一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

よく噛んで食べましょう

2004-12-10 | あきなひ
伊丹敬之 一橋大学大学院商学研究科教授の講演「見えざる資産としての組織能力」を聴く。
一言で言えば、経営戦略を考えるときには、それぞれの企業の組織風土(見えざる経営資源)との適合(合っているか、強化できるか)が重要だ、という話でした。

80年代のアメリカの経営学者マイケル・ポーターに代表される市場における比較優位を確保するための「ポジショニング」の選択を中心とする経営戦略論と比較して、ポジショニング理論は、選択したポジションを占めるための経営資源がその会社になければ外から買ってこれる、というアメリカ的経営環境を前提としているが、日本では経営資源を簡単に外部から「買ってくる」わけにはいかない。そういう経営環境の中では、企業が持っている見えざる経営資源(組織風土、ノウハウ)に適合し、それを強化するような経営戦略を立案する事が大事だ、と主張する。

じゃあ「見えざる経営資源」って何か、というと、仕事の中では「カネ」のほかに「情報」や「感情」も流れている。その情報の流れを蓄積し、また発信する能力、その能力を継続的に向上させていく学習能力の総体のことをさすようです。

具体的には、ヤマト運輸はセールスドライバーをすべて正社員として、顧客との荷物の受け渡しの接点のところで個々の顧客のニーズを拾い上げ、顧客満足度を高めるしくみ(正社員のモチベーションも含めて)がある、とか、セコムはホームセキュリティをやった結果として、侵入犯の手口(いつ、どういう家に、どういうところから侵入するか)に関する膨大なデータの蓄積を(当初はその情報を集めるのが目的ではなかったけど結果として)得ることになり、それが新サービス・新商品の開発につながっている、というような例。
あと面白かったのがサニックスというシロアリ駆除会社が、シロアリ駆除や調査のために家の床下に潜っているうちに、どういう家が基礎が危ない、というデータが蓄積されて、それをもとに耐震補強工事の請負に進出して成功しているという話。(確かに「耐震補強工事のマーケティングのために床下に潜らせてください」と頼んだのでは絶対に得られない情報だよね。)

このように、企業に蓄積された、金を出しても買えない、しかも蓄積に時間のかかる情報・ノウハウを利用・強化しよう。それは直接的に資源を投入して得られるものと、日常業務の副産物として得られるものがあって、特に後者の顧客との接点で個々の従業員が学習する地道な努力が、企業の隠れた経営資源として重要ですよ、というまとめでした。

言われてみればもっともだし、現場レベルでの「気が利く・利かない」とか、「他人(他社)任せにするとノウハウがたまらない」というのは大きな差になって出てくるという実感はある。
だからといって何でも内製するのじゃ身が持たない、というのも事実。
効率一辺倒じゃなく、手間隙をかけても自分でやる事とのバランスが大事、というのはなるほどと思った。

丁度IBMがPC事業を売却するという話が出たところだけど、PCって部品の寄せ集めで出来ちゃうから、競争の中で比較優位が保ちにくいという典型だな、と再認識。


でも、本日のメインの教訓は別のところに。


講演が終わった後の質疑で、ロクな質問が出ない。
大きく分けると
1 自分の意見や経営に関する思いを(それも流行の専門用語をちりばめて)語って、そもそも質問になっていないタイプ
2 「で、特効薬はないんですか?」「簡単な評価基準はないんですか?」というお手軽タイプ
の2つ。それに
3 「関係ないけど楽天やソフトバンクの球団買収をどう思いますか?」の世間話タイプ

3は論外としても、また、いきなり話を聞いた直後にすぐにはポイントを理解できないというのはよくわかるけど、折角「顧客・マーケットとの接点での情報・ノウハウの地道な蓄積が大事です、なので日常の仕事に知恵を絞りましょう」という話を聞いた後に、人の話を聞いてませんでした、というような質問をする人が多いのはずっこけた。
「質問をする俺ってかっこいい」とか講演前から質問を決めていたというような質問自己目的タイプの人なんだろうか・・・?

ということで「他人の話をよく聞いて、単なる自己主張でない、議論を発展させるような発言をしよう。」というのを自らへの戒めも含めて今日の教訓とします。
まあこれも、顧客との接点での情報の咀嚼ということですな。


閑話休題

東大の経営戦略論のグループ(土屋守章名誉教授門下)に属する知人の話では、一橋の経営学一派は経営大学院(ビジネススクール)を中心にマーケティング(このような講演活動やメディアへの露出)、顧客の囲い込み(企業の研修の講師派遣、それも一度握ったらグループ外には出さない)が強烈で、東大一派はのほほんとしているうちに大きく水をあけられてしまったらしい。
経営理論の実践で差がついた、ということだけど、まさに、いろいろな現場での経験を営業活動にフィードバックしているという「見えざる資産の活用」そのものなので、その辺の話を聞きたかったな、と思った。
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