカレンダー


<突然の高熱を認めた維持透析施行中の80歳男性>


祭日で病院が休みの日だったが,透析当番で出勤した朝のこと。透析室に入るなりスタッフからいきなり気がかりなことを聞かされる。

「Zさんが,昨日家で39℃の熱を出したそうです。持っていた解熱剤で,今は何ともないそうですけど・・。」

なにぃ〜!

Zさんは,透析歴はまだ数年だがシャントトラブルを繰り返している方である。人工血管でのシャント再建術を2回行なっただけでなく,シャント閉塞のため血栓除去術を何度も繰り返している。少し前に循環器の先生にカテーテルで血管拡張術(PTA)をやってもらって落ちついていたんだが・・・突然の発熱とは,とっても嫌な感じである。

一番奥のベッドで透析をしているので,反対側の患者から順に回診を済ませてから,最後にZさんのところへ。透析開始時のバイタルは,BP 108/56, 脈拍 82/分,体温 36.7℃,前回透析からの体重増加は3.5kgでやや多め。見た感じの全身状態は悪くなさそうに見える。

「熱が出たそうですが・・」

「このところ,ずっと仕事をしていて根を詰めていたんだが,昨夜急に39℃の熱がでたんです。」

Zさんは写真の同人会を主宰しているセミプロの写真家で写真展が近々あるため,その準備で忙しいとのことだった。

「何か他の症状はありましたか?」

「別に・・,ちょっと疲れてたからなあ」

「喉の痛みとか,咳とかはありませんでした?」

「いいえ。」

「熱が出た時には,寒気がしました?」

「いや寒くて寒くて,布団を被っても寒くて震えたなあ」

(何だ!?・・・・菌血症の可能性があるじゃないか!)

「がたがたふるえる感じでした?」

「ふるえた・」

「他に,何か症状はありませんでしたか?」

「そう言えば,最近尿が出る時に,ぴーんとこのあたり(下腹部から心窩部までを手で示して)が痛む感じなんですね。」

「腰は痛くない?」

「いいえ」

「解熱剤を昨日使ったんですね。今は具合どうですか?」

「別に,何ともないけど・・」


う〜ん,病歴からは発熱のfocusははっきりしない。透析ベッドに横になったまま一通り診察する。頭頸部には特に異常なし。リンパ節も腫れていない。前胸部で心音,両側の側胸部の呼吸音を聴診したが,特にwheezeやcracklesなどは聞こえない。腹部も圧痛なく,これといった所見はない。横に向いてもらって,CVA叩打痛を確かめるが,はっきりしたものはない。脊椎の圧痛もない。皮疹や関節の発赤腫脹もない。シャント部の発赤もない。

熱源ははっきりしないが,とにかく病歴で明らかな悪寒戦慄を伴った39℃の発熱である。まずは透析回路から血液培養を2セット採取しておく。それと,血算・生化学も提出する。

何度も人工血管の手術をしているので,グラフト感染がまず頭をよぎる。透析患者の(特にブラッドアクセスに人工血管を使っている場合)原因がはっきりしない発熱を見たら,アクセス感染の可能性を考えておくのが鉄則である。人工血管のシャント感染では,皮膚に発赤がなくてもいきなり菌血症になることもある。そんなことを考えていると,血培を取ったらMRSAも含めたブドウ球菌狙いでバンコマイシンは始めてしまおうかとも思う。しかし,それ以外の可能性はどうだろうか?尿をしたときに下腹から腹部にかけての痛み・違和感って何だろう? 尿は少しは出ているが,尿量が少ない透析患者の尿路感染の可能性も少し考える。かなり以前のことだが,ほとんど無尿の糖尿病性腎症由来の透析患者で,導尿したら黄緑色の膿が大量に排出したことがある。最終的には「膿膀胱症 pyocystis」と診断したが,神経因性膀胱に尿路感染を合併したケースで本当に治療に難渋した。症状が乏しいことからは,総胆管結石や胆管炎の可能性も残しておくとブ菌に決め打ちは心配である。

「肛門のあたりに変な感じはないですか?」

「ないです。」

(たぶん前立腺炎は,大丈夫かなあ。透析しているここで,直腸診をやる訳にもいなかいし,まあ否定してもいいかな・・) (ちょっと手抜きか・・・)

 

