日弁連はオブラートの包み方が上手くないようで。
「法曹増員、数年は抑制を」現状と同水準、日弁連提案へ
(2009年2月8日(日)03:01 朝日新聞)
司法試験の合格者を2010年までに年間3千人にする政府の計画について、日本弁護士連合会(宮崎誠会長)が、09年以降の数年間は現状の合格者数と同水準(2100~2200人程度)に抑えるよう求める提言の原案をまとめた。
(中略)
意見書は、法科大学院の「教育の質」が問題となっていることや、企業や市民の弁護士利用が増えていない現状を挙げ、「3千人という数値目標にこだわるのは不適切」と指摘した。
3000人合格体制というのは、司法試験という資格試験の合格者自体には特権的地位を与えるのをやめる、というだけなわけで、なんかピントはずれな議論だと思います。
弁護士にはその使命である人権擁護と社会正義を実現するために(今のところはまだ棒読みではありません)職業独占と自治が認められていているわけですが、司法試験合格者が当然に弁護士になれるとはどこにも決められてません。
逆に、弁護士が少ないために弁護士がいない地方都市の人の権利を擁護したり、一度司法試験に通ったら人数が少ないことをこれ幸いにいい加減な活動をする一部の弁護士を淘汰するために司法試験合格者=弁護士候補者を増やして、サービスの質と量を増やそうということだったはずです。
資格があったら当然に就職が出来るとか高い収入を得られるというのは一般的には不健全だと思います。
タクシーが多すぎるから自動車の二種免許を減らせとか長距離トラックの運転手の労働条件が悪いから大型免許を減らせ、という議論にはならないのと同じことです(弁護士の方が一緒にされて腹が立つ、というのであれば、腹が立つ理由を考えることが問題の本質に近づくことになるのではないでしょうか。)。
弁護士の「就職難」の実態はよくわかりませんが、弁護士過疎地域はまだ存在しているので、司法試験合格者の方も大都市での就職にこだわらなければ「失業」ということにはならないのではないかと思いますし、雇う側の既存の事務所も自分のパイを守ることだけを考えれば就職口は増えません。
既存の法律事務所が「仕事が増えないのにこれ以上雇えない」というのは、構造的には企業の非正規社員切りや正社員採用抑制と同じで、企業がマスコミのバッシングを気にしている中このご時勢堂々と言えるのはうらやましくもあります。
就職難の原因が「最近の司法試験合格者は能力が低くて使えない」とまで明言されてもいないようですし。
つぎに各論について。
「法科大学院の「教育の質」が問題」だというのは何を根拠にいっているのでしょうか。司法試験の合格率が低いのであれば、それは資格試験として機能している証拠なはずです。ましてや法科大学院の質それ自体は直接的には「合格定員を減らせ」にはならないはずです。
それよりも受け入れ側の弁護士会として具体的にどのような教育をするように求めるとか、司法試験のハードルをどの程度の高さに設定すべきだ(その結果として3000人合格にこだわるべきではないというならわかります)という提言をするべきではないでしょうか。
それに、多くの弁護士が法科大学院の教授や講師を務めているという事実を日弁連はどう評価しているのでしょうか。
弁護士が教育に専従しても成果が上げられない=実は弁護士事務所でのOJTも機能しない=結局司法試験を超難関にして優秀な人材を集めて初めて機能する仕組みだ、と開き直ればそれはそれで説得力はありますが、そういう仕組みにのっかって「人権擁護と社会正義の実現」(ちょっと棒読み)をはかるという制度自体がいかがなものか、というのが今回の司法制度改革のそもそもの問題意識だったのではないでしょうか。
「企業や市民の弁護士利用が増えていない現状」についても、弁護士側からここ数年特別な努力をしていたのでしょうか。
「市民の利用」については電車などの債務整理の広告は確かに増えましたが、ほかに何かやっているのでしょうか。
また企業の側からも、ここ数年でサービスの質が変わったという印象は持っていません(「質が低い」というわけではないですが特に向上もしていないかと)。ローファーム系の事務所に依頼すると打ち合わせの末席に座る最近入った弁護士の数が増えたくらいのものです。
「需要が増えないから供給調整をする」というのは企業の世界ではカルテルと呼ばれているのですが、その調整をしないと「人権擁護と社会正義の実現」(かなり棒読み)が危いような状況なのでしょうか。
どうもいろんな配慮の結果中途半端な提言になってしまっているようですが、開き直ってこのままじゃ食えないからどうにかしろと言ってしまうと、(昔の?)日本医師会のように診療報酬の引き上げのための圧力団体になってしまうところが悩ましいところなのかもしれません。
でも医師と弁護士の両方の資格を持っている人のほとんどは弁護士を本業にしていることなどからみても、まだまだ弁護士業は「おいしい」のではないかと思うんですが。