H's monologue

動き始めた未来の地図は君の中にある

使命の道に怖れなく どれほどの闇が覆い尽くそうと
信じた道を歩こう

6月 SpPinな病歴

2020-06-30 | 内科医のカレンダー


<1週間前からの微熱と腹痛で来院した47歳女性>

予約外来の途中で,ひとり予約外患者のカルテが混じっていた。

名前を見ると,自分が高血圧で診ている○△さんである。彼女は47歳の美容師さんで,以前めまいで入院した時に高血圧を発見されて,以後外来でfollow upしている方だ。そこそこの肥満があるが,普段はとても元気な方である。
(あらま,どうしたんだろう?)と思いながら問診票を見る。

主訴には「1週間より微熱と腹痛(37.0~38.7℃)」とある。

その横には外来看護師による,青いボールペンで(今朝血圧131/78,鈍痛で時々きゅーっと差し込むような痛み。市販薬のセデスを飲むとおちつく。)という追加情報が書いてあった。

1週間続く熱と,腹痛か・・・頭に浮かんだのは,キャンピロバクター腸炎のような感染性腸炎だった。食事のことは,ちゃんと聞かないといけないなあと思いながら,患者さんを診察室に呼び入れた。

「どうしました?,○△さん」

「あ,先生でよかった〜。実は,1週間前から微熱が続いてて,おなかが痛いんです・・・」

いつもばっちり化粧してくる○△さんがまったく化粧なしで来ているので,本当に調子が悪いのだろう。実際,かなり具合悪そうにみえる。

「一番最初の症状は,何でしたか?」

「まず身体がだるくて,熱がありました。次の日から下腹が痛くなりました。ずっと37.2~37.8℃位の微熱がづづいて,市販のセデスを飲むと何とかなっていました。」

「下痢はありましたか?」

「ありません」

「柔らかい便もでていなかった?」

「ないです」

う~ん,どうも感染性腸炎の線はなさそうかなあ。下痢が最初はなくて腹痛が強いキャンピロバクターは何例か経験があるけれど,とりあえず感染性腸炎の可能性はかなり低くなったかな。

「食欲はありましたか?」

「食欲はなかったです。」

「水分はとれていました?」

「何とかとれていました。」

「オシッコする時に痛みとか,回数が増えたりは?」

「ありません」

「○△さん,生理はまだありましたっけ?」

「去年の秋に上がりました。」

「帯下が増えたりはしていませんでしたか?」

「ないです」

 

尿路感染や婦人科的な問題はなさそうか・・・

食欲がなくて,腹痛があって熱・・・とくるとアッペはやっぱり落とせないなあと考える。しかし最初の38℃の発熱は典型的ではない。とは言っても悪寒戦慄を伴う38℃の発熱が初発症状だった虫垂炎も経験があるので,それだけで否定する材料にならない。むしろ,1週間が経過していることをを考えると,アッペが穿孔して膿瘍形成していないか心配だ。

「まだ何とも言えないんですけれど,虫垂炎は一応考えないといけないような気がしますね~」と話す。すると,

「私,前に外科の☓☓先生に盲腸で診てもらったことがあるんです。その時は,あんまり太っていて手術は大変だから点滴で治療したんです。その時は,それで良くなったんですけど,今度なるときまでに痩せなさいっていわれてました。」

なになに・・・以前やったことがある!

診察台に横になってもらい診察を始める。

腹部は柔らかい。全体としてみてもpercussion tendernessはない。腸雑音も正常。心窩部に圧痛なし。下腹部を圧迫すると,うっと顔をしかめる。でもpercussion tendernessはない。

もう一度,どこが痛かったのか確認すると,最初は臍周囲から心窩部まで腹部全体が痛かったようだが,その後下腹部が痛くなったとのこと。

「今はどこが一番痛いですか?」と訊ねると,下腹部やや右寄りを掌で押さえる。やはりアッペは絶対否定できないと確信。

直腸診は必須だと思ってやると,腹膜の圧痛点はどこにもない。子宮頚部の圧痛もない。いったん診察台から降りてもらったが,腹膜刺激症状をもう一回確認しようと思って,再度横になってもらって診察しなおした。Obturator sign,Psoas signは認めず。cough test陰性。そしてあらためてやったHeel drop testは陽性。

これらの所見から,おそらく骨盤腔の下の方へは向かわず腸腰筋には接していない部分にあるアッペの炎症なんだろうと考える。

「最初の方で,結構痛みがひどい時期があったのではないですか?」

「実はそうなんです。でも結婚式なんかが立て込んでいて忙しくて休めないし,痛み止めを飲んで我慢して仕事をしてました。」

「歩くと痛みが響いたんですよね?」

「ええ,あんまり痛いんで,そっ~と歩いていました。」

 

