青山潤三の世界・あや子版

あや子が紹介する、青山潤三氏の世界です。ジオログ「青山潤三ネイチャークラブ」もよろしく

大和と琉球と大陸のはざまで~屋久島はどこにある?(3)

2010-12-22 13:45:42 | 屋久島 奄美 沖縄 八重山 その他
ヘツカリンドウ7つの謎 2



伊平屋島での本来のテーマは、トカラアジサイ。

トカラアジサイは、野生アジサイの一種で、園芸アジサイの母種であるヤマアジサイ(ガクアジサイほか幾つかの下位分類群を含む)とも交雑が可能な、ガクウツギの一群です。屋久島産のヤクシマコンテリギと統合する見解や、種の範囲を広くとり、(ヤクシマコンテリギ共々)中国大陸や台湾産のカラコンテリギと同一種に含めてしまう(さらには日本本土産のガクウツギとも統合する)見解もあります。僕は、基本的には、統合論者(ランパー)と言って良いのですが、そのための1段階としての細分は必要な過程であると考えているので、ここでは、ヤクシマコンテリギやカラコンテリギやガクウツギと切り離し、(暫定的に)独立分類群トカラアジサイとして話を進めて行きます。

トカラアジサイ(≒ヤクシマコンテリギ≒カラコンテリギ≒ガクウツギ≒ユンナンアジサイ)の分布は、以下の通りです。

本州西部~九州(ガクウツギ・コガクウツギ)
屋久島:ヤクシマコンテリギ(山上部にコガクウツギ)
【種子島には欠如】
三島列島(黒島)
口永良部島
トカラ列島各島(口之島~宝島)
【奄美大島には欠如】
徳之島
沖永良部島
伊平屋島
【沖縄本島には欠如:類縁のやや離れたリュウキュウコンテリギが分布】
石垣島&西表島(ヤエヤマコンテリギ)
台湾(カラコンテリギ)
フィリッピン・ルソン島(カラコンテリギ?)
中国大陸南~南西部(カラコンテリギ・ユンナンアジサイ)

この分布様式には、どんな意味があるのでしょうか?

それ以前に、伊平屋島のトカラアジサイは、果たして真のトカラアジサイなのか否か。さらには、各島産の比較や、大陸産カラコンテリギ他との比較検討を行う必要があります。その検証が成されていない現時点では、何も答えは出てこないのです。

トカラアジサイの典型を、葉は平滑で大きく幅広く、光沢のある深い緑色、淵の鋸歯は細かく切れ込みは著しくはなく、裏面は紫色幻光を帯びない、と定義しておきましょう。これに当て嵌まるのが、(僕が自らチェックした限りでは)トカラ列島口之島・中之島産(おそらく以南のトカラの島々の個体群も共通する?)。徳之島産も、写真を見た限りでは、これに近いように思われます。沖永良部島産は未詳。口永良部島産は、基本的には口之島産と共通しますが、葉は余り幅広くはなりません(ただし隣接する屋久島のヤクシマコンテリギとは、各形質が明らかに異なります)。三島列島黒島産は、著しくバリエーションに富み、口之島産などに比較的近い葉がやや大きくて丸味を帯びた個体から、(一見コガクウツギを思わせる)極めて小型で、葉幅が狭く、葉縁の鋸歯も数が少なくて切れ込みの深い個体まで、様々です。

伊平屋島産は、葉の幅は広くなく丸味を帯びず、鋸歯もやや深くて、口之島産よりも、どちらかといえば口永良部島産や、(平均的な)黒島産に近いように思われます。より類似して感じられるのは、むしろヤエヤマコンテリギや、台湾&中国大陸産のカラコンテリギのほう。もっとも、夏~冬期の古い葉に拠る印象でしかないので、花期の葉を調べないことには、なんとも言えません。

