功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

【特集:ジャッキーの失敗③】『バトル・クリーク・ブロー』

2010-08-12 22:56:29 | 成龍(ジャッキー・チェン)
「バトル・クリーク・ブロー」
原題:殺手壕/殺人壕
英題:The Big Brawl/Battle Creek Brawl
製作:1980年

●羅維(ロー・ウェイ)のプロダクションからゴールデンハーベスト(以下、GH)に移籍したジャッキーは、移籍第1作として『ヤング・マスター師弟出馬』の製作に着手。新天地での初仕事だったが、ジャッキーは見事な功夫アクションで彩ってみせた。この成功に勢いづいたGHは「ジャッキーを李小龍のような国際派スターにしたい」と思い立ち、アメリカ進出を目指したのである。『燃えよドラゴン』のフレッド・ワイントロープ&ロバート・クローズと協力したGHは、本作で第2の『燃えよドラゴン』を狙ったのだ。
だが、現地スタッフとジャッキーの間には、功夫アクションに対する認識に大きな隔たりが存在していた。当時のアメリカでは功夫映画=李小龍という見解しか無く、マーシャルアーツ映画ではキックが中心の単調な立ち回りが主流であった。当時のアメリカでジャッキーと張り合える実力者といえば、せいぜいチャック・ノリスかジョー・ルイスが関の山。スタントマンもパワー重視の人が多く、ジャッキーの要求する素早いアクションを演じられる者は皆無に等しかった。
 こんな状況ではジャッキーの得意とするコメディ功夫など封殺されたも同然だ。おまけに、フレッド&ロバートは『燃えよドラゴン』成功の余韻から抜けきっておらず、本作でもチープな『燃えよドラゴン』風の物語に固執している(彼らは『Force: Five』『ジムカタ』でも同じ失敗を繰り返している)。せめてリチャード・ノートンあたりを寄越してくれたなら、少しは結果も変わっていたかもしれないが…。
今回の失敗は、李小龍の真似をさせられた『新精武門』のケースと似ているが、この頃のジャッキーは既に自身のスタイルを確立している。ハリウッドという名の壁と当時の風潮…これがジャッキーの前に大きく立ちはだかったのだ。なお、ジャッキーがこの壁を突破できたのは実に本作の15年後(『レッド・ブロンクス』)の事である。

 全米から様々な猛者が集まるというバトルクリーク格闘大会。この大会に参加していたマフィアのホセ・フェラーは、対抗馬のH・B・ハガティに負け続けていた。そこで彼らが目をつけたのは、ショバ代を払わずに組織へ歯向かっていた青年・ジャッキーであった。ホセはジャッキーの兄嫁を誘拐し、強引にバトルクリークへ出場するように強要。どうにも納得できないジャッキーであったが、否応なく従う羽目になってしまう。
前半はローラースケートなどを絡めた現代的なアクションが多く、ライトなタッチで描かれている。しかし、ジャッキーが師匠のマコ岩松と共に敵の根城へ潜入するあたりから、作品は途端に『燃えよドラゴン』化していくのだ(もちろん潜入シーンでは犬に吠えられます)。後半からはバトルクリークが開催されるのだが、出場選手はハガティ以下、デブ・マッチョ・ゴリマッチョ・大デブ・ヒゲマッチョ・マッチョ…パワータイプの木偶の坊ばっかりだ!(爆
 もちろんこんなメタボ軍団はジャッキーの敵ではない。『Force: Five』のソニー・バーンズを蹴散らし、マコを人質に取られるというアクシデントを乗り越えてハガティも一蹴!続いて劇場で友人を殺した黒幕とのバトルになるのだが、ここも『燃えよドラゴン』のクライマックスで石堅(シー・キェン)が屋敷に逃げ込んだ一連のシーンそっくりだ。
結局、ロクに動けないハガティを再度ボコボコにし、観客の喝采を浴びたジャッキーを映して物語は終幕を迎える。中途半端に『燃えよドラゴン』なストーリー、誰1人としてジャッキーの動きについていけない功夫アクション…これにはジャッキー本人もかなりガッカリしたことだろう。本作と『キャノンボール』で挫折を味わったジャッキーは、香港に帰るなり新たな映画の製作に取り掛かった。それはジャッキーにとって起死回生の一打になるはずの作品であったのだが、彼の"ある発言"が更なる波紋を呼んでしまうのだった(次項に続く)

