日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 正直、どうもわかりません。いやなに人事の話です。

 昨年末に人民解放軍において近年にない規模での高官の異動が行われました。この話題、人事&軍部ということでキナ臭いものであることは間違いないでしょう。つい多忙に紛れて扱えないまま年を越してしまいましたが、自分の中では未だに確たる結論が出ていません。ただ事態は進んでいますので、わからないまま取り組んでみることにします。

 一連の異動は12月中旬から下旬にかかる辺りで香港紙などにより報じられましたが、日本の報道でまとまっていたのは『産経新聞』(2005/12/30)の記事でした。ここでは一部を引用するにとどめますが、全文に目を通しておいいて損はない、価値ある記事です。

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 ●中国・胡主席が大型人事 軍掌握へ本格始動――政治将校・2世異動/「陸」偏重是正
 http://www.sankei.co.jp/news/051230/morning/30int003.htm

 【北京=野口東秀】中国人民解放軍幹部の人事調整が、このほど判明した。将官クラスの異動では、胡錦濤国家主席が昨年九月に軍トップになってから最もまとまった規模で、中国筋によると、江沢民時代から軍事外交の“顔”を務めた熊光楷副総参謀長(大将)の後任に章沁生少将が内定した。政治将校や高官二世が異動の要であり、軍歴のない胡氏が本格的な掌握に乗り出した動きとして注目される。

 異動にともなう退役組には情報機関出身の熊大将が含まれており、後任に内定した章少将は総参謀長補佐。章氏は北京軍区司令部の軍事訓練部長を経て総参謀部の中枢機関、作戦部部長を歴任した。二十九日付の中国系香港紙「文匯報」(電子版)によると、熊氏は常設議会である全人代常務委員会の役職に転じる。
(後略)

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 記事のタイトルにある通り、今回の異動のポイントは、

 ●政治将校(党務担当幹部)
 ●海軍・空軍からの登用=陸軍偏重の是正
 ●二世組の抜擢

 というのが特徴です。香港の最大手紙『蘋果日報』(2005/12/19)によるともう一点、
「東北閥(瀋陽軍区出身者)の台頭」というのも無視できないそうですが、党内人事にも通じていない私が軍部の動きをみて云々できよう筈がありません。それでも「銃口から政権が生まれる」という国ですし、そもそも人民解放軍は中国の国軍ではなく中国共産党軍。国家よりも党の命令を優先させるとの大原則があります。……要するに中国政治というのは軍隊を握った者の勝ち、という世界ですから、スルーできない話題なのです。

 「東北閥」はともかく、上記3点の特徴についてはすんなりと理解できるように思います。「政治将校」の入れ替えは党による統制の強化、いや胡錦涛政権による統制強化を狙ったものでしょうし、「陸軍偏重の是正」はトレンドに乗ったものです。支那事変や国民党との内戦をはじめ、朝鮮戦争、中ソ紛争、中印紛争、中越戦争などはいずれも陸軍が主役を務めたものですが、いまや冷戦構造は崩壊。大平洋への野心、そして台湾への武力侵攻を考えると、海軍と空軍の比重を強めておくというのは頷けるところかと思います。

 「二世組の抜擢」は、今回の異動における代表例として劉源中将(劉少奇・元国家主席の息子)、張海陽中将(張震・元党中央軍事院会副主席の息子)の名前が挙がっていますが、香港紙などの情報を総合すると、他にも今回抜擢されなかった「二世組」として彭小楓中将(彭雪楓の子)、粟戎生中将(粟裕の子)、張翔中将(張愛萍の子)などがおり、電波系文人将軍として有名なあの劉亜洲中将も李先念・元国家主席の女婿です。ただ軍内部で「二世組」とも言うべき派閥が形成されているかどうかは不明です。

 で、「二世組」抜擢の動機は恐らく胡耀邦生誕90周年イベントなどと同じで、二世を大事に扱うことで党長老連の御機嫌とりをしたのではないかと私は思います。当ブログで何度か指摘していますが、元々胡錦涛を支持していた(というより江沢民への憎悪が動機か)党の長老連や物故した元老の二世などが、昨年1月に死去した趙紫陽・元総書記への評価をめぐる騒ぎで胡錦涛と疎遠になった観があり、胡錦涛は事あるごとにその関係修復に努めてきた形跡があります。今回もその一環かと思われます。

