青山潤三の世界・あや子版

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ヘツカリンドウ(辺塚竜胆)とアズキヒメリンドウ(小豆姫竜胆)-3

2011-01-11 15:34:24 | 屋久島 奄美 沖縄 八重山 その他
Swertia tashiroiの2つの系統について Ⅲ


大和と琉球と大陸のはざまで~屋久島はどこにある?[11]


(以前に載せたことのある内容を一部改定・追加したものです。再編の途上なのですが、時間が無いので、とりあえずそのまま掲載しておきます。)

まず、ヘツカリンドウとはどんな植物かを説明しておきましょう。南日本に固有の、リンドウ科センブリ属の野生植物。北は鹿児島県の大隅半島や甑島から、屋久島、奄美大島を経て、南は沖縄県の沖縄本島や久米島に至る地域に分布しています。八重山諸島(石垣島・西表島)産は、ヘツカリンドウと同一種に含める見解や、近縁別種のシマアケボノソウとする見解(その場合、台湾産と同一種に含める)があります。

「ヘツカリンドウ」の和名は最初に発見された大隅半島辺塚にちなんで名づけられた名前で、「リュウキュウアケボノソウ」「オキナワセンブリ」の別称もあります。リンドウ科の中では、漢方薬で馴染みのセンブリに近縁です(ヘツカリンドウが漢方として利用されているか否かについては定かではありません)。どちらかといえば北国に多いこの仲間としては、珍しく南国の花。葉が大きく幅広く厚ぼったいことや、花弁の蜜腺に蟻が群がる(ときには径1㎝ほどの小さな花に7~8頭ひしめきあっている)ことなどは、他の種に見られぬ特長といえます。

名のとおりリンドウの仲間には違いないのですが、一見とてもリンドウには見えません。まずリンドウにしては草丈が高い。大きいものでは1m近くにもなります。茎は多数枝分かれし、周りの風景に溶け込んで存在がよく分からない。地表にへばりついた葉だけは良く目立ち、大きく広く厚ぼったく、怪異ともいえます。花はとても小さく、そして下向きに咲きます。見えるのは花弁の背中側で、ガク片同様に地味な緑色をしています。おまけに、(屋久島産に関しては)花弁の内側が濃い蝦茶色で、薄暗く湿った樹林内では、ますます目立ちません。それ以外の地域に産する明るい色の花も、回りの風景の中に溶け込んでしまって、目の前にあっても気がつかない。

この植物の存在を前もって知っていて、顔を近づけて下から覗きこみ、そこではじめて“なるほど、こんな花があったのか”と気付くのです。リンドウの仲間だけのことはあります。意外に美しいのです。

そして、後述するように、(奄美大島産や沖縄本島産に関しては)たぶん日本産の野生の植物ではNo.1ではないかと思われるほどの、多様な変異に富んでいます。ひとつとして同じ模様の花は無いと言って良いほど、同じ場所に生えている株でも隣の株同士で全く色彩や斑紋が違っていたり、同じ株でも違う形の花が咲いていたりもします。そのうえ、それぞれの花が、なんとも可愛らしく、とびきり美しく魅力的なのです。まるで森の中の宝石箱。

一般には余り知られることのない植物でしょうけれど、それぞれの産地では、冬の風物詩として自然愛好家に結構人気が高く、毎年冬になると、この花を見に山々を探索するのが、一部の人々の間で恒例となっているようです。

生育地は、山間部の原生林中だったり、町の近くの公園や神社の歩道沿いだったり、様々です。分布域中においては、決して珍しい存在というわけではないのですが、生育ポイントは、かなり限られているようで、なかなか出会う機会には恵まれません。そのうえ、上記したように、周辺の風景の中に紛れ込んでしまっているので、花が咲いていても気付かずに通り過ぎてしまうのです。僕自身、未だに、確実な生育環境を把握し得ていません。共通項は、土が露出している傾斜地、人為の手の入った開けた環境では、終日直射日光の当たらない側の切通し則面といった傾向が見てとれます。

屋久島では各所に見られるようです。私の主な観察地は、モッチョム岳下半部の標高200~500m付近。鬱閉した林内の登山道脇に、草丈1m近い個体が散在しています。ちなみに、標高の高い大株歩道などに生える個体は、草丈数㎝、葉も小さくコンパクトで、一見した感じは、他の小型リンドウ類と余り変わりません。開花盛期は、モッチョム岳中腹で11―12月。ただし同じ場所で、4月末に開花株を撮影した年もあります。大株歩道では、夏の盛りにも見られます。

奄美大島の湯湾岳や、沖縄本島ヤンバル地域(与那覇岳ほか)の原生林でも、屋久島モッチョム岳同様に、鬱閉した林内の、常に水の流れを伴うような湿潤な登山道脇に生えています。これらの場所では、草丈の高い、茎の分岐が顕著な、大型の個体が中心となります。一方、奄美大島の旧・名瀬市街地に接したオガミ山や近隣の耕作地周辺、沖縄本島では与那覇岳中腹の森林公園など、人為の手が入った地域では、やや開けた環境の、路傍脇の湿った傾斜地に見られます。

草丈・葉の大きさ・形・質などは、同じ産地でも微環境ごとに顕著な差異が生じ、背丈ほどの茎の根際に広く分厚い葉を付ける個体から、コンパクトな葉の茎高数センチの個体まで、様々です。

名瀬市街地周辺では、1月上旬の時点でも開花盛期を保っているのに対し、湯湾岳では、1月上旬には完全に花期を終えていて、すでに10月中旬頃から開花しているものと思われます。沖縄本島の与那覇岳では12月下旬頃が開花盛期、ただし中部の石川岳では、11月が開花盛期と思われます。

ちなみに、大隈半島南部産と沖縄本島中部の石川岳産は、変異のほとんど無い、地色が白色(帯淡緑色)の個体で占められています。奄美大島や沖縄本島でも、稀に単調な白色の個体は見られますが、著しく多様な変異の一端でしかありません。しかるに、この両地域産は、僕の知る限り(前者はネットでの検索)全て白色個体なのです。分布の北限近くと南限近くに当たるこの両地域の共通性が、偶然なのか否か、今後の検討課題です。



①ヘツカリンドウ(アズキヒメリンドウ)の葉とカンツワブキの葉(右) 屋久島



②【生育環境】屋久島モッチョム岳(アズキヒメリンドウ)



③【生育環境】伊平屋島賀陽山(アズキヒメリンドウ)



④【生育環境】沖縄本島与那覇岳森林公園



⑤【生育環境】沖縄本島与那覇岳森林公園



⑥【生育環境】奄美大島名瀬おがみ山



⑦【花のサイズ】下右2枚:伊平屋島(アズキヒメリンドウ)、下左:沖縄本島石川岳、その他は沖縄本島与那覇岳森林公園。

















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