功夫電影専科

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ジャッキー、ハリウッドに行く(1)『ラッシュ・アワー』

2017-01-02 22:33:34 | 成龍(ジャッキー・チェン)
「ラッシュ・アワー」
原題:Rush Hour
中文題:火[才并]時速
製作:1998年

▼90年代末期、一本の香港映画がアメリカで上映されました。極東から持ち込まれたその作品は、激しい格闘シーンと命知らずのスタントで観客を魅了し、全米興行収入記録で香港映画初となる初登場1位を記録します。
その作品の名は『レッド・ブロンクス』。主演を務めた孤高のドラゴンは、この成功を足掛かりに映画の都・ハリウッドへと乗り込むのですが、行く手には様々な困難が待ち構えていました……。
 と、いうわけで皆さん明けましておめでとうございます。今年は以前告知した通り、ブログ開設10年目にちなんで10の特集をお送りする予定です。その第1弾となる今月は、成龍(ジャッキー・チェン)がハリウッドで出演した作品群に着目してみましょう。
これらの作品は香港で撮った主演作と比べると、アクションやテンポに著しい差が見られます。そのため評価が低くなりがちで、実際に私も「ヌルいなぁ」とボヤきながら見ていた事もありました(汗
しかしジャッキーが世界的なスターになれたのは、間違いなくこの時期の作品があったからこそ、とも言えるのです。果たしてハリウッドで製作されたジャッキー映画は凡作か否か? 今回の特集では、そのへんも含めて色々と考察したいと思います。

■中国返還の前夜、香港警察のジャッキーは“ジュンタオ”と呼ばれる黒幕が率いる組織を急襲。盗まれた文化財を見事に奪還し、アメリカの中国大使館で領事に就任するツィー・マや、その娘であるジュリア・スーとささやかな談笑を交わした。
所変わって二カ月後のアメリカ。そのジュリアが誘拐される事件が起こり、FBIが捜査に乗り出した。しかし、「私の知人にも協力してもらいたい」というツィーの意見により、香港からジャッキーが招集されることになる。
 FBIは部外者の介入を快く思わず、ロス市警から適当なお目付け役を駆り出し、事件に関わらないように監視させようと目論んだ。その白羽の矢を立てられたのが、一匹狼のトラブルメーカーであるクリス・タッカー刑事だった。
厄介払いも同然のかたちで任務を押し付けられたクリスは、正反対の性格であるジャッキーとことごとく対立。やがて2人は事件の捜査に乗り出し、その過程で徐々に距離を縮めていく。
 敵が“ジュンタオ”の組織だと判明する中、2人はあと一歩のところで犯人一味を取り逃がしてしまう。結果的に身代金の引き渡しは失敗し、責任を問われたクリスは捜査から外され、ジャッキーもまた帰国の途へ着くことに…。
しかしクリスは諦めていなかった。同僚である爆破処理班のエリザベス・ペーニャの協力を仰いだ彼は、ジャッキーを引き止めて再び捜査に舞い戻る。果たしてジュリアの安否は? そして“ジュンタオ”の正体とは? 今、最後の戦いの幕が上がった!

▲この当時、ジャッキーはスタント方面に特化したアクションを追求しており、ガチンコバトルを繰り広げた80年代の頃とは違った魅力に満ちていました。
そんな中で製作された本作ですが、ストーリーは典型的なバディものの域を出ておらず、アクションの質はジャッキー映画の平均的なレベルに留まっているのです。
 良くも悪くも安全牌といった感じの出来で、これでは香港時代を知るファンから不満の声が上がるのも仕方ありません。とはいえ、改めて見てみるとストーリーにこれといって不備はなく、伏線回収や起承転結もしっかりしています。
アクションはジャッキー、口八丁はクリスという役割分担も絶妙で、クリスの立ち回りは相方の邪魔にならない程度に調節。反対にジャッキーはクリスが積極的に関われないシリアスなドラマを担っています。
この2人のバランスは続編で崩れることになりますが、本作はバディものとして手堅く纏まっていました。確かに典型的ではあるものの、内容は安定していたと言えるでしょう(悪役に関してはツッコミどころ満載ですが・苦笑)。

 また、アクションについても香港式の殺陣が炸裂し、おなじみの小道具を使った立ち回りも楽しめます。撮影現場ではハリウッドのキツい制約に苦しめられたそうですが、それでも可能な範囲で出来うることをやったジャッキーの執念が伺えます。
しかしスタントに関しては壁面を登ったり、看板にぶら下がったりするシンプルなものが多く、『ナイスガイ』のように豪邸一件を潰すような無茶は流石にしていません。
終盤ではドカンといきそうなC4爆薬を爆発させず、最後のスタントが高所で落ちそうになるだけ(ラストの落下はワイヤー使用)なので、ド派手な香港のジャッキー映画に慣れた身としては物足りなさを感じてしまいました。
 さらに追い打ちをかけるのが、最後にタイマン勝負が無いという点です。当時のジャッキーがスタントに傾倒していたのは先述したとおりで、同時期の『レッド・ブロンクス』『ナイスガイ』ではラストバトルすらありません。
そうしたジャッキーの意向が反映されたのかは解りませんが、本作には最後の一騎打ちと呼べるような戦いは無く、それらしいのは中盤のVSケン・レオンのみとなっています。
 作品の質は悪くないですが、小振りなスタントとガチンコ勝負の不足、そして意外性のないストーリーは好みが分かれるところ。おそらく拳シリーズを劇場で見た直撃世代の人にとっては、とても評価が難しい作品なのではないでしょうか。
ただ、ハリウッドスターとしてのジャッキーの礎を築いた作品なのは事実だし、今こそ再評価すべき時なのでは…と私は考えています。さて次回は“ガチンコ不足”の問題を解消し、ハリウッドにおけるもう1つの看板シリーズとなった作品に迫ります!

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