功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

『カンニング・モンキー/天中拳』

2016-01-05 20:53:45 | 成龍(ジャッキー・チェン)
「カンニング・モンキー/天中拳」
原題:一招半式闖江湖/點止功夫[口甘]簡單
英題:Half a Loaf of Kung Fu!
製作:1978年

●新年明けましておめでとうございます。年明けはいつも休止期間を設けている当ブログですが、今年は早々に再開してみました。更新頻度はどうなるか解りませんが、2016年も功夫電影専科を宜しくお願い致します!
さて今年は申年なので、今回は猿にちなんだ作品をピックアップしてみましょう。猿といえばモンキー、モンキーといえば拳シリーズ…というわけで、成龍(ジャッキー・チェン)の拳シリーズから『天中拳』の登場です。

 この当時、ジャッキーは専属契約していた羅維(ロー・ウェイ)からシリアス路線を押し付けられ、失敗作を連発していました。彼はそんな状況を打開すべく、監督の陳誌華(チェン・シーホワ)とともに新たな様式の映画作りを模索します。
そうして出来上がったのがミステリー功夫片の『蛇鶴八拳』であり、スラップスティックな笑いを追求した『天中拳』でした。特に後者の内容は意欲的で、真面目な作品が多かった当時としては、実に斬新な試みだったと思われます。
しかしその結果、羅維の怒りを買ったことで本作はお蔵入りとなり、ジャッキーは再びシリアス路線へ逆戻り。彼の考えが正しかったと証明されるのは、『蛇拳』や『酔拳』が登場する1年後を待たなければなりませんでした。

 本作はジャッキーにとって初のコメディ功夫片で、そういう意味では大きな意義を持った作品…と言えなくもないのですが、完成度についてはボチボチ。肝心のギャグシーンも洗練されておらず、イマイチな出来となっています。
物語は、ボンクラな青年がひょんな事から武術の達人に成り代わり、ドジを踏みながらも一人前になっていく…というもの。若造の成長物語としてもそつなく仕上がっており、展開に不備は見当たりません。
 ただし序盤はギャグ描写が空回りしていて、主要な登場人物が揃うまでは辛い雰囲気が続きます。後半までジャッキーが弱いままという点も、本作のハードルを上げる一因になっていると言えるでしょう。
とはいえ、中盤からはスタッフもキャストもこなれてきたらしく、アクションと笑いのペースが安定し始めます。敵味方が大集合するクライマックスはとても賑やかで、最後までナンセンスな笑いが炸裂していました。

 この手のコメディ功夫片では、クライマックスで急に陰惨な雰囲気になったり、思いもよらぬどんでん返しが発生する場合があります。本作はそうした脱線を良しとせず、あくまでコメディに徹し続けました。
これは私の想像ですが、ここまでブレずにコメディを貫いた背景には、羅維に対するジャッキーの強い反発があったのではないでしょうか。先述した陰惨な雰囲気・どんでん返しなどは、羅維の好きな武侠片でよくある展開です。
 主人公の造形に関しても、本作と羅維の価値観には大きな隔たりが見られました。羅維が理想とする主人公像はストイックな英雄であり、『成龍拳』や『龍拳』でもその傾向は確認できます。
最後には悲劇的な結末が待ち構え、必ず何かを失うというのがパターン化しているのですが、本作の主人公像はまったくの正反対。ジャッキー演じる江鴻はケンカがめっぽう弱く、口だけは達者なガキンチョとして描かれます。
 味方に犠牲が出ることはないし(モブは除く)、可愛い女の子がいればボケッと見とれることもしばしば。ラストも絵に書いたようなハッピーエンドとなっており、羅維が目指すものとは明らかに異なっています。
功夫片と武侠片というジャンルの違いもありますが、まるで狙い澄ましたかのように羅維と違う方向性を見出した本作。映画としては凡作止まりではあるものの、当時のジャッキーの置かれていた状況を考慮すると、なかなかに興味深い作品といえます。
意地悪な見方をすれば、本作はジャッキーによる壮大な皮肉…だったのかもしれませんね。

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7 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
謹賀新年 (醒龍)
2016-01-09 11:12:39
龍争こ門さん、お久しぶりです。
今年もよろしくお願いします!

