面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「てぃだかんかん~海とサンゴと小さな奇跡~」

2010年05月13日 | 映画
金城健司(岡村隆史)は、いつも友達と遊びに行く浜辺で、磯だまりに首を突っ込んでは時を忘れて海の生物を見ている少年だった。
そんな健司の姿を見るのが好きだった、幼なじみの由莉(松雪泰子)。
健司は様々な職業に就くが、何をやってもうまくいかない。
事業の失敗で抱えた借金を返すために名古屋で働いていたが、海が恋しくなり、同じく名古屋で働いていた由莉を連れ、結婚するために故郷の沖縄へと帰ってきた。

母の花江(原田美枝子)に、
「結婚は、男が一生を賭ける仕事を見つけてからだ!」
と大反対された健司は、珊瑚を入れた水槽のあるバーを開くことを思いつく。
友人の啓介(伊藤明賢)が経営するダイビンングショップの倉庫を勝手に改装して立ち上げたバーは思いのほか大繁盛。
健司は晴れて由莉と結婚する。

二人の子供にも恵まれた健司は、順調に店を増やすことができ、事業が軌道に乗った頃、啓介を手伝って久しぶりにダイビングをして愕然とする。
海底の珊瑚が、真っ白になっていたのだ。
「白くてキレイ!」と珊瑚を見て喜ぶ観光客を横目に、健司は呆然としていた。

借金返済完了と4号店オープンを祝う席で挨拶を促された健司は、集まった仲間や家族を前に宣言する。
「今日で店を全部やめます。」
順調だった事業からいきなり手を引いて、今度は珊瑚を養殖して海に移植するという計画を決意したのだった。
「子供たちに、きれいな海を見せてやりたいわけよ。」
母は激怒して健司をぶん殴り、バーの開店からずっと応援してきた友人達は唖然とするが、由莉だけは「健ちゃんなら、きっとできるよ」と優しく微笑むのだった…

「キレイな珊瑚の海を、愛する妻と子供たちに見せてあげたい」という、ただそれだけの思いで、それまでの事業を転換し、誰もやったことのない珊瑚の養殖と移植に挑んだ、金城浩二氏の実話を基にしたストーリー。
海洋学者でも海洋生物の専門家でもない、生まれ育った海が大好きなだけのごく普通の男が、世界初の養殖珊瑚の移植・産卵を成し遂げた奇跡を描く。

久しぶりに故郷へ戻ってきた健司。
子供の頃と全く変わっていない様子に友人達は呆れつつも、いい大人になっても子供の頃と全く変わらない、海の生物がとにかく大好きで、沖縄の海をこよなく愛する真っ直ぐな姿に惹かれ、支援する。
自分の夢に向かってひた走る健司に、自分達が失った夢を託しているのだろう。
しかし健司は、事業の途中でうまい話に踊らされた挙句に騙され、再び多額の借金を作って家族を困窮の極みへと陥らせたことで自責の念に駆られる。
そして打開策としての開発計画に乗り、美しい海を取り戻すことを断念するという“オトナの判断”をしようとしたとき、妻の由莉にぶん殴られる。
「珊瑚は、あんただけの夢じゃないんだよ!」
健司の夢を一番信じ、夢を追う姿を一番愛していたのは、いつも近くで見守ってきた由莉だったのだから。
子供の頃から見てきた後ろ姿そのまんまの健司のことを、ずっと見てきて愛してきたのだから。

世界初の奇跡は、周りから愛された雑念の無い“少年の心”と、周りを動かす純粋で一途な思いがたどった軌跡だった。
子供がそのまま大きくなったオトナという健司の雰囲気に、岡村隆史がそっくりそのまんま見事にマッチしていて、まるで「うちなんちゅ」ではないかと思うくらいの好演。
とても茨木のコとは思えないほどのハマり具合で、好演・熱演というよりも、「健司そのもの」がそこにいる。

雑念なく純粋に健司を見守ることで、自分の心もほんわか温まり、心の中が「てぃだかんかん(太陽がかんかん照り)」になる佳作。


てぃだかんかん~海とサンゴと小さな奇跡~
2009年/日本  監督:李闘士男
出演:岡村隆史、松雪泰子、吉沢悠、國村隼、長澤まさみ、渡部篤郎、原田美枝子