最新の画像もっと見る

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Z)
2010-08-16 20:02:34
見せ場である筈の「ローラースケート」「バトルクリーク選手権」のシーンが思っていたより盛り上がらなかった代わりにジャッキーが殺し屋兄弟と闘うシーン(片割れが張午郎でしたっけ)、捕われたマコが自力で脱出するシーンは結構燃えました。
返信する
返信! (龍争こ門)
2010-08-20 23:07:07
Zさんこんばんは!

>ジャッキーが殺し屋兄弟と闘うシーン(片割れが張午郎でしたっけ)、捕われたマコが自力で脱出するシーンは結構燃えました。
 他のパートが煮え切らない結果で終わっただけに、これらのシークエンスは盛り上がりましたね。
ちなみにジャッキーに襲いかかる2人組の殺し屋は岑潛波(『片腕カンフー対空とぶギロチン』のムエタイ使い)と唐炎燦(『ヤングマスター』の冒頭でジャッキーと一緒に獅子舞を操っていた人)が演じています。
返信する
Unknown (Z)
2010-08-21 17:38:13
ちなみにジャッキーに襲いかかる2人組の殺し屋は岑潛波(『片腕カンフー対空とぶギロチン』のムエタイ使い)と唐炎燦(『ヤングマスター』の冒頭でジャッキーと一緒に獅子舞を操っていた人)が演じています。

すいません。すっかり勘違いしてました。
実は今見てますが、良い感じです。
返信する
返信!(1) (龍争こ門)
2010-08-25 23:37:56
 Zさんこんばんは、お待たせしました!
まだまだ発足するかしないかの頃だった成家班のメンバーから、なぜ唐炎燦だけがジャッキーと一緒に米国入りしたのかは気になるところですね。もしこれが蟹江さんあたりだったら、完成度も若干違っていたかも…?
返信する
こんばんは。 (ひろき)
2018-03-07 20:47:42
龍争こ門さん、こんばんは。
いつもお世話になります。
よろしくお願い致します。

>マーシャルアーツ映画ではキックが中心の単調な立ち回りが主流であった。

本作は、僕にとって、初ジャッキー映画でした。
まだ、カンフーって言う言葉すら、知らない子供の頃で、観る前は、ただ単に、殴ったり、蹴ったりするだけの映画だと全く期待していなかったのですが、冒頭の鉄塔のアクロバットを観て、いきなり心を鷲掴みにされてしまいました。こんなことが、人間に出来るのかと。
師匠とのユーモアを交えた特訓、小道具を利用したアクション、そして、台の上からのバク転蹴り~下から突き上げるキック、おお~すげえ~って思いましたね。
でも、今、観ると、酔拳や蛇拳のような拳シリーズの方が、京劇的な動き満載で、断然面白いですね。
本作では、対戦相手も、巨漢のモッサリ系ばかりで、噛み合っていませんでしたが、カンフー映画に詳しくなかった当時は、割と楽しめました♪
それでは、失礼致します。
返信する
返信。 (龍争こ門)
2018-03-11 04:06:17
ひろきさん、改めましてこんばんは。

>本作は、僕にとって、初ジャッキー映画でした。
 ひろきさんにとって本作はとても思い出深い作品なんですね。確かに、大勢の大男を前に目にも止まらぬ動きを見せ、段違いのファイトを見せるジャッキーの勇姿は眩しく見えたはずです。
仰るように、改めてジャッキー作品として見るとイマイチな部分が多々ありますが、本作でひろきさんが体験した驚きは何物にも代えがたい物だったと、私は思います。
返信する

コメントを投稿