一寸の虫に五寸釘

だから一言余計なんだって・・・

『アートは資本主義の行方を予言する』

2015-12-07 | 乱読日記
タイトルは大仰だが面白い。

日本で最初に現代アートを取扱い始めた東京画廊の二代目当主が、日本の戦後の現代アートの歩みと現在の世界の潮流を語る本。

特に、現代美術は世界のカネの流れとつながっている、というところが本のタイトルでもありポイント。
ただ、単にカネを持っているところに美術品が集まるという話ではなく、経済力を持った国が自国の文化的地位を向上させるための政策の一環として現代美術に取り組んでいるが、一方で日本はいまだにハコモノから抜け出せていないという部分を著者は力説している。

アメリカは経済的な覇権を握った後に、文化面でも欧州に対抗するために自国文化としての現代アートの発信に取り組み現代アートの覇権を握った。
今日では(日本を素通りして)中国が世界第二の美術市場になっているだけでなく、美術館を建設し、アートフェアを開催し、中国人アーティストを発掘してそれを高値で買うことで市場に注目させるという一貫した政策を行っている。
実際、2011年のアーティストの年間落札額トップ10のうち6人が中国人となっている。
(それに対して日本は、バブル期にハコモノを建てて印象派の絵画を買い集めるだけ・・・)


それ以外にも、グローバルで売れるにはその国の美術史や文化とつながる歴史性と物語性が必要、とか、自分の主観だけで作られた「閉じた」作品でなくメッセージ性をいかに伝えるかという客観性も持った「開いた」作品であるかがプロとアマの違い、など、画廊経営者ならではの切り口も多い。


最後の方で資本主義の限界が見える中で、アートや文化の持つ力が未来を切り開く原動力になるという著者の主張の部分から、(おそらく編集者がビジネスマンをターゲットにすべく)題名を考えたのでしょうが、手に取る動機はさておき、現代アートand/orお金に関心のある人には面白い本だと思う。


(参考)
本書は画廊・ギャラリーでの二次流通の市場の話が中心になっているが、美術館の経営、特に米国で資産家・蒐集家の所蔵品を寄贈させるしくみなどについては、『美術館は眠らない』がおすすめ。
絶版ですが中古では入手可能なようです。
(その部分についてはこちらのエントリでもちょっと触れています。)






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