石垣島・西表島産のヤエヤマコンテリギは、他の各種とは染色体数が異なる、という報告があります。比較対象が、伊平屋島産なのか、(トカラなどの各島嶼産の)トカラアジサイなのか、ヤクシマコンテリギ、台湾や中国大陸産のカラコンテリギ、あるいは日本本土のガクウツギなのか、それらの幾つかを含むのか、全ての近縁集団に対してのものなのか、はっきりしていません。今後の検証課題だと思われます。

伊平屋島のトカラアジサイは、前回(2006.8.26)は1か所で、今回は3か所(役場の方に頼んでおいたら、幾つかの生育場所を探してくれていました)で確認。いずれにしろ今は時期外れで、花はむろん、若葉も展開していないわけですから、晩春~初夏の開花期に、再チャレンジしなくてはなりません。

さて、今回の目的のヘツカリンドウです(詳しくは、「屋久島産と奄美大島産のヘツカリンドウは同じ種なのか?」を参照して下さい)。リンドウ科センブリ属。西日本の草原に生えるアケボノソウや、本州や北海道の高山に生えるタカネセンブリなどに近い種ですが、近縁各種と異なり、根生葉が肉厚で極めて幅広く大きいことが特徴です。

冬に花が咲くこと、その花が小さく目立ちにくいことから、一般には余り存在が知られていないのですけれど、この花のファンは結構多いように思われます。反面、(屋久島産と、その他の集団の)基本的な形質の比較が、全くと言って良いほど成されていないわけですが、その理由は、(屋久島産を除けば)余りにバリエーションが豊かなために、細部の変異にのみ目が行って、基本的な形質を基にした比較に取り組もうとする姿勢自体を、欠いていたのではないかと思われます。その結果、屋久島産の安定的な特徴も、多様な変異のひとつとして、処理されていたのではないでしょうか。



①伊平屋島の位置と地図


②伊平屋港


③中学校と賀陽山

2010年12月13日、4年ぶり2度目の伊平屋島渡島。翌14日、まず、4年前にチェックした、島の最高峰・賀陽山の麓の、トカラアジサイの生育地に向かいました。そこから山頂まで登ったのですけれど、ヘツカリンドウは見当たりません。山頂から引き返し、3分の1程下った辺りで、道の傍らで、葉を数枚付けた貧弱な一株を見つけました。屋久島でも奄美大島でも、生育環境は様々なのですが、ひとつ決まった共通点は、土がむき出しになった崖地や道路の則面ということです。そこで、登山道から少し外れて、急傾斜の崩壊地を探したところ、土上張り付くようにして生える、沢山の株を見つけることが出来ました。でも、100株を超す株の、そのどれもが、花が咲いてないどころか、花序茎さえも見当たりません。探すのを諦めかけた頃、やっと立派な花茎を付けた一株を発見。花序にはぎっしりと花が満載なのですが、残念なことに、まだ全て固い蕾です。その日は、花茎を付けた株は、結局ひとつだけ見つけたのに留まりました。


④賀陽山中腹


⑤賀陽山山頂


⑥山頂から島の南端と伊是名島(伊是名村)を望む。伊是名島は、若い女性に人気、伊平屋島と異なり、ハブはいない。



⑦山頂付近に生えていたリュウキュウテイショウソウ(別称オキナワハグマ、詳しくは三島列島黒島の項で説明予定)。



⑧トカラアジサイ(葉表)。



⑨トカラアジサイ(葉裏)。



前回来島時は、季節が夏だったため、花には出会えなかったのですが、独特の形をした葉には出会った記憶があります。山深い場所ではなく、意外に集落に近いところだったと記憶しています。そこで、前回もお世話になった、村役場の伊礼清氏と上江洲清彦氏に、挨拶がてら伺ったところ、彼らもやはり、役場のすぐ近くで見た記憶がある、というのです。

そこで、翌15日の朝、お二人の案内で、役場裏の駐車場脇で10株程を見つけたのだけれど、花序茎が伸びていたのは、前者で1株、後者で3株。その4株の茎には、数多くの花を付けていたのですが、いずれもまだ硬い蕾で、開花は早くても一週間ほど後と想定されました。でも、別の2つの(なぜかこちらは、ほとんどの花を咲き終えた)貧弱な株に、それぞれ1個の花が、イレギュラーな状態で咲き残っていたのです。そして花色は、まさしく屋久島タイプの小豆色!

