面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「僕たちは世界を変えることができない。 But, We wanna build a school in Cambodia」

2011年10月05日 | 映画
医大生のコータ(田中甲太・向井理)は、ごくごくフツウに大学生活を送っていたが、何となく“何か”物足りない思いに駆られていた。
ある日、郵便局でとあるパンフレットを手にする。
それは海外支援案内で、そこにはこう書かれていた。
「あなたの150万の寄付でカンボジアに屋根のある小学校が建ちます。」
コータの中で何かが弾けた。

知り合いに片っ端からメールを飛ばした。
「カンボジアに小学校を建てよう!」
何だかワクワクして心が躍るコータだったが、彼のもとに集まったのはたった3人。
いつもツルんでる仲間の芝山(柄本佑)と矢野(窪田正孝)、そしてコンパで知り合った本田(松坂桃李)。
しかし妙に行動力のある本田の力を借りながら、学生サークル「そらまめプロジェクト」を立ち上げ、チャリティーイベントを開催。
人集めのために慣れないナンパをしてみたり、地道に学内でビラを配ってみたりと行動に出るが、思うように活動は盛り上がらない。

一回目のイベントは本田の尽力でなんとか成功。
しかし、そもそもカンボジアという国のことを何も知らないコータたちは、スタディツアーと称してカンボジアへと飛んだ。
到着したカンボジアでコータたちが目にしたのは、東南アジア最貧国における厳しい現実だった。
クメール・ルージュによる虐殺の傷跡、蔓延するHIV、そして地雷原の中で遊ぶ子供達の姿…
自分達の想像を絶する現実に、うなだれて帰国したコータたちを、更なる不幸が襲う。
なんとイベントに協力してくれたIT企業の社長が、違法取引の容疑で逮捕されてしまい、それと同時に「そらまめプロジェクト」に対する評判もガタ落ちしたのだ。
せっかく集まったサークルメンバーも仲間割れを起こして次々と離れていき、コータ自身も大学の単位を落としてしまう。

「ほんとうは何がやりたかったんだろう?」

絶望に打ちひしがれる中でコータは、カンボジアで見た子供達の純粋な笑顔を思い出す…


大学生活は、自ら動かなければ何も始まらないし、自ら望まなければ何も得られない。
学校(大学)や先生(教授)が何かを与えてくれる場ではない。
主人公のコータは、医師を目指して医大に入学したはずだが、毎日のんべんだらりと“無目的”に過ごしている。
命を救う使命感に燃えて医者になる!という決意を抱いているようには到底見えない。
医大に入学して目標を達成してしまったことで、医大に入った目的を見失ったかのようだ。
そして自ら何か動こうとするでもなく、ただ日々を何となく過ごしていた。

彼にとっては、そもそも医大に入る目的は「医師になること」ではなかったのかもしれない。
そんな学生はどこにでもいる。
自分の学生時代を振り返っても、特に何をするでもなく漫然と学生時代を送り、淡々と社会人になっていった連中もたくさんいた。
それは今も昔も変わらないはず。
それを責めるものではないが、しかし何か目標や目的をもって学生時代を送る方が、きっと楽しくて充実しているに違いない。
少なくとも自分はそう思ったものだった。

コータは「カンボジアに小学校を建てる」という目標を得た。
そして現地に実際に足を運び、子供達にしっかり教育を受けさせるのだという、「小学校を建てる」目的も明確になる。
それからのコータの“躍進”は目覚しい。
自ら動き、自ら望んで行動に出ることで様々な体験をし、その体験を通じて自分を見つめ直し、自分なりに社会との関わり方を身に付け、彼は人として大きくなっていく。
ひとりの若者が、真っ直ぐに成長していく姿を見守るのは気分のイイもので、それが本作の心地よさとなっている。


葉田甲太が自らの経験を綴った同名原作の映画化。
向井理他の若手俳優たちが、現実に立ち向かいながら友情や恋に悩む大学生の姿を、等身大に生き生きと演じて清々しい。
カンボジアに飛んでポル・ポト政権時代の収容所跡を訪問するシーンでは、彼らのリアルな感情がそのまま映し出され、さながらドキュメンタリーを見ているよう。
しかしその様子に共感し、彼らと思いを共有して、カンボジアが見舞われた悲劇の歴史と厳しい現実の中に、自分の身を置くことができる。

ほんの思いつきから始めたプロジェクトをきっかけに、自分の無力さを思い知りながらも仲間と共に力を合わせて突き進みながら、自分自身と社会の現実を見つめ直していくコータの成長物語。
あの「エクスクロス~魔境伝説~」の深作健太監督が、こんな真っ当でストレートな青春映画を作ったことに驚いた!


僕たちは世界を変えることができない。 But, We wanna build a school in Cambodia
2011年/日本  監督:深作健太
原作:葉田甲太
出演:向井理、松坂桃李、柄本佑、窪田正孝、村川絵梨