面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「明りを灯す人」

2011年10月12日 | 映画
キルギスのとある田舎にある小さな村の電気工。
彼は村人たちから「明り屋さん」と呼ばれている。
「明り屋さん」は、アンテナの調整や電気配線の修理など、どんな些細な用事でも自転車でかけつける。
時には、裕福ではない家の電気メーターを細工して、無料で電気を使えるようにしてあげたりもする。
村人たちの暮らしを第一に考える、みんなから愛される純朴な男だ。
そんな「明り屋さん」の夢は、風車を作って村中の電力を賄うことと、息子を授かること。

1991年のソ連崩壊と共に独立国家となったキルギス共和国は、常に政情不安の状態にある。
今日もラジオから、首都における政治的な混乱を伝えるニュースが流れるが、その混乱は、のんびりと穏やかに時が流れる片田舎の小さな村にも影響を及ぼしてきた。
村出身の男がやってきて、国会議員となる自分を支持するよう集会を開いた。
「村を豊かに」と訴える彼に対して、己の私腹を肥やそうとしているだけだ!と反発する村長や村人たち。
しかし「明り屋さん」は、「風車を作って村の電力を賄う」という夢をかなえるべく、親友の親戚でもある彼に近づくが…


我々一般市民にはあまりなじみの無い中央アジアの小国・キルギス共和国の小さな村を舞台に、政情不安が続く国の混沌に揉まれながらも、希望を失わず、生まれ育った土地を大切にしながら平和に生きる人々の姿を描く。
遠景にそびえる天山山脈の山並みと青く澄んだ空、広がる平原が織り成す雄大な風景が美しい。
アクタン・アブディカリコフ監督が、アクタン・アリム・クバトのキルギス名で主演、脚本を兼任、遊牧民の流れを汲む独特の文化を守りながら慎ましくもほのぼのと暮らす村人たちの生活を忠実に描いて興味深い。

穏やかな人々の営みと、純朴な「明り屋さん」の日常を掻き乱す、私利私欲にまみれた「都会人」たち。
モンゴロイド系の親しみやすい主人公の顔に心が和みつつも、市場経済の発展が本当に人々に幸せをもたらすのかを改めて考えさせられる、素朴な味わいのヒューマンドラマ。


明りを灯す人
2010年/キルギス=フランス=ドイツ=イタリア=オランダ
監督:アクタン・アリム・クバト
出演:アクタン・アリム・クバト、タアライカン・アバゾバ、アスカット・スライマノフ、アサン・アマノフ、スタンベック・トイチュバエフ