功夫電影専科

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「酔拳」に挑んだ男たち(1)『太極陰陽拳』

2014-03-02 22:47:42 | カンフー映画:珍作
太極陰陽拳
英題:Tai Chi Shadow Boxing/Tai Chi Devil Dragons
製作:1980年

●1978年…呉思遠(ウン・シーユエン)が率いる思遠影業公司は、『ドランクモンキー・酔拳』と『スネーキーモンキー・蛇拳』の2本を発表。皆さんもご存知の通り、これらの作品は香港で年間興行収入のベスト10に入る大ヒットを記録し、功夫映画のあり方を大きく変えました。
多くの映画人たちはこの結果に触発され、続々と便乗作を作り始めます。そのアプローチは実に多種多様で、これまで当ブログでも幾つか作品を紹介してきました。そこで今月はキャスティングの視点から、便乗作を手掛けた人々がいかにして『酔拳』に挑戦したかを検証したいと思います。
 さて、香港映画で便乗作といえばバッタもん俳優の出番です。パクリ天国の香港映画界では、有名人の偽者が横行することなど日常茶飯事。過去には李小龍(ブルース・リー)や座頭市のバッタもんも存在しました。
ところがジャッキーの偽者は非常に少なく、バッタもん李小龍のように名を馳せた者もいません。なぜバッタもんジャッキーは普及しなかったのか?それには2つの大きな理由があったのです(理由は後述)。

 この作品は数少ない偽ジャッキーの1人にして、『必殺鉄指拳』でジャッキーの影武者を演じたとされる陳少龍の主演作です。彼は武術指導家としての顔も持ち、コメディ功夫片ブームのおりに偽ジャッキーとして開眼。本作と『奇門怪拳』の2本でバッタもんを演じています。
ストーリーは恐ろしく単純で、たまたま知り合ったスリの陳少龍と石頭の向雲鵬が、たまたま知り合った余松照に弟子入りし、余松照の宿敵である易原&金剛と闘う!というもの。普通ならここに色恋沙汰やギャグ描写を挿んだりしますが、本作にはそういった要素が一切ありません(苦笑
 大抵の功夫映画は簡単な筋書きで構成されているのですが、本作のやっつけ仕事っぷりは度を越しています。ヒロインである周瑞舫の存在、奪われた虎の像やヒスイの秘密など、話を膨らませられそうな素材は沢山あったのになぁ…(最後のどんでん返しも唐突すぎ)。
その一方で陳少龍は意外と健闘しており、ジャッキーの演技やアクションスタイルを何とか模倣しようとしていました。しかし本作はあらゆる面でレベルが低く、肝心の功夫アクションもモッサリとしているため、陳少龍の頑張りも空回りしています。
後半はそれなりにスピーディーなファイトが展開されるものの、全体的に芳しくない出来の本作。金剛と龍飛(ロン・フェイ)のほかに有名な功夫スターは出ていないので、無理に見る必要はないでしょうね。

 本作を見ても解るように、ジャッキーの柔軟なアクションとコメディ・センスは再現が難しく、簡単に真似できるような代物ではありません。それこそがジャッキーの偽者が流行らなかった理由の1つなのです(反対に李小龍は特徴的な動作が真似しやすく、偽者が大量に出回りました)。
「再現の難しさ」とともに挙げられるもう1つの理由は、「国外に於ける収益の低さ」です。バッタもん李小龍の場合、たとえ香港で失敗しても李小龍の人気が根強かった欧米マーケットに売ってしまえば、それなりに稼ぐことはできました。
 しかし当時のジャッキーは欧米での知名度が低く、バッタもん李小龍のような収益は見込めなかったと考えられます。こうした理由により、映画製作者たちは手間のかかるバッタもんの擁立を避け、別の方法で便乗作の撮影に着手していきました。
その方法とは、便乗作の常套手段――本家本元である『酔拳』に出演した役者たちの起用です。次回はそんな『酔拳』出演者たちの中で、最も人気の高かった赤鼻爺さんの出演作を紹介いたします!

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