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素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)
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武警はバラけて乱れつつある模様。・上
中国観察
/
2006-01-06 23:54:12
硬い話題が続いてしまいますが、人民解放軍の次は武警(武装警察)です。
武警といえば広東省・汕尾市の紅海湾で土地収用をめぐるトラブルに抗議活動を行っていた地元農民たちに対し、突撃銃で実弾射撃して死者を出した「12.6」事件がまず思い浮かぶでしょう。当局発表で3死8傷。現場にいた農民の証言では発砲というより掃射、薙射というべき射撃で、ダーン、ダーンではなくズダダダダ……という感じだったそうです。
この事件に対し地元当局(汕尾市政府)が公式発表を出してそれが広東省の新聞(南方日報、広東省党委員会機関紙)によって報じられたものの、北京の中央政府は現在に至るまで沈黙しており、国営通信社・新華社も全国ニュース扱いで報道していません(電子版である「新華網」だと、地方面たる「広東チャンネル」に出ただけです)。
北京の沈黙は中央の統制力の弱体化、つまり広東省という「諸侯」に介入できないことを示したものなのか、「人の噂も七十五日」でみんなが忘れてくれるのをじっと待っているのか、それとも他の理由があるのか。世界中に報道されてしまった事件だけに、政府(中央)がだんまりを決め込むという対応には首をひねります。
……というのは、やはり土地収用に絡むトラブルで、当局の雇われ暴徒が抗議する農民たちを襲撃して6死48傷という被害を出した昨年6月の定州事件、これは襲撃シーンを捉えた映像が流出して国際的にも大きな反響を呼んだ事件となりましたが、これについては中央が動いて同市トップのクビを飛ばし、他に実行部隊などにも逮捕者が出て被告合計27名の初公判が最近開かれました。こちらは事件発生から初公判に至るまで全国ニュース扱いだったのです。
これに対して「12.6」事件は実弾射撃(警告射撃の誤射だそうで)に関して「官」の現場責任者が刑事拘留される一方、農民側にも逮捕者が出ているというのが公式発表です。定州事件と違って「民」の側からも悪役が出た訳ですから、中央政府も胸を張って全国ニュースにすればいいのに、地方面でこっそり掲載しておしまい、です。この扱いは、広東省とそれを後ろ盾に公式発表を行った汕尾市、さらにその発表内容に対し、中央はやはり何か含むところがある……のかどうかはわかりませんが、そういう勘繰りをしたくなる奇妙さです。
ともあれ、この「12.6」事件を直接の契機として執筆されたと思われる論文が発表されました。
前回のコメント欄
で「h333」さんが報じて下さったように、日本でも記事になっていますね。
――――
●中国「内部矛盾」が深刻化 武装警察トップが危機感(共同通信 2006/01/05/18:15)
http://flash24.kyodo.co.jp/?MID=GIF&PG=STORY&NGID=intl&NWID=2006010501002339
【北京5日共同】中国で暴動鎮圧など治安維持を主な任務とする中国人民武装警察部隊の呉双戦・司令官は5日までに、中国の経済、社会発展の不均衡による「人民内部の矛盾」が深刻化、各種抗議活動が急増し「規模も不断に拡大している」とする論文を発表した。
治安部隊トップが治安問題の深刻さを認めるのは極めて異例で、胡錦濤指導部内の危機感を示すものとみられる。論文は中国共産党の政治理論誌「求是」1月号に隋明太・武装警察政治委員とともに執筆した。
論文は、急速な経済発展が続く現在の中国の治安情勢について「刑事犯罪が頻発、矛盾が突出」とした。さらに「西側敵対勢力は中国を西洋化、分裂する政治的陰謀」を放棄せず「破壊、転覆活動を実施している」と決めつけ、特に台湾、チベット、新疆ウイグル自治区独立運動に強い警戒感を表明した。
――――
このニュース、私は昨日(1月5日)朝の香港紙『星島日報』及び親中紙『香港文匯報』の報道で知りました。
●『星島日報』(2006/01/05)
http://www.singtao.com/yesterday/chi/0105eo02.html
●『香港文匯報』(2006/01/05)
http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0601050005&cat=002CH
おおっと思い早速論文を掲載した『求是』の関連サイトに飛んでみると、目次だけしか出ていなくてガッカリしました。ところが「新華網」が全国ニュースとして流しているではありませんか。執筆者は武警の実務責任者と党務責任者のようですから重要論文扱いです。
●「新華網」(2006/01/05/08:39)
http://news.xinhuanet.com/politics/2006-01/05/content_4010516.htm
前掲の『香港文匯報』はこの論文を「2006年の指導思想のようなものだ」としています。武警トップによる年頭所信表明というところでしょうか。ちなみにこれを掲載した『求是』はかつて社会主義バリバリの保守派の巣窟としてブイブイ言わせていたのですが、保守派が壊滅した現在は御用雑誌的な臭みがとれて、正統派の理論誌、というポジショニングに落ち着いている模様です。