まずは血液検査の結果を待とう。

 

緊急検査の結果が戻ってきた。白血球 24800,CRP 11.3と炎症反応高値である。患者さんの見た感じの予想よりもずっと上昇している。肝機能検査はあまり動きはない。でも絶対に何かある。腹部に何かあるか・・・

いずれにせよ原因がはっきりしないが菌血症の可能性を考えて治療を始めてしまうつもりになる。焦る気持ちを抑えつつ,とにかく患者さんに説明。

「原因ははっきりしませんが,とにかく何らかの原因による菌血症を疑います」

「腹腔内に何かがあって熱が出ている可能性もあるので,入院した方がいいと思います。」

腹部には圧痛なく腸腰筋徴候は陰性。とりあえずバンコマイシンと腹腔内感染の可能性を考えてグラム陰性桿菌はカバーするためもう一剤加えたい。セフトリアキソンだとどうかな。ちょっと実力不足?考えたあげくに”少し下品”と思いつつ,メロペネムを1回入れてしまうことにした。やり過ぎかもしれないが,祭日の今日は,充分な検査もできないし,外したくないので明日まではこれでカバーしておこうと思った。

 

さて入院である。

呼吸器の症状はないけれど,入院前に胸部単純X線写真は取っておくことにする。それと明日まで様子を見ようと思ったが,やっぱりはっきりさせて方がいいと判断して胸腹部CTも撮影することにした。

4時間の透析終了後に画像検査に回ってもらって,病棟に入院の手はずを整えた。午後3時頃,病棟の看護師から電話が入る。

「あのう先生,つい先ほどCT室から電話があって,酸素濃度が低いので酸素投与をします?と聞かれました。それと肺が真白だっていってましたが,どうしますか?」

(なに??,肺が真白??)

早速電子カルテで画像検査を確認すると,単純写真で見ても右肺にしっかり広範な浸潤影がある。CTでは,両側下肺野に,consolidationと周囲にスリガラス上の陰影が広がっている。

(え〜〜っ? 肺炎???)

病室に戻って患者さんに確認する。

「さっき透析室で伺ったときに,咳はでてなかったと,おっしゃってましたが,ホントにホントに咳はでていませんでした。」

「1週間位前から,ときにゴホッという感じには咳はでてたかな。」

(何だよ〜咳は出てたんじゃないか!)

ちゃんと起き上がってもらって,もう一度背部から念入りに聴診する。右側下肺野を中心にcoarse crackleがしっかり聴取できた。あちゃー,透析室では聞き逃していた。何が『最後はやっぱり身体診察(注)』」だ・・・・ああ恥ずかしい。さらに入院の手続きのためにこられた奥さんから聞いた言葉。

「2日位前から変な咳をしていて痰もでてきたので,肺炎じゃないかと思ってました。」

奥さんの診断能力の方が,自分よりも優れていたということか。何とも情けない話で・・・・とほほ。

 

注)以前に何とエラソーにこんなタイトルで講演会をしたことがあった

 

<What is the key message from this patient?>

今回の症例は,もう数年以上前のことで,何ともお恥ずかしい限りだが,胸部X線写真をとって初めて肺炎と診断することはままある。高齢者の発熱の原因として肺炎はよくあることである。高齢者の肺炎では症状が乏しいことも珍しくない。また高齢者では典型的な症状が出ないことも多い。つまり高齢者の肺炎の診断は診察だけでは結構難しい。 

 新型コロナウイルス感染が広がっている現在,発熱患者に対するpracticeは一変してしまった。そもそも病院の入口で発熱があったとわかった時点で,通常の診療ラインには乗せないやり方になる。通常の診察室とは離れた発熱外来でガウン,マスク,ゴーグル,手袋で装備した上で診察をすることになる。やってみると分かるが,この状況での診療は,普段どおりの思考過程で動くことは意外に難しい。コロナ第1波の真っ最中には,感染のリスクも考慮して可能な限り診察を簡略化して,疑わしきはさっさと胸部CTに回すという流れにならざるを得なかった。

 それでもつい最近,病歴からは発熱のfocusが絞りきれなかったが,背部の聴診でちゃんと肺のcracklesを聴き取れて,結果的に肺炎を見逃さずに済んだ例が2例あった。その二人の患者はいずれも呼吸器症状を訴えず,病歴だけからは積極的には肺炎を疑えなかった。focusが絞れなかったからこそ,注意深くとった聴診所見が疑うきっかけになった。