やっぱり・・・。1週間前に発症したアッペで,そのあと穿孔して痛みが軽くなったのではないか。ますます膿瘍形成が怪しい。

血液検査はオーダーするとして,画像検査は・・・まずエコーを最初考えたが,肥満体型を考えると,よく見えない可能性もある。時間がもったいないので,さっさと造影CTまでやったほうが得策だろうと判断。

血液検査を入力指示。このところ血液検査をしていなかったので腎機能が正常であることは確認したい。おそらく食事はとれていないだろうから,等張液で少し補液しておいたほうがいいだろうと判断。ラクテック2本(1000ml)輸液の指示をしておいて,腎機能を確認次第,腹部CTを至急でやってもらう手配をした。その後,他の患者を診察しつつ,○△さんの血液検査の結果が出ないか何度か確認するが,なかなか採血の結果が出てこない。

しばらくして看護師のNさんが,泣きそうな顔をしてすみませんと謝りに来た。ライン確保と同時に採血を取ろうとしたが,太っていて難しいのだという。それではと処置室に行ってみると,確かに血管が見にくい。たまたま手首の内側に血管が見えたので,そこに21Gアンギオカット針を挿入して,無事採血も終了。

しばらくして結果が出た。

WBC 7540, Hb 12.6, Ht 36.8, Pl 27.5, CRP 11.41

ここへきて白血球が正常であることは,まったく気にならない。CRPは上昇している。BUN 15, Cr 0.75で腎機能正常を確認できた至急で造影CTへ。

 

結果はやはりアッペの膿瘍だった。しかも虫垂はCTで想像したような位置にあった。

放射線診断医の読影レポート『S状結腸に接して,隔壁をともなう直径5cm位の低吸収域があり,膿瘍と考えられる』

これを見て,症状として下痢(正確にはテネスムス)があってもおかしくないのにとも思った。さっそく外科の先生に連絡して入院となった。入院後,エコーガイド下に膿瘍部分に穿刺ドレナージが試みられた。2-3日抗菌薬投与で,症状の改善があれば待期的手術の予定だったが,2日目に発熱があり症状の改善もないため手術となった。術後経過は良好で その後無事退院した。

 

<What is the key message from this patient?>

これは,はっきり言って会心の一例である。問診票の段階ではわからなかったが,病歴の早い段階でアッペが想起できて,経過から穿孔・膿瘍を疑うことができた。診察所見から病変の局在までイメージして,腹部CTでそれがほぼ確認できたという意味では,心の中でガッツポーズだった。そのつもりで病歴を見直すと,疾患の進行が想像できるようでとても教育的である。

いつもばっちり化粧をしている患者さんがホントに具合悪くてスッピンで来られた,文字通りスッピンな(SpPin)病歴であった。

 

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国立国会図書館を使ってみました!

2020-06-25 | 趣味趣味


以前から読みたいと思っていた大瀧詠一さんの記事が掲載された雑誌を,偶然ネットで見つけたのですが「結構な」お値段。自分などはそこまでのコレクターでもないし,記事一つのためだけに払う決心がつかず・・ふと思い立って国立国会図書館で検索してみました。

すると,ありました!!

著作権の問題で,ネットでの閲覧はできないけれど複写サービスを使えば,直接行かなくても読めるということが判明しました。途中,私の方の登録ミスのためメールで問い合わせをもらったり,最初のページは白黒だと文字が読めなくなる可能性があるのでカラーにしますか?とかわざわざ電話で連絡をいただいたりしましたが,きちんとしたお仕事にちょっと感動でした。

ようやくお願いした複写が届いて,読めました。いやさすが,国立国会図書館です。

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初回のMorning Report 生配信

2020-06-22 | 臨床研修


第1回「 Morning Report 生配信」が終了しました。技術的な反省を含めて記録として残しておきます。

開始直前に自分の MacBook ProをZoomのホストにして,iPhoneを参加者の一人として招待。これでホワイトボードをアップにして撮影する状態にして三脚に固定します。先週のテストでiPhoneに外部マイクを接続してみましたが,内蔵マイクと甲乙つけ難く,今回は外部マイクは接続しませんでした。何とか設定完了したので,午前8時ちょっと過ぎにいつも通りどおりのモーニング・レポートが始まりました。5名の医学生の皆さんが参加してくれました。β版でも参加してくれてありがたいことです。

iPhoneとMacBookが同じ部屋にあるので,近くにあると音声ではハウリングのようなことが起こります。このためMacをなるべく離れた机において私が操作しました。音声はイヤホンで聞きながら,プレゼン内容を補足するようにチャットに記入してゆきます。同じ部屋にいるのに,遠隔で参加しているような感じになりました。

Macの画面でみるとホワイトボードの文字は読みづらい。ギリギリ読めるかどうか。イヤホンで聴く音声は司会のN先生の声が聞こえるけれど,プレゼンの研修医T先生の声はほとんど判別出来ず。途中で参加の学生さんに,画面と音声の状態を聞いてみたところほぼ同じ意見でした。ホワイトボードの文字判別は厳しそう。音声は聞きづらいがチャットでの文字情報があれば,何とか内容にはついていけるとのこと。チャットでの臨床情報の補足は必須でした。

