日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 皆さん映画の話で盛り上がっているようですね。南京虫だか何だかの。

 どうせ映画ならもっと旬な話をしましょう。「SAYURI」ですよ「SAYURI」。先日タクシーに乗ったら、

「ニッポンが嫉妬するJAPAN」

 なんていう不遜なコピーが窓に貼られていて私をひどく不快にさせたものです。「ヒュンダイを知らないのは日本だけかも知れない」とかいう鮮人自動車のCMがありましたが、不覚にもあれを連想してしまいまして。

 まあキャッチの話はどうでもいいのですが、この「SAYURI」が中国本土、つまり中共政権下で上映禁止になるかも知れないそうです。少なくとも一般公開の大幅延期は確定の模様です。

 ……ええ、実は私も少しは期待していました。でも主演女優の章子怡が国際映画賞をとるかも、なんて中国のネット上では騒がれていましたからね。延期とか上映禁止だとか、まさか本当にそんな動きがあるとは(笑)。

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 中国のネット上で「SAYURI」が物議を醸していた、というのは随分前からの話です。概ね、

「どうして中国の代表的女優が日本人の役を演じなければならないんだ。しかも売女の」

 みたいな論調でしたね。売女じゃなくて芸者なんですけど。

 ともかく日本人を演じることを不満とする向きが大勢いる、ということで、章子怡らが「SAYURI」についての弁明を行う破目になりました。姉妹サイト「楽しい中国ニュース」でも紹介した通りです。

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 ◆「日本人以外は芸者を演じちゃ駄目なの?」章子怡らが「SAYURI」を語る。
 http://news.xinhuanet.com/world/2006-01/15/content_4053464.htm

 5年前から原作を読んでいるとか役作りでの苦労話とか、こういうことをいちいち弁明しなきゃいけない中国はやっぱり不自由。ていうか自由以前の問題。20年前なら必要のなかった作業だから民度が退行しているってことか?まあこっちだって芸者まがいの「なんちゃって女郎」なんざ観たくない訳だが。

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 ……民度が退行している、というのは鏡に映った自分の姿を見ることができなくなった、という意味で江沢民の推進した反日風味満点・中華万歳の「愛国主義教育」の成果でしょうね。20年前でも多少の反発はあっかも知れません。でも拒絶反応といった激しいものにはならなかったでしょう。

 少なくとも拒絶反応が発生して、それに対して政治が配慮しなければならない、なんてことはなかったと思います。ところが、現在は違います。現実に拒絶反応が出ていて、政治(統治者たる中共)がそれに配慮しなければならない。むしろ政治レベルでも拒絶反応が起きているように思えたりします。

 という訳で今回の核心となるのが以下の記事です。

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 ●「SAYURI」上映に黄信号、審査不合格の可能性も(新華網 2006/01/13)
 http://news.xinhuanet.com/ent/2006-01/13/content_4067704.htm

 「中国経済網」からの転載記事ですが、AFP通信の配信記事(2006/01/18)に基づいたもののようです。……何だか外電と「新華網」(国営通信社・新華社の電子版)の掲載時間がおかしなことになっていますが、記事は確かに1月18日に出てきたものを私が拾ったので、恐らく「新華網」側の「01/13」はタイプミスかと思われます。

 さてこの記事、中国メディアや政府筋からの消息筋情報として、ハリウッドを湧かせた「SAYURI」の中国本土における一般公開が怪しくなった、と報じています。元々は2月19日封切りというスケジュールだったのが、広電総局の審査をパスできず、どうもそれは無理らしいとの情報も。

 広電総局(国家広播電影電視総局)はテレビ・ラジオ番組やCM、また映画の内容などについて事前審査を担当している国家部門です。

 この記事はさらに消息筋の話として、「SAYURI」が審査をパスできなかった主な原因は、この映画が中国人の反日感情を激発させることを関係部門が懸念したため、だとしています。