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 一連の異動は現職者の定年による退役(65歳)、または「同一等級のポストを10年以上務めてはならない」という軍高官に対する規定に則る、という穏便な形で事が運ばれたのですが、波風が全く立たなかったという訳ではないようです。昨年、「台湾問題介入なら対米核戦争も辞さず」発言で物議をかもした基地外将軍・朱成虎少将が昇進停止1年という処罰を喰らったという外電を香港紙『明報』のネット速報 「明報即時新聞」(2005/12/22/19:50)が報じました。

 http://hk.news.yahoo.com/051222/12/1jt52.html

 処罰としては軽い部類のようですが、これで朱成虎は出世街道から転落したも同然、との解説つきです。同じ内容を翌日の親中紙『香港文匯報』(2005/12/23)が記事にしていますから、確度の高い情報といえるでしょう。

 http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0512230005&cat=002CH

 ところが朱成虎に先立つこと約10年前、米国高官に対し、

「台湾問題に米国が介入したら中国は核を使うことも辞さない。台北の心配よりロサンゼルスの心配をすべきではないのか」

 と言い放った電波将軍がいます。それが熊光楷・副総参謀長で、今回の異動で退役させられました。全人代(全国人民代表大会=立法機関)の名誉職的な閑職に回されることになりそうです。

 この総参謀部ナンバー2という実力者の退役が今回の目玉であり、キナ臭いところでもあります。とは、熊光楷は1939年3月生まれで「65歳定年」規定を1年以上オーバーしています。副総参謀長に就任したのが1996年1月ですから、これも2006年になれば「10年規定」に引っかかります。それを今回の人事で引きずり下ろした訳で、朱成虎への処罰と絡め、失脚説も流れたほどでした。「電波系対外強硬派」の追い落とし、といったところでしょうか。

 ところがこの電波将軍・熊光楷、軍とは別に「中国国際戦略学会会長」を務めており、退役報道とほぼ同時にその肩書きで中国国内メディアに突如登場しました。

 「新華網」の記事。「副総参謀長」との肩書が並記されなかったことで退役が確認されました。
 http://news.xinhuanet.com/politics/2005-12/21/content_3952208.htm

 以下4本も「新華網」の記事ですが、こうしてその後も一種のデモンストレーション(健在アピール)とも思える熊光楷のマスコミへの露出が続きました。失脚したのならこんな真似はできません。あるいは胡錦涛・軍主流派は失脚させるつもりだったのに、息の根を止めるには至らなかったのかも知れません。

 http://news.xinhuanet.com/politics/2005-12/27/content_3973752.htm
 http://news.xinhuanet.com/politics/2005-12/27/content_3975929.htm
 http://news.xinhuanet.com/politics/2005-12/28/content_3980992.htm
 http://news.xinhuanet.com/politics/2005-12/28/content_3981608.htm

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 上でうっかり「胡錦涛・軍主流派は」なんて書いてしまいましたが、果たしてそう表現していいのかどうか。

 あるいは「軍主流派・胡錦涛」と順序を逆にする方がふさわしいのか、それとも胡錦涛の意をある程度汲みつつも、基本的には軍主流派主導で異動が行われ、胡錦涛がそれに服したのか。……今回の軍高官人事のポイントがそこに隠されているように私には思えてなりません。

 要するに胡錦涛が軍部を掌握したのか、胡錦涛が軍部に掌握されたのか、ということです。冒頭で書いたように、私は、未だその点についての見極めが出来ておらず、自分なりの結論が下せないでいるところです。

 一連の動きを素直にみれば、『産経新聞』の報道のように「胡主席が大型人事・軍掌握へ本格始動」ということになるのですが、昨年春の反日騒動以降、呉儀ドタキャン事件などのグラつきでその指導力に疑問を呈され、10月の「五中全会」(党第16期中央委員会第5次全体会議)でも党内人事に手をつけることが全くできなかったように、胡錦涛はこれまでずっと「ヘタレ認定」でした。小泉首相による靖国神社参拝後の対日外交も、中国国内メディアに対する日本関連報道制限を含め、年末近くになってようやく腰が据わったような体たらくです。