途中で「インターネット接続が不安定」と表示が出たりしましたが,何とか前半の30分経過。Zoomは無料プランなので,一旦接続しなおし。ここでトラブル発生。iPhoneで撮影したホワイトボードの画面が縦になったたま直らない。iPhoneを三脚から外してみて触っているうちにか回復。この間も普段どおりにカンファレンスは進行。

 

症例は,子宮筋腫の既往のある38歳の女性が,左下腹部痛を主訴に午前4時の救急外来を受診。自覚的には左下腹部痛を訴えるが,診察するとMcBurney点に圧痛があったという例。体温も正常で,どちらかというと自分も含めて経験のある先生ほど虫垂炎の可能性は低めに見積もる感じでした。血液検査ではWBC増多あり,終了間際の残り5分になって皆でCT画像を確認すると,何と急性虫垂炎の合致する所見あり! 一同「エ~ッ!?」となりました。患者本人の最初の訴えは左下腹部痛,でも診察すると右下腹部に圧痛点あり。やっぱり虫垂炎は難しい。

この症例からの教訓は「コモンな疾患の,非典型的な経過は常に考えるべき」。どんなときにも(特に若い人の)腹痛の鑑別診断には虫垂炎を外してはいけない,ということでしょうか。

自分で診察している訳ではないので,実際に自分で腹部を触診していたら印象は変わったかもしれませんが,やはり難しいですね。(だから臨床は面白いとも言えるのですが)

 

終了後,参加してくれた学生さんからZoomやメールで感想を聞かせてもらいました。画質や音声について改善する余地がまだまだありそうです。よい方法がないか試行錯誤してみようと思います。

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Webinarで話して感じたこと:覚え書き

2020-06-21 | 臨床研修


今回Webinar
をやってみて感じたことを覚え書きとして書いておきます。聴衆として参加したことがありましたが,プレゼンをする側としての参加は初めてでした。

Web配信は青木眞先生とやっている若手医師セミナーで何度も経験しています。でもZoomを使ったWebinarはそれとは全然違いました。今回たまたまだったのかもしれませんが,喋っている自分の様子も画面に表示されず見ることができませんでした。つまり自分がどのように見えているかも分からず,もちろんAudienceの様子も全く見えない状態の「完全一方通行」でしゃべることになりました。

これまで講演会の時には,病歴や身体所見の画像を,どちらかというと怒涛のごとく流してゆくスタイルでやってきました。でもその時にも聴いて下さる皆さんの顔や反応が見える状態だったわけです。ところが,今回は相手が全く見えない状態(しかも自分の様子をモニターすることもない)でやってみて感じたことがあります。

 ・相手の反応が見えないので,沈黙の時間が非常に長く感じてしまう
 ・何か話していないといけないんじゃないかという恐怖心(反応が見えないだけに不安になる)

これは今まで経験したことがない感覚でした。

実は,板金先生がすぐに処理して下さって当日のWebinarを動画で見直すことができました。自分が喋っているのをもう一度見直すのはあまり気分が良いものではないのですが,反省のために全部見直してみました。そこで感じたのは,

 ・沈黙というか間の時間は決して不快でもない,むしろ聴いている側からすれば必要な時間である
 ・話のペースとしては,ちょうど良いくらいで聞きやすかった

正直,これは意外な発見でした。これまで(対面での)講演会はもっと早いペースですっ飛ばしていましたが,少なくともWeb(Zoom)配信で話すときには,違うペース(ゆっくりめ)でやったほうが遥かにいい。これまで講演会で,結構な速さでしゃべってすっ飛ばしていたのは,聴いている方々にはまったく不親切だったのかな・・とチョット反省。

そんなことを感じた初めてのWebnarでした。

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第4回 適々斎塾Webinar

2020-06-20 | 臨床研修


適々斎塾Webinar「こんなときだからこそ病歴&身体診察を大切にしよう」が無事終了しました。

Audienceが目の前にいない状況で話すのは,直接反応が見えないので落ち着かないものです。スライドの進め方に手間取ったり,しゃべりにもたつきがあったり自分としては反省しきりですが,何とか終えることができました。300名以上の参加申し込みがあったそうでありがたいことです。

チャットでのやりとりも感覚をつかむことができて,来週のMorning Report生配信にも参考になりました。

 

最後のスライドには,以前山中湖で撮影した富士山と星空の写真を選びました。それだけだと何となく寂しいので,お気に入りのBABYMETALのArkadiaの一節を添えました。とかく辛くて下を向いてしまいそうなときに元気づけられる大好きなフレーズです。新型コロナで頑張っているすべての医療者への応援のように感じています。

今回のWebinarを通じて,休眠状態の大船GIMもオンラインで何とか再開を目指したいと強く思いました。

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