今回の記事、面白かったです。
大変興味深く読まさせていただきました。
拳シリーズいいですよね。私も大好きです。

あと、これは参考までにお聞きしますね。
一般的には蛇拳がそうだと言われてたりしますが、
ジャッキー初のコメディ功夫片と書かれていましたね。
この理由としてはどの辺になりますか?
(自伝本とか・・??)
私もほぼ同様なのですが考え出すとキリが無くていつも悩むのです。

ただ天中拳が作られた頃、羅維はまだ映画を作りますけど、カンフー映画も時代が大きく変わろうとしていた時期なのは間違いないですね!
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明けましておめでとうございます。 (ひろき)
2016-01-13 23:38:25
龍争こ門さん、こんばんは。
遅くなりましたが、新年明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。

>猿といえばモンキー、モンキーといえば拳シリーズ…というわけで、成龍(ジャッキー・チェン)の拳シリーズから『天中拳』の登場です。

猿拳=「モンキー」シリーズとは、上手いですね^^
よろしければ、モンキーシリーズの番外編として、「スリーピングモンキー・睡拳」も、取り上げて頂けると、幸いに思います。
モンキーシリーズと言えば、関西地区では、お正月に、「スネーキーモンキー・蛇拳」と「ドランクモンキー・酔拳」の二か国語版が放映されていました。
久しぶりに、石丸博也さんと小松方正さんのコンビの「~蛇拳」を見て、感動しました。「酔拳」は、「拳法混乱/カンフュージョン」が流れない、21世紀特別編の石丸博也さんと青野武さんコンビの吹き替えでした。
しかし、今更ながらですが、ジャッキー・チェンとユエン・ウーピンがタッグを組んだ「蛇拳」と「酔拳」は、拳シリーズの中でも、アクション、ストーリー共に、飛び抜けて、面白いですね。ジャッキーとユエン爺さんの掛け合いは絶妙だし、スーパーキッカー、黄正利とジャッキーのまるでダンスのようなアクロバティック且つリズミカルな芸術的な立ち回りは、実に、素晴らしいですね。
京劇経験者のジャッキーと華麗な振り付けを得意とするユエン・ウーピンとの相性がバッチリなので、見事なハーモニーでしたね。
70年代中盤位までのオーソドックスなカンフーアクションよりも、「型」がビシバシと、カッコ良く決まるリズミカル且つ洗練されたカンフーアクションの方が、やっぱり、個人的には、大好きですね。
70年代後半~80年代前半位のカンフー映画って、アクロバットだったり、ユーモアを交えた動きだったり、変幻自在なトリッキーな動きだったりと、立ち回りの中に様々な動作や技が混ざり合っていて、見ていて、飽きないし、楽しいですからね♪

>完成度についてはボチボチ。肝心のギャグシーンも洗練されておらず、イマイチな出来となっています。

仰るとおり、「モンキー」シリーズ、あるいは、「拳」シリーズの中では、アクション、ストーリー共に、凡作で、イマイチでしたね。特に、お話のもたつき感が半端なくて、テンポの悪さが目立ちましたね。
ギャグも悪乗りし過ぎで、カツラヌンチャクには、呆れてしまいました(笑)。

>羅維に対するジャッキーの強い反発があったのではないでしょうか。
>意地悪な見方をすれば、本作はジャッキーによる壮大な皮肉…だったのかもしれませんね。

なるほど~、そう言う裏事情があったんですね。
教えて下さって、ありがとうございます。
とても勉強になりました。
あのお二人って、あまり仲が良くなかったのかな。
個人的には、あの当時、ロー・ウェイよりも、ユエン・ウーピンとタッグを組んだカンフー映画をもっと、沢山観たかったですね。
それでは、失礼致します。
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返信。 (龍争こ門)
2016-01-14 19:22:41
醒龍さんこんばんは、お返事お待たせしました。
こちらこそ、今年も宜しくお願いします!

