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素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)
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武警はバラけて乱れつつある模様。・下
中国観察
/
2006-01-07 06:32:36
(
「上」
の続き)
「上」で紹介した「人民内部の矛盾」、これに関して前掲の『星島日報』(2006/01/05)の記事は、
「公式統計によると、内地(中国本土)で発生した比較的大規模な集団的抗議事件は一昨年(2004年)、7万4000件以上に達し、昨年(2005年)はさらに増加傾向にあった」
としています。こうした「人民内部の矛盾」を「妥当に処理」「適切に処置」しなければならない、というのが武警(武装警察)の課題であり使命なのですが、「人民内部の矛盾」は「人民」によるものである以上、これは敵視・撃滅する対象ではありません。武警にとっての敵対勢力というのは別に存在しています。論文から訳出しますと、
目下のところ世界はいまなお不穏であり、各種の矛盾が複雑に錯綜し、平和と発展に影響を及ぼす不安定・不確定要素が依然として存在している。西側の敵対勢力はわが国の西洋化、分化を図るという政治的陰謀を未だ放棄しておらず、様々な手段を通じてわが国に対し浸透、破壊、転覆活動を行っている。
民族分裂勢力、宗教極端勢力、そしてテロリズムを奉じる勢力がわが国周辺の一部の地区で依然としてかなり活発に活動しており、特に「台湾独立」「チベット独立」「東トルキスタン独立」「民主化運動」「法輪功」などの敵対勢力は、手を換え品を換え攪乱活動、破壊活動を行っており、わが国の国家安全と社会の安定にとって直接的な脅威となっている。
……ということで、これが殲滅すべき対象ということになります。ちなみに「民主化運動」とは海外の反体制系組織などのことで、広東省・番禺の太石村で起きた「農民の民主化運動」(村長改選・汚職疑惑究明運動)のように法に則った活動とは別物です。もっとも一党独裁の中共政権ですから、たとえ法に則った活動であっても党にとって都合の悪いことなら容赦なく叩き潰します。太石村事件は正にその好例でしょう。
あるいは、上で「敵」について規定しているので、そのレッテルをかぶせてしまえば相手が「人民」でも殲滅可能となります。「攪乱分子」「破壊分子」「政権転覆分子」などにしてしまえばいい訳で、広東省汕尾市・紅海湾で発生した「12.6」事件にしても、市当局の発表では「少数の『××分子』に煽動された村民が……」ということになっています。
――――
法制あれど法治なし。法律よりも党の意思が優先される国は怖いですねえ。……ということで武警が人民解放軍同様、中華人民共和国よりも中国共産党を優先する、つまり国家ではなく党(中共)に従属する武装組織であることにふれておきたいと思います。再び論文から訳出しますと、
武警は(中略)党中央、中央軍事委の指示と胡錦涛主席の武警部隊建設に関する一連の重要論述を思想的・理論的な武器とし、部隊建設における重大な現実問題を真剣に解決しなければならない。
……と、武警が国家ではなく党に従属するという原則が示されます。さらに、
「永遠に党と人民の忠実なる衛士たること」との要求を断固貫徹し、思想・政治建設の強化に力を注ぎ、部隊が一貫して党中央と中央軍事委の指揮に従うことを保証しよう。永遠に党と人民の忠実なる衛士たることは、武警部隊が新世紀・新段階の歴史的使命を履行する上での根本的保証である。
……と畳み掛けます。「党と人民の忠実なる衛士」ときましたが、ここには国家のニオイがしません。「人民」は「国民」に等しいのかどうか私にはわかりかねますが、例えば中国国籍を有する李さんや張さんが「人民」かどうかを判定するのはあくまでも中国共産党であって、中華人民共和国政府ではないでしょう。
――――
(武警は)党の絶対的指導を永久不変の警魂とし、「軍隊の非党化、非政治化」及び「軍隊の国家化」などの誤った観点の影響を断固排除して、党が思想・政治・組織の各面から部隊をしっかりと掌握することを確保し、広範なる官兵が断固として党中央と中央軍事委の指揮に従うことを確保しなければならない。
(武警は)終始一貫して党の基本理論で官兵を武装し、党の路線・方針・政策と重大な決定を以て部隊の思想と行動を統一するよう部署しなければならない。
……ここまで来ると「武警は党に従属する組織」というだけでなく、「武装警察」とはいえ実質はやはり「警官の制服を着た軍人」なんだなあ、という印象が強くなります。
さらにいえば、武警も軍同様、少将、中将……といった階級があります。階級自体は警察官にもあるでしょうが、少将、中将といった軍と同じ呼称を用いていることからも「制服を脱げば軍人」という本質を垣間見ることができるといえるでしょう。また、