とりあえずはなんとか最低限のチェックを済まし、一度東京に帰ってから、満載の蕾が咲き誇る頃を見計らって再渡島すべく、午後の船で島を後にすることにしました。けれども、波が高くて、午後の便は欠航。翌日も欠航し、結局、雨嵐の中、3日間島に閉じ込められる羽目に。一応、翌16日同じ株をチェックしに行ったところ、新たな一輪が咲いていました。そして、離島日の17日朝にも訪ねたところ、さらに一輪が。結局、(曲がりなりにも)5個の花を撮影することが出来たのです。

伊部屋島のヘツカリンドウは、やはりどうやら、沖縄本島を含む、他の大多数の産地の個体とは違って、屋久島産に近い小豆色の花が咲く、ということが、ほぼ確実となりました。



⑩ジャコウアゲハ。暴風雨の中、ツワブキの花に群れていた。



⑪ジャコウアゲハの奄美大島・沖縄本島亜種は、翅が丸味を帯びコンパクトなのが特徴。


⑫ホソバワダン。島での呼び名はニガナ。


⑬アキノノゲシ。


⑭一見ヤクシソウのように見えるけれど、ホソバワダンです。この3種の関係に尽いては、そのうちに詳しく紹介します。



⑮ニガナのお浸し。中国の“麦菜”は僕のライフワークの一つ。それに繋がる話なので、これもそのうちゆっくりと。

そうなると、屋久島産や伊平屋島産に対応する、バリエーション豊かな、沖縄本島産の一般的個体群も、自分の目で確かめておかねばなりません。お昼前に名護に着き、国頭村に出て、これまでにも度々足を運んだ比地大滝への道筋を子細に調べて見たのですが、見つからなかったものですから、途中にある環境庁保護センターを尋ねて見ることにしました。そこで知り得た情報は、ヤンバル北部の山、西銘岳420mの頂上付近、それと沖縄中部にある石川岳202mが良いのではないかとのこと。前者はバリエーションに富み、地色が薄紫色の個体も少なくないが、後者は、ほとんどの個体がシンプルな白色個体ということです。一度那覇に戻り、翌18日、那覇に比較的近い石川岳を往復することにしました。



⑯沖縄本島中部の石川岳。標高202mの山とは思えない貫禄です。



⑰石川岳山頂近くに咲いていたオキナワサザンカ。


沖縄本島のほぼ中間地点に位置する石川岳は、200mそこそこの標高が信じられないくらい、豊富な森林に覆われた、良好な環境が保たれた山です。ハイキングコースを管理する青年の家の自然観察官の方に教えて頂いた生育場所には、花茎を付けた多数のヘツカリンドウが群生していました(ヘツカリンドウが見られたのは、ごく狭い範囲のただ一か所だけ)が、伊平屋島の場合と反対に、全ての株が、花をほぼ咲き終えていました。咲き残りの花もぽつぽつとあったので、10個程の花を撮影、全て白一色の、完全な大隅半島タイプです。

となれば、バリエーション豊かな集団も見ておこう、というわけで、帰京当日の19日に、西銘岳へもチャレンジ。早朝6時のバスで那覇を出発、車中5時間、林道を徒歩で3時間、稜線の原生林のトレールを徒歩2時間半、都合11時間近くを往復し、間一髪午後5時15分発の航空便に間に合ったのだけれど、ヘツカリンドウは一株も発見できませんでした。

ということで、帰京後再び沖縄にUターン、伊平屋島共々、再チャレンジを決意した次第です。その報告は、年明けに行うことにして、明日は、ここまでのまとめを行っておきます。


⑱西メ岳を目指して、林道を延々と歩きます。



⑲西メ岳の山頂は5つに分かれていました。







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