>この理由としてはどの辺になりますか?
 これは書籍等の情報ではなく、「お蔵入りになった後に『酔拳』のヒットを受けて公開された」という逸話と、ジャッキーの顔つきから判断しました。
ジャッキーの顔つきについては完全に某サイト様の受け売りなんですが(笑)、そのルックスは明らかに『蛇拳』『酔拳』あたりの頃とは違います。
追加撮影されたという本作のラストバトルでは、逆に『蛇拳』に近い顔つきになっており、『天中拳』が『蛇拳』より前の作品=ジャッキー初のコメディという説の裏付けになっている…と思っています。
ちなみに本文の「製作:1977年」は私の勘違いなので、後々訂正しておくつもりです(苦笑
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返信。 (龍争こ門)
2016-01-14 20:01:23
ひろきさんこんばんは、こちらこそ明けましておめでとうございます。

>よろしければ、モンキーシリーズの番外編として、「スリーピングモンキー・睡拳」も、取り上げて頂けると、幸いに思います。
 実はこの作品、既に『秘法・睡拳』のタイトルで取り上げています。ただし文章があまりにも稚拙(記事を書いたのが随分と前)なので、見ない方がいいかも…(苦笑
ちなみに『酔拳』と『蛇拳』ですが、私の住んでいる地域でも年明けに放送されていました。文句なしの傑作である『酔拳』と、師匠との仲が微笑ましい『蛇拳』、どちらもイイですよね!

>あのお二人って、あまり仲が良くなかったのかな。
 ジャッキーの主演した作品が軒並み不作続きだったこと、羅維が古いタイプの映画人だったことなどから、ジャッキーとの折り合いは悪かったようです。
ちなみに袁和平は呉思遠と契約を結んでいたので、もうちょっと羅維がサービスを利かせてジャッキーを貸し出していたら、3本目のタッグ作が見れた…かもしれません(笑
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スッキリしました (醒龍)
2016-01-15 08:08:22
龍争こ門さん、こんにちは。
教えていただいてありがとうございました。すばらしいですね(笑。
誰にも分からない複雑な当時の映画の製作状況を推理するのが大事ですし、一人では何も見えてきませんからこうしてファンの間で情報交換するのがいいですよね!真相は現場のスタッフとかじゃないと分からないので中断や作り直しとなるともうお手上げです。実物の見え方等も大事ですよね。当時の関係者の話では天中拳は蛇拳と酔拳の間だったそうですよ。ただこれも解釈が難しく私は最終的な撮影が行われた時期だと思っています。この話の凄い所は蛇拳の直後、天中拳は未完成だったという事なんですね。ご参考まで。
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返信。 (龍争こ門)
2016-01-21 15:00:45
 醒龍さんこんにちは、お返事お待たせしました。
ジャッキーの拳シリーズはいまだに謎が多く、議論が尽きませんね。特に『天中拳』『蛇鶴八拳』あたりは追加撮影がされているようなので、事情はより複雑になっています。
加えて『蛇拳』にはカットされたシーンがいくつもあり、こちらも多くの謎を残しています。なかなか結論を見出すのは難しいですが、だからこそ論じる価値がある…と言えるかもしれません(笑
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Unknown (ずうとるび公次)
2019-04-24 19:12:10
初めてコメント致します。「カンニングモンキー天中拳」にはいろいろな意見や評価はありますが自分はこの作品はジャッキー自身もいろいろコミカルな味を出そうとオープニングでコスプレを入れたり演出も柔らかくいろいろ工夫もありジャッキーも「この作品はレンタルで見る価値ある」とコメントしてますのでジャッキーの分岐点的映画作品と言えると思います。ただ内部事情はいろいろあり追加撮影されたり昔からジャッキーファンの間で語り継がれている日本公開では見られなかった未公開シーンがあるとか無いとか⁉️有名な竹やぶの中で撮られたスチール写真に実は映像がある噂やヒーロー柳に成り済ましたときの食事会のシーン等、ぜひ謎のシーンありましたら見たいですねー。
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