 この消息筋は、問題はストーリーの中心を担うヒロイン2名の役どころが日本人芸者で、それを中国本土の人気女優が演じるところにあると指摘。芸者は日本の伝統文化における重要な一部分とみられてはいるものの、米国人監督の手によるこの映画に登場する芸者には西洋人のイメージが混入されており、ストーリーの一部は事実から甚だしくかけ離れているとのこと。

 本物の芸者なら絶対にしないよそんなこと、という場面が出てくるということです。「芸者」ではなく「ゲイシャ」といったところでしょうか。ともあれ、中国の人気女優が日本人芸者を演じることは、第二次大戦期における「慰安婦」を連想させやすい……という向きもあるとのこと。ありがちな展開です(笑)。

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 この記事によると、中国国内メディア『東方早報』と『上海青年報』は、審査を行った広電総局は当初はゴーサインを出したものの、この作品の上映許可を出したことで公衆の非難を浴びることを恐れて考えを変えた、つまり「合格」を撤回したとしています。

 その広電総局の責任者はAFP通信の取材に対し、

「この映画に関する審査活動はまだ終わっていない。一般公開が禁止されるかどうかはまだ断言できない。最終決定はまだ下されていないのだ」

 とコメント。さらにこの件は「極めて複雑」な問題であり、

「非常に敏感な性質の話題だから私も多くを語ることができない」

 と話したそうです。……どうやら外電の引き写しのようですが、「新華網」に掲載されたということは、この内容を民草に広く知らしめてよろしい、との判断が下されたのでしょう。

 こういうニュースが流されるほど「SAYURI」は物議を醸している、ともいえます。あるいはこういうニュースを流して民草の反応をみてみよう、という意図があるのかも知れません。

 ちなみに台湾メディアによると、公開延期だけでなく内容の大幅カットが行われる可能性も、とのこと。

 http://tw.news.yahoo.com/060119/47/2s2bn.html

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 という訳で、これは映画の話のようでありながら、実は政治問題であり、社会問題なのです。上で「拒絶反応」という言葉を使いましたが、ネット世論レベルならそれは単純な反日感情でしょう。

 ところが政治レベル、つまり統治者の立場になるとそうではなくて、反日気運が高まって社会を揺るがしかねない、という危機感が根っこになった「拒絶反応」なのではないでしょうか。

 誤解のないよう申しておきますが、広電総局レベルで「物議を醸した」というのは、中国社会における反日感情の強さによるものではありません。

 確かに反日感情は強いかも知れない。しかし広電総局を窓口とした統治者が心配しているのは、この映画が反日気運を高め、その「反日」を起爆剤に各所で火の手が上がり、ひいては中共政権を突き崩しかねない、ということです。「物議を醸した」ほど現在の中国は社会状況が悪化している、燃え上がりやすい、ということなのです。

 私がまだ香港にいたころ(中国返還後の時期)、人民解放軍のチベット侵攻とその暴虐ぶりが描かれているために
「セブン・イヤーズ・イン・チベット」が中国全土はおろか、香港でも上映禁止となったことがあります。これは統治者にとっては政治問題、しかも「分離・独立」という限定的なテーマです。中国本土の観客がこの映画を観ることで当局にとって有り難くないムーブメントが起きる、ということはまずないでしょう。

 ところが「SAYURI」は違います。ちょうど昨春の反日騒動、あれをヒートアップさせた歴史教科書問題ほどではなくても、起爆剤となり得るポテンシャルを秘めています。秘めている、と当局はみているのでしょう。随分神経質なようでもありますが、そうならざるを得ない社会状況が存在しているのだと思います。

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 「SAYURI」が起爆剤となってドカーン、というのは楽しい想像です。とすれば、章子怡はさしずめジャンヌ・ダルクといったところでしょうか。末路も同じになったりして(笑)。

 折角なので余太話ついでに楊子削りを。


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