H's monologue

動き始めた未来の地図は君の中にある

使命の道に怖れなく どれほどの闇が覆い尽くそうと
信じた道を歩こう

何ともないです・・・

2012-03-08 | 身体診察


「やっぱり先生の言う通りでした!」

あるPMRの患者さん。診断してから2年越しにPSLを減量してきてもうすぐ中止に・・・と考えていた矢先。血沈が次第に再上昇してきた。でも患者さんが言うには,どこも何ともないという。このためしばらく経過をみていたが,血沈はさらに上昇してついには50mm/hrを大幅に超えた。それでも患者さんは,何ともない・・とおっしゃる。

これはもしや・・・と思い,

「自分で何ともないと思っていても,実はゆっくり症状がでているのに気づいていないだけかもしれませんよ。試しにPSLを増やしてみませんか・・・」

と説明する。でもせっかくここまで減ってもうすぐ中止になるのに・・と患者さんはPSLを再度増やすのには抵抗がある様子。

「じゃあ,試しにまずPSL5mgで1週間様子をみてみませんか?それでどう変わるか見てみましょうよ。」

1週間後に,再診すると,やっぱり身体が軽くなった気がするとのこと。予想通り,さもありなん。でも血沈は依然高いまま。やはり治療は不十分だ。これは一旦ちゃんと初期量まで戻したほうが得策と判断。

「やっぱりちゃんと最初の量(15mg)にもどしてみませんか?もっと楽になると思いますよ。」
「でも先生,もうこれ以上楽になることはないと思います。今ですら”何ともない”から・・」
「いや,気づいていないだけかもしれませんよ。もう1週間,こんどは15mgに増やしてもう1週間,様子をみませんか?それで変わらなければもとに戻すと約束しますから・・・」

ということでPSL15mgに増量して1週間後に再診。そこで冒頭の言葉。

「PSL15mgにしてから,これまで歩き始めて15分位すると腰が痛くなっていたのが全く何でもなくなった。すっと立ち上がって,すっと座ることができるようになりました。少し前はこうではなかった。だんだん悪くなっていたんですね。・・・」



  ー患者さんはね,真実を語っとるんですよ!ー

研修医の頃に学んだある指導医の先生の言葉である。これは常にその通り。患者さんの言葉はすべてそのまま一旦は受け止めなければならない。
しかしこの10年ほどの間に,患者さんから学んださらに重要なこと。

「ときに患者さん自身が,気づいていない症状がある。それはなくなって初めてその症状があったことを患者が”自覚する”」 ということである。このことに気づくために必要なことは想像力である。

患者さんの言葉の(あるいは言っていない言葉の)裏を考えることは難しい。しかし,それがうまく当たったときには,思わず心の中でガッツポーズをとるのである。
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