 「ゆっくり聴診するならさっさと胸部CT」というのは,今まで自分達が目指してきた(そして教えてきた)診療スタイルとは全く正反対である。感染のリスクを考えると,致し方ない部分もある。それでも『最後はやっぱり身体診察』と言えるだけのスキルは持っていたい。身体診察は役に立つと自信を持って研修医たちに言えるようになりたい。いろんな検査に制限がある発熱外来だからこそ,H&Pは重要だと思う。そう言えるように精進しなければと思っている。

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金時山

2020-10-29 | 写真


素晴らしい晴天だったので箱根の金時山に登ってきました。子供達が小さい時に皆で登ったのですが何年ぶりでしょうか,本当に久しぶりでした。出発するのが遅れてしまい登り始めたのが正午過ぎでした。頂上に着いた時には富士山は逆光気味になってしまい,雲もかかっていてちょっと残念。それにしても日ごろ運動不足の身には箱根の山はやっぱりキツかったです。

 

ちょっとしたツタの紅葉にも秋が感じられます。

 

左に大涌谷,少し手前に仙石原のススキ草原,奥に芦ノ湖が一望 に見える贅沢な眺めです。ちょうど眼下に登山口の金時ゴルフ練習場の赤い屋根が見えます。写真を拡大して見ると,駐車場に止めた自分の車が確認できました。あそこまでまた降りるんだ・・。

 

高い山でなくても山頂はどこでも気持ちがいいですね。

 

ひさしぶりのハイキングで,下山途中から膝痛に苦しみましたが,帰りに温泉も楽しめて気持ちのよい日でした。

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総合診療11月号 「フィジカル・エポニム!」

2020-10-26 | 身体診察


このところ充実の内容が続く『総合診療』誌ですが,今回の特集号は特に凄い!!!

志水太郎先生企画の「フィジカル・エポニム!身体所見に名を残すレジェンドたちの技と思考」です。身体所見に名を残す偉人たちの物語が,素晴らしい執筆者の先生方によって,単なるお勉強ネタだけでなく非常に魅力的な読み物になっています。

発行される少し前に,執筆者の一人である陶山先生と医学古書のことでやり取りをして,出ることは聞いておりましたが,実際に手にすると本当に凄い内容です。

 

特に親しみのある所見の項目です。自分の手の所見と記念撮影。

 

それにしてもそれぞれの先生方のコダワリは半端ないですね〜。予定枚数を大幅に超えた原稿を出された先生も多かったと聞きます。どの論文も,いったいどれだけの労力がかかったんだろう!?と思うほどの力作揃い。最大の褒め言葉としての「オタクの世界」です。この号は品切れになる前に絶対に持っておいた方がいいと思います。

 

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Achenbach 再び

2020-10-20 | 身体診察


先週のことです。自室にもどった直後に,右手掌薬指のつけねあたりに突然「ズキッ」と一瞬痛みが走りました。見ると,手のひらに直径1cm弱の範囲に薄く皮下出血が広がりました。

あ,来た!2回めだと思いました。6年前にも一度,右薬指のDIP関節の辺りに皮下出血したことがありました。このときははっきり指の腫れがわかるほどで,結構痛みが強かったです。完全に完全に消えるまで数日かかりました。

Achenbach症候群ですね。10年くらい前にこのブログで紹介したことがあるのですが,検索でひっかかるようで今だにそのエントリには一定数のアクセスがあります。

Achenbach症候群って手掌に出現してもいいんだよな・・と思ってあらためて確認しましたが,手掌に出現してもいいようです。ただ痛みは,前回指にきたときよりもずっと軽く,しかも早く収まってきました。やはり指だと狭い空間に血腫ができて圧が高くなって消退するのにも時間がかかるからでしょうか。今回の手掌の痛みは,翌日にはかなり軽減して2日目にはほとんどなくなりました。

実際に外来でも,たま〜にいらっしゃいますが,繰り返す方は確かにおられます。私の患者さんで10回繰り返しておられる方もいます。10年前に比べるとプライマリ・ケアの世界でも一般的になった?ようですが,知っていれば一発診断の疾患の一つですね。

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