そういえば武警とは何ぞやという説明がまだでした。武警は公安部と人民解放軍に両属する準軍事組織で、いわば警官の制服に身を包んだ軍隊、といったところです。国内の騒乱や暴動などに対処するのが本務ですから火力をはじめとした各種装備や戦闘力は軍隊に劣りますが、丸腰あるいは棍棒を手にしたりや投石を行う暴徒に対しては警棒、スタンガン、催涙弾といった一応暴動鎮圧用としては十分な攻撃力を有しています。
かの天安門事件(1989年)も当時の中国人学生の手記を読むと、軍隊が動き出す前段として武警が催涙弾を放ち、それに対して学生や市民が瓦礫を投げつけて反撃する場面が登場したりします。現在もそうですが、中国はどこに行っても投石に手ごろな石や瓦礫が路傍に転がっています(笑)。ただし「12.6」事件のように、場合によっては突撃銃といった殺傷兵器の携帯及び使用も許されているようです(まあ催涙弾も至近距離で発射されたものが頭などに直撃すれば即死する場合がありますけど)。
――――
で、この論文。かなりの長文ですが、「今年の武警はこんな感じ」という所信表明として、武警内部に向けて書かれた側面と、外部向けに意思表示した側面の両方を併せ持っているように私は感じました。『星島日報』、『香港文匯報』そして共同電は期せずして同じ部分を紹介していますが、これは論文のごく一部に過ぎないくだりです。以下に原文(論文)からかいつまんで訳出しつつ私なりの注釈を織り込んでみることにします。
現在、わが国は正に発展における重要な戦略的好機を迎えている。だが同時に人民内部の矛盾が突出し、刑事犯罪が頻発し、敵との闘争が複雑になる時期でもある。
人民内部の矛盾の突出・頻発という事態はわれわれ(武警)に対し、大規模な集団的事件において妥当な処置を行い「安定維持」を全うする重要勢力、という役割を求めている。突発事件、特に大規模な集団的事件を適切に処置することは、武警部隊が国家の安全と社会の安定を守るという憲法と法律によって裏打ちされた重要な使命である。
……所信表明とはいえ、決して新鮮味のある内容ではありません。「現在、わが国は正に発展における重要な戦略的好機を迎えている。だが同時に人民内部の矛盾が突出し、刑事犯罪が頻発し、敵との闘争が複雑になる時期でもある」というのは昨年から言われていることで、3月の全人代の政府活動報告も言及していますし、共産党員の「先進性教育活動」に関して中央組織部の李景田・副部長が7月に行った記者会見でも同じ認識を示しています。
●政府は「集団的事件」に打つ手なしかよオイ。(2005/07/16)
●庶民も国家も食い物にする連中。(2005/07/29)
例えば都市再開発に伴う転居強制とか、農村での土地収用とか、それに伴う補償の薄さ(往々にして当局側の汚職に起因する)、そしてそれらを原因とする官民衝突などが「人民内部の矛盾」ということになるのでしょうが、観じ切ってしまえば「一党独裁制の弊害」とする方がしっくりするように私は思います。広東省・番禺の太石村で発生した「農民の民主化運動」を当局が無理やり叩き潰した一件、あれも「人民内部の矛盾」ですか、そうですか。
現段階におけるわが国の経済・社会発展面での不均衡や利害関係の複雑さは、人民内部の矛盾が様々な形で多発するという傾向を呼んでおり、各種集団的事件の発生件数は明確に増加し、その規模も絶えず拡大しつつある。集団的事件は往々にして様々な矛盾が相互に混ざりあっており、状況は複雑で処置する上での難度は高い。
……まあ、上述したような以前からあった現状認識が武警トップによって語られたところは新しい点です。「状況は複雑で処置する上での難度は高い」という泣き言(笑)は外向けのものでしょう。これをきれいに表現すれば、共同電のように「胡錦濤指導部内の危機感を示すものとみられる」ということになります。
武警部隊はこうした新しい状況に応じた新たな挑戦に対し、胡主席(胡錦涛)の要求に照らして部隊を整備して、真の「突発事件を適切に処理する非常に戦闘力を有する部隊」として、「安定維持」を全うする重要勢力という役割を果たさなければならない。
……「泣き言」と上に書きましたが、実際武警さんも苦労していると思います。都市暴動にせよ農民暴動にせよ、投石で怪我したり警察車両を燃やされたりしながら(いまでも「武警」=「wujing」=「WJナンバー」なんでしょうか?)、「妥当に処理」「適切に処置」するため非殺傷型の装備で立ち向かわなければなりません。つい使いたくなると思うんですよねえ突撃銃を。掃射して憎き暴徒をバタバタと薙ぎ倒す。実に爽快じゃありませんか。
汕尾市の「12.6」事件はたまたまパパラッチ型取材に長じた香港紙記者の庭ともいえる広東省で起きてしまったので騒がれましたが、実弾射撃は海外メディアの可視範囲の外で結構行われているんじゃないでしょうか。あるいは利害絡みや境界線争い、水争いなどで「A市の武警vsB市の武警」といった実戦が発生したりしているかも知れません。「12.6」事件に対する私の第一印象は、
「武警が地元当局の私兵化しているのでは?」
というものでした。
――――
ところで文中にある「胡主席」というのは胡錦涛のことですが、「主席」とは国家主席ではなく「党中央軍事委員会主席」でしょう。武警は形式上は公安部と人民解放軍(具体的には中央軍事委員会)に両属していますから、そこに「胡主席」が出てくるとすれば党中央軍事委主席でしかあり得ないからです。この点は読んでいて私も虚を衝かれたような感想を持ったのですが、人民解放軍が中華人民共和国ではなく中国共産党の軍隊であるように、
武警もまた国家よりも党(中共)を優先する武装組織
なのです。
まあ中共優先とか私兵化とか、そういったことは後半で。とりあえずハーフタイムです。
(
「下」
に続く)
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