「党の絶対的指導」
「『軍隊の非党化、非政治化』及び『軍隊の国家化』などの誤った観点の影響を断固排除して」
という言い回しは、八一建軍節(人民解放軍の誕生日とされる8月1日)恒例の軍機関紙『解放軍報』の社説そのまんまです。
●兵隊さんが揺れてます。――解放軍報八一社説。(2005/08/03)
――――
ところで今回発表された論文のタイトルは
「政治的に揺るぎない人民の模範となるような部隊の建設に努めよう」
となっています。これは、
「政治的に揺るぎない武警」
「人民の模範となる武警」
というイメージと実態がともに揺らいでいることを示唆するものといえるかも知れません。実はこの論文、三部構成なのですが、「人民内部の矛盾」とか「敵対勢力」が語られるのは第一部だけで、第二部・第三部は、
「党中央の絶対的指導に従え」
「思想を堅固にせよ」
「部隊の高度な安定と集中・統一を維持せよ」
「大局眼を持て」
……といった内部向けの説教に費やされています。ニュースあるいはトピックとしては共同電などの伝える「人民内部の矛盾」云々が重視されるでしょうが、タイトルと内容からいえば、この論文の重点が第二部と第三部に置かれていることは明らかです。
これまた意地悪な見方をすれば、
「党中央の指導に従わない」「思想的に動揺している」「部隊の安定と集中・統一が十分でない」「大局眼を持たない」
といった武警が増えつつあることを、武警トップ筋ひいては胡錦涛政権が深刻視していることを暗示しているといえます。「人民内部の矛盾」も問題だがむしろ武警自体の乱れっぷりの方が深刻ではないかと。ここでいう深刻視される「武警」とは個人のことではなく、武警の下部組織、末端組織といったニュアンスです。
「上有政策,下有對策」(中央で決めた政策が地方・末端レベルでは骨抜きにされてしまう)
という現象が、武警においても坐視できない状況になりつつあるのかも知れません。
――――
言うなれば武警も「諸侯」化している、ということです。いや「諸侯」の走狗と化しているというべきでしょうか。具体的には党中央や中央軍事委を疎かにし、地元当局の意を汲むことを専らとしている、全国的な観点という大局眼を持つことなく、地元優先志向に傾く、といったことです。
上海市など特に沿海部の地方政府がデベロッパーと結託して不動産開発で荒稼ぎしましたが、武警も末端レベルで地元当局と利権の面などで一蓮托生(癒着)の関係となっているのではないでしょうか。極端な言い方をすれば、地元当局の私兵同然になっている。実例はいくらでもあるでしょう。
例えば、無茶な土地収用や工場による河川・大気汚染といった環境破壊が地元当局によって隠蔽され、農民の抗議には全く取り合わない。農民の健康や生命なんかより土地売却益や企業からの税収の方が当局にとっては大事だからです。最後にキレた農民が暴動を起こすと、そこで武警さんの出番。時代劇でいえば悪徳商人に飼われている浪人先生のようなものです。
そういうケースが時代劇でなく実際に多発していることは当ブログで再三紹介しているところですが、それも氷山の一角、運悪くバレてしまった事例に過ぎないのでしょう。「12.6」事件における武警の役回りなどは正に悪徳商人に飼われている浪人先生、定州事件の雇われ暴徒そのものではありませんか。
ただ実弾射撃で農民たちを薙ぎ倒してしまったこと、これは私たちの視界外にある僻地だとセオリーなのかも知れませんが、香港の目と鼻の先である広東省、しかも海外メディアが以前から注目していた案件でやってしまったのは勇み足でした。農民も爆弾などを用意して武装していたようですから、緊迫した局面で現場指揮官がつい逆上してしまったのかも知れません(余談ながら、今年は「武装農民vs武警」というシチュエーションが増えそうで楽しみです)。
この現場指揮官も責任を問われて刑事拘留されたと発表されていますが、その後は音無しですね。汕尾市当局が庇い、それを広東省当局が保護しているのでしょう。「親民路線」を掲げ、「調和社会の実現」を目標とする中央の胡錦涛政権がそれに介入できず、せいぜい武警トップに説教調のかような論文を発表させることしかできないのですから全くお笑いです。乱れています。
――――
上下に分けた長文なのにとりとめのない内容になってしまい申し訳ありません。とりあえず原題の「武警も動揺している模様。」は撤回しておきます。この実態は動揺なんて高級なものではありませんね。とうとうバラけてしまったというか地金が出てしまったというか、本卦帰りしたという観があります。これもまた中共による統治システムが軋み始めていることの証左ということになるのでしょう。
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