面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「MADE IN JAPAN こらッ!」

2011年10月27日 | 映画
杉田雛子(大西礼芳)の祖母・妙(松原智恵子)が亡くなった。
父・完治(山路和弘)は引きこもり、妙の遺影の前で酒を飲む毎日。
そんな父親の姿に呆れながら、母・春子(松田美由紀)はホームヘルパーにいそしみ、雛子は淡々と牛乳配達のバイトを続けていた。
雛子は、配達先のドアホンを鳴らすいたずらを繰り返してクレームを受けるが、一向に意に介さない。
春子は、雛子の同級生で足が不自由な健一(関屋和希)の介護にのめり込んでいく。
そしていつまでも母親の死が受け入れられず、妙が着ていた服を身につけ、化粧までするようになる。
祖母の葬儀を境に、これまで表に現われていなかった“歪み”が露呈し始め、家族が崩壊していく…


何事にも無関心な様子の雛子。
引きこもる父親にも、家から逃げるようにしてホームヘルパーに打ち込む母親にも無関心な態度をとるが、常にイライラして落ち着かず、八つ当たりのような行動にでる。
実家には居場所が無いと嘆く雛子は、親友の珠子(伊藤菜月子)にだけは胸の内をぶつけるのだが、同情した珠子が雛子に居候を許すと、勝手に冷蔵庫の中のソーセージを食い散らかすわ、部屋の壁に絵は描くわとやりたい放題。
結局、珠子の怒りを買って部屋を放り出されてしまう。

完治は、母親の面影を追い続けるばかりで、春子のことも雛子のことも気にかけない。
その姿に怒りを覚えつつもグッと飲み込み、家族の中心にいた春子だったが、亡くなった妙が生前から自分のことをないがしろにしていたことを完治に聞かされると、我慢の限界を超えて感情を爆発させて家を出て行き、健一のもとへと転がり込む。

家族である三人が三人とも、それぞれの好き勝手な思いの中で生きている。
亡くなった妙もまた、実の息子に対する溺愛の中だけで生きていた。
誰も彼も自分の思いをぶつけるばかりで、お互いを受け入れる余地が無い。
そこには、本来家族が持つべきである“無償の愛”は存在せず、家族の絆は細すぎて見えない。

人は、自分の存在価値を人から認められたいと強く思うが、相手の存在価値は中々認めないもの。
家族といえども、その思いは変わらない。
いや、自分に最も近い存在である家族だからこそ、自分を認めて欲しいという思いはより強く、相手に認められないときの絶望感は大きい。
自分の存在価値を唯一無二のように認めてくれていた妙の死によって絶望した完治が、家族崩壊への引き金を引いた。
自分と母親によって保たれていた「杉田家」が無くなったことで、自分が築いたはずの次の「杉田家」を消滅させてしまったのである。
いや、そもそも完治の中に、次の杉田家など無かったのかもしれない。


コミュニケーション不全に陥った家族が壊れていく様子を、可笑しく悲しくドライに描いた、イマドキのホームドラマ。
どの家族にも内包されている可能性のある問題点をデフォルメして見せてくれる佳作。


プロと学生が共同で映画を企画・製作していくという、京都造形芸術大学映画学科のプロジェクト「北白川派映画芸術運動」から生まれた、北白川派第二弾の作品。
毎年1本の劇場公開作品を完成させて発表していくというこのプロジェクト。
第一弾は木村威夫監督の「黄金花-秘すれば花、死すれば蝶-」(2008年)、第二弾の本作に続いて、第三弾として山本起也監督作品「カミハテ商店」(主演:高橋恵子、寺島進)が製作されている。
将来の映画界を背負って立つ人材の輩出に期待したい。


さて上映後、主演の大西礼芳さんの舞台挨拶とサイン会が開かれるなどとは露知らず、フツウに興味をもって仕事帰りに観に行った。
出演者だけでなく、製作スタッフにも50名にのぼる学生が起用され、助監督や撮影・照明・録音の助手、美術スタッフやメイクなどに活躍したという本作は、作るだけではなく観せるまでが映画であるとして、配給・宣伝も学生が手がけている。

非常にたどたどしく始まった舞台挨拶が微笑ましい。


撮影は、礼芳さんが1回生のとき。
本来は新入生が入ることのできない“授業”(いわゆる「科目」みたいなことか)だったが、周りの勧めによりオーディションを受けたところ、高橋監督の眼鏡に叶って大抜擢。
演技についての勉強はおろか、小学生のときに学芸会みたいなものでチョロっと端役をやった程度でしかなく、全く自信は無かったようで。
しかし高橋監督曰く、彼女よりも上手い学生は他にもいたが、「これぞ雛子」と“放つもの”があったという。
確かにスクリーンの中の彼女は“雛子”そのもの。
独特の存在感は、もって生まれたタレント(才能)であり、非常に貴重なもの。

舞台挨拶後、劇場ロビーに出たところで松村支配人がいらっしゃったのでご挨拶し、パンフレットを購入してサインをもらっただけでなく、少しだけ取材をさせていただいた。
まずはパンフレットに、大西礼芳さんにサインをお願い。


まだまだ不慣れで、最初は名前だけ書いた礼芳さん、松村支配人から
「こういうときは日付を入れて、座右の銘とか書くねんで」
とアドバイスを受けて追記。
「好きです」と書くセンスが面白い。
さすが高橋伴明監督が、その存在感から抜擢しただけのことはある。

貴重な礼芳さん近影。


若松孝二監督作品への出演も決まっている彼女。
写り具合イマイチな写メにて、未来の大女優に大変失礼をいたしまして、誠に申し訳ありません…
そしてプロモーション・スタッフの皆さん。
(もう、ホンマ写りが悪くてすみません…)


もちろん皆さん、京都造形芸大の学生さん。
礼芳さんは、主演を務めただけでなく、プロモーションにも参画。
本作の広報宣伝活動は、これも授業の一環であるところがいかにも「映画学科」。
手作り感いっぱいの活動に温かいご声援を!


MADE IN JAPAN こらッ!
2010年/日本  監督:高橋伴明
出演:松田美由紀、大西礼芳、山路和弘、浅見れいな、関屋和希、松原智恵子