面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

平成版「椿三十郎」に思う

2007年12月10日 | 映画
「椿三十郎」の記事に早速コメントをいただき、恐縮している次第…。

本作はオリジナルの台本を全くいじらずにリメイクし、現在の俳優を使って作品を“焼き直し”ているのだが、この手法はある意味で「アリ」ではないだろうか。
すなわち、優れた脚本をそのままリメイクすることで、映画制作における人材育成を図るという意味でである。

督や脚本家、演出関係者は優れた脚本を読み込み、映像としてオリジナルに忠実にかつテイストを損なわずに表現することで、映画制作スキルが磨かれるのではないだろうか。
出演者は、優れた台本のセリフまわしや所作を通して、演技力が磨かれるのではないだろうか。
特に時代劇におけるエッセンスの吸収に有効ではないだろうか。

映画制作スタッフと映画俳優の育成という目的をもって、過去の優れた作品を「そっくりそのままリメイク」するというのは、日本映画の将来を明るくする可能性が秘められている気がする。


「椿三十郎」

2007年12月10日 | 映画
藩の上役が不正をしていることを、おじでもある城代家老(藤田まこと)に直訴した井坂伊織(松山ケンイチ)。
しかし城代家老は「そんなことはお前達に言われる前から分かっていた」と言いながら、自分が黒幕かもしれない、本当に悪いヤツはとんでもないところにいるもんだ、などと告訴を一蹴した。
話を大目付(西岡徳馬)へと持っていくと、協力するので皆と話がしたい、仲間を寺に集めておくようにと指示が出された。
さすが大目付様、話がわかる!と喜ぶ、井坂を筆頭とする9人の若侍たち。
そこへ寺の奥から、話を盗み聞いていたと、一人の浪人(織田裕二)が現れる。
大目付が怪しく、城代家老はなかなかの人物だという謎の浪人に異議を唱えた9人だったが、気が付けば寺は十重二十重に取り囲まれていた。
やはり黒幕は大目付!
うろたえて切り込んで行こうとする若侍を押しとどめ、一人で窮地を切り抜けた浪人は、なかなかの人物のようだ。
行きがかり上9人を助けることになった浪人は仲間に加わることに。
彼は自らを、椿三十郎と名乗った…

言わずと知れた黒澤明の名作を、台本に一切手を加えることなく、セリフは全く同じ、画面の中もほぼ忠実に再現している。
元の脚本が素晴らしいのだから、映画自体が面白くないはずがない。

しかし、観終わった後の、ただ“モノマネ”を観ただけのような虚無感。
リメイク作品は原作と比較されて当たり前、原作が名作であればあるほど、評価は厳しいものとなる。
そこに果敢に挑んだ姿勢があるならば、なぜもっとオリジナルに無い場面なり映像を魅せてくれなかったのか?

古い話で恐縮であるが、「家族ゲーム」で意表を突いた森田監督とは思えない、冒険心、野心が画面からは伝わってこなかったのが残念至極。
敢えて言うなら、凄まじい血しぶきで有名な“最後の決闘シーン”を、至極淡々と、そして“イマドキ風”に撮ったところがチャレンジか。
(しかしあれがチャレンジであるならば、いかがなものか…)

あるいは、本作でチャレンジしているのは、織田裕二だけかもしれない。
とはいえ、織田裕二の妙な力の入ったセリフまわしには辟易とした。
三船敏郎の三十郎は、独特の威圧感があり、迫力があった。
しかしそのセリフまわしは逆に淡々としていて嫌味がなく、切れ味鋭い大人物をさりげなく演じきっていて、安心してみていられる。
一方、“顔の軽さ”をカバーしようとするのか、口の中にまんじゅうでもつまっているかのような、織田三十郎のモグモグ口調はどうだ。
角川春樹は、時代背景も異なる今の観客に受け入れられやすいよう、ギラギラしないヒーローとしての椿三十郎を彼に託したとのことのようだが、大病を患った影響で遂にヤキが回ったか?

高度経済成長期に制作されたオリジナルでは、血気盛んで真っ直ぐな若手社員を、経験豊かで能力も高く、威圧感を漂わせつつも温かく力強く引っ張っていく、野性味のある先輩社員。
こなた平成の「椿三十郎」では、ぬるま湯のなか、勉強だけはできて真っ直ぐ育ってきたボンボン若手社員を、クールに颯爽と、適度な距離感を保ちながら後輩の成長を見守りつつ一緒にプロジェクトを遂行する、見た目もスマートな先輩社員。
椿三十郎を、本作のコピーになぞらえて、その時代を反映するキャラクターとするならば、そんなところではないだろうか。
であれば、オリジナルの三船敏郎はそのまま適役であるし、21世紀初頭の三十郎は、堤真一の方が適任だっのではないかと愚考する(京極よりハマるんじゃないか?)。

一方で、室戸半兵衛のトヨエツと、井坂伊織の松山ケンイチはハマっている。
この二人は、正に今風の“室戸”と“伊織”を体現していて、これは角川春樹の狙いどおり(!?)
小林稔侍、風間杜夫の小役人ぶりや、佐々木蔵之助の飄々としたコミカルな演技、藤田まことの狸オヤジの雰囲気も面白い。
と、周りが達者なだけに、より一層織田裕二の力みぶりが痛々しい。

オリジナルをご存じの方は、観てぜひ感想をお聞かせいただきたい。
「『椿三十郎』てどんな映画?」という方は、まずはどんな物語であるかを確認できるので、観ておくべし。
ただし、オリジナルを観るのはその後で。


椿三十郎
2007年/日本  監督:森田芳光
出演:織田裕二、豊川悦司、松山ケンイチ、鈴木杏、村川絵梨、佐々木蔵之介、風間杜夫、西岡徳馬、小林稔侍、中村玉緒、藤田まこと