面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「その土曜日、7時58分」

2008年11月01日 | 映画
ある土曜日の朝7時58分。
ニューヨーク郊外にある、老夫婦が経営する小さな宝石店に強盗が押し入った。
店番をしていた女性店員が、隙を見て店に常備していた拳銃で強盗を撃つが、彼女もまた犯人から撃たれてしまう。
慌てて逃げる共犯者・ハンク(イーサン・ホーク)の車。
強盗の3日前、彼は兄のアンディ(フィリップ・シーモア・ホフマン)から、両親が経営する宝石店への強盗計画を持ちかけられていたのだった。
離婚していたハンクは、娘の養育費の支払いが滞り、娘にまで「ダメ親父」と罵られるほどに金に困っていた。
一方、不動産会社で総務の責任者となっていたアンディは、一見贅沢な暮らしをしていたが、ドラッグに溺れて会社の金に手を出し、露見寸前となっていた。

土曜日の朝、店員は老婦人が一人だけだから押し入っても抵抗することは無い。
強奪した売上金と宝石類は保険で補償される。
誰も傷つかず、自分達の懐には金が転がり込んでくる完全犯罪の計画。
…のはずだった。
兄弟二人だけで実行するならば。
しかし実行に怖気づいたハンクが、知り合いを引き入れたことから計画は狂ってしまう。
更に二人は、強盗が失敗しただけでなく、撃たれたのが母親だったと知り愕然とする…

よくある「完全犯罪モノ」は、まずは犯行が成功したあとに少しずつ綻びが出て、最後に実行者達は破滅するというパターンが基本だが、本作は始めから全て『悪い選択』を繰り返し、兄弟がとことん追い込まれていく。
一つのシーンについて、登場人物ごとに現在と過去とを行き来し、螺旋階段を下りていくように“負のスパイラル”に陥る兄弟がもがき、あがき続けるストーリー展開に、スクリーンから目が離せない。

人間の“弱さ・脆さ・危うさ”がヒリヒリと痛いほどに伝わってきて、こちらまで息苦しさを覚える。
仕事でイヤなことがあったとか、何がしかブルーな気分で観ると、更に気持ちが重くなる危険性を感じたが、そこが本作の凄みであり、シドニー・ルメットの面目躍如。

ひとつの綻びが、繕うことができないまま加速度的に拡大し、全てが悪い流れへと落ちていく兄弟の様子は、それを客観的に観ている分には「しょうがねぇなぁ、こいつら…」と、苦笑・嘲笑させられる喜劇だ。
「人の不幸は蜜の味」という言葉があるが、兄弟に感情移入するのではなく、あくまでも第三者目線…朝のワイドショーを楽しむおばちゃん目線で客観的に観ると、「さあ次は、どう悪くなる?」と、ある種のワクワク感が得られるだろう。
従って本作をご覧いただく際には、決して感情移入することなく、客観的な視線、それも「ワイドショー視聴者目線」に徹することが、本作を堪能できるコツである。
ちなみに自分は「登場人物感情移入型」の鑑賞でツボを踏んでしまった…

米朝がよく落語の中で言っていたセリフ、「弱り目に祟り目、泣きっ面に蜂、貧すりゃ鈍する、藁打ちゃ手ぇ打つ、便所行きゃあ先に人が入っとおる!」の映像化!
…て言うても、落語愛好家にしか分からんわなぁ(苦笑)


その土曜日、7時58分
2007年/アメリカ  監督:シドニー・ルメット
出演:フィリップ・シーモア・ホフマン、イーサン・ホーク、マリサ・トメイ、アルバート・フィニー、ブライアン・F・バーン


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