 あるいは胡錦涛は、自らの権力を守るために悪魔(軍主流派)に魂を売ったのではないか、と思えなくもありません。懐柔ではなく軍主流派への従属です。

 江沢民は軍部に階級昇進やポスト昇格などによる「位打ち」を行って懐柔に成功したとされていますが、背後にトウ小平がいて睨みをきかせていたからこそ「位打ち」の効果も出たのではないでしょうか。1989年の天安門事件で軍隊投入・武力弾圧という血しぶきを浴びたことで台頭した楊尚昆・楊白冰兄弟による影響力拡大を防ぎ、叩き潰したのもトウ小平がいなければできなかったでしょう。この間、軍の近代化に向けた大幅な人員削減もトウ小平の手で行われています。

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 このトウ小平に相当する後ろ盾を持たない、というのが胡錦涛の痛点でしょう。昨年7月あたりから派手な「位打ち」をやったりしており、昨夏以降、人民解放軍の機関紙『解放軍報』も胡錦涛礼讃記事を続々と掲載するようになりましたが、こうも早く懐柔策の効果が出るものなのでしょうか。

 党中央の内外に対する動きに照らせば、「懐柔」あるいは「従属」の効き目は昨年11月あたりから出ているように思います。最近の『解放軍報』は胡錦涛礼讃の勢いを一段と強めており、江沢民はもはや「過去の人」扱いです。

 1月3日には同紙創刊50周年を記念して胡錦涛が同紙編集部を訪問しました。例によって軍籍にないため階級章のないのっぺりとした軍服姿で、それに同行したのは党中央軍事委メンバーなど制服組ばかり。何だか取り込まれてしまっているように見えなくもありません(※1)。

 http://news.xinhuanet.com/politics/2006-01/03/content_4003750.htm

 その胡錦涛来訪記を『解放軍報』が裏話などをまじえて大々的に報じているのですが、何やら『中国青年報』を脇に追いやる勢いの御用新聞テイストです(笑)。ただ胡錦涛の御用新聞化しているのか、それとも軍主流派が胡錦涛という錦の御旗を掲げ、担ぎ上げることで、軍事だけでなく政治への介入を試みようとしているのか。

 ……このあたりは正直、わかりません。現在の軍主流派の主要メンバーと思われる人物、例えば郭伯雄(党中央軍事委副主席)、曹剛川(国防部長兼党中央軍事委副主席)や徐才厚(党中央軍事委副主席)は、かつての楊尚昆・楊白冰兄弟に比べれば全くキャラが立っていませんし存在感も及びません。

 ただ軍主流派は電波系でこそないものの、やはり対外強硬論に傾きやすい軍人であることには変わりありません。ですからもし軍主流派の影響力が胡錦涛を取り込むほど拡大しているのなら、政治面、とくに外交に関しての姿勢に今後明確な変化が出てくるのではないかと思います。

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 駐上海日本総領事館員の自殺事件に対する中共政権の対応などをみていると、つい上のようなことを勘繰りたくもなるのです。脊髄反射というか動脈硬化というか、中国側にとってこの件はスルーするのが最良だったと思うのですが、売られた喧嘩を買ってしまいました。

 そりゃ国際的イメージもあるでしょうから喧嘩を買うことにメリットが全くないとは言いませんが、それなら国内向けには報道統制を敷いて然るべきところ、何と中国国内メディアにも報道させてしまった。それで何か得することがあるのかといえば、敢えて言うならまあ「日本憎し」でネット世論をはじめ国民の意識をひとつにまとめようというところでしょうか(現実には無理でしょう)。ただそういう硬質な対処の仕方に、そこはかとなく制服組の気配を感じてしまうのです。

 ……いやいや、単に私が過敏なだけかも知れませんけど。ともあれ胡錦涛は「握った」のか「握られた」のか、私の中での結論は未だに出ないままなのです。


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 【※1】ちなみにこの視察で発表された胡錦涛のコメントは「中国映画産業誕生100周年記念式典」での談話同様、マスコミ及び文芸に対する統制強化を示唆する内容です。『新京報』や『南方都市報』にしてみれば恫喝されたような気分でしょう。

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