面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「わたしに会うまでの1600キロ」

2015年08月28日 | 映画
アメリカ西海岸を、メキシコ国境からカナダ国境まで南北に縦断する自然道「パシフィック・クレスト・トレイル」。
1,600キロに及ぶこの道の踏破に、たった一人で挑むシェリル・ストレイド(リース・ウィザースプーン)は、険しい岩山の上で束の間の休息を取ろうと、登山靴を脱ごうとして誤って谷底へと片方の靴を落としてしまった。
彼女は、「ふざけんな、バカ!」と叫び、もう片一方の靴も投げ捨ててしまう。

そもそも、この挑戦を始めたときから失敗の連続だった。
あれもこれもと詰め込み過ぎたバックパックはクソ重たくて、担ぎ上げるのにも一苦労。
初日から止めたくなったシェリルだが、いつも明るく笑っていた大好きな母・ボビー(ローラ・ダーン)のことを思うと力が湧いた。
子育てがひと段落した母は、シェリルと同じ大学に入学して文学を学んでいて、そんな母親が誇らしかった。

2日目に携帯コンロの燃料を間違って持ってきたことが分かる。
仕方なく火を通さずに冷たい粥をすすり、コンロを使わない食事を続けたが、その食料も8日目に尽きた。
トラクターで作業中のむさくるしい男を見つけて、街まで車に同乗させてもらおうとするが、男から自分の家に来いと言われて身構える。
しかしあまりの空腹に耐えきれずに車に乗り、自衛策を講じて必死に作り話をするシェリルが連れていかれた家には、男の妻が食事を作って待っていたのだった。
シャワーを借りて一息つくシェリルは、ふと腕の入れ墨に目をやり、夫のポール(トーマス・サドスキー)と離婚した日を思い出した。
絆として同じ刺青を彫った二人は、互いに愛していながら別れてしまったのは、シェリルの度重なる浮気が原因だった…


ハイキングでさえ行くこともなかったのに何のトレーニングもせず、3カ月をかけて1,600キロもの自然歩道「パシフィック・クレスト・トレイル」踏破に挑んだ女性、シェリル・ストレイドの大ベストセラーになった自伝を、リース・ウィザースプーンの製作・主演で映画化。
原作に惚れ込んだリースが作者のシェリルに直々に交渉して製作に取り組み、全てをさらけ出した自然で体当たりの演技で映画を作り上げた。

シェリルが歩みを進めるのに従って、なぜ彼女がこんな無謀な挑戦に臨むことになったのかが、徐々に明らかになっていく。
どんなに苦しい状況でも前向きで、優しく微笑んで楽しそうに歌っていた最愛の母親を亡くした喪失感があまりにも深く、優しい夫を裏切って、薬と男に溺れたシェリル。
これ以上の下は無いどん底まで落ちたとき、ふと目にした「パシフィック・クレスト・トレイル」のガイドブックを見て、衝動的にこのトレイルを歩くと決めたのだった。


人の一生は重き荷を負うて遠き道を往くが如し。
徳川家康が言ったとされる言葉だが、実際にこの言葉を地でいく体験が無いと、本当の自分とは出会えないものなのかもしれない。
とはいえ、本当に「重い荷物」たるデカいバックパックを背負わずとも、苦しい状況の中でも「なにくそ」と歯を食いしばり、もがきながらも一歩ずつでも前進し続けていると出会える“自分”がある。
シェリルの場合、母親が亡くなるという現実があまりにも重くて直視できず、逃げることしかできなかったが、「パシフィック・クレスト・トレイル」を歩くことで辛すぎる現実を離れることができ、大自然の中に我が身一つだけが置かれている状況の中で、ようやく“自分”に出会うことができたのだろう。

“自分”との出会い方は人それぞれだが、その出会いは人生を豊かにする。
“自分”に出会えることが大切であると同時に、出会えればそれはとてもラッキーなこと。
常人には、なかなか出会えるものではないのだから。

“自分”に出会えたシェリルはラッキーなのだが、その幸運をつかんだのは、踏み出した一歩の歩み。
苦しくても、とにかく前へ、前へ、前へ…


“自分”に出会うための一例を示す、ヒューマンドラマの佳作。


わたしに会うまでの1600キロ
2014年/アメリカ  監督:ジャン=マルク・ヴァレ
出演:リース・ウィザースプーン、ローラ・ダーン、ミヒル・ホイスマン、ダブル・アール・ブラウン、ギャビー・ホフマン、ブライアン・ヴァン・ホルト、クリフ・デ・ヤング


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