「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

被害者の苦悩と向き合う (1) -- 矯正の現場 (11)

2012年01月12日 23時10分38秒 | 罪,裁き,償い
 
 家庭裁判所の審判廷。

 19才の加害者少年は、 56才の男性に言いがかりを付けて、

 殴る蹴るの暴行で 意識不明にし、 3ヶ月の重傷を負わせました。

 前方に、 両親にはさまれて 長椅子に座っている、 少年の背中が見えます。

 被害者男性の妻 (49) は、 少年の背中に向かって 意見陳述をしました。

 「今は回復したとはいっても、 まだ元のように 仕事ができるわけではありません。

 主人の大切な時間を 返してください」。

 「謝罪はいりません。

 心から反省しているかどうかは、 これからの生き様で 見せてくれたらいい。

 私はしっかり見ていますから」

 少年院に収容された少年は、 担当教官と交換する ノートに綴りしまた。

 〈審判の時、 被害者の方の奥さんが来て、

 僕は凄いことを言われるんだろうなって 思っていました。

 でもその方は  「あなたが奪った時を 返してください」 と言われました>

 教官から返事が返ってきます。

 〈これ程大きな発言はない。

 それだけ奥さんも つらかったということです〉

 半年後、 少年は 父親を病気で亡くします。

 最期の8日間、 意識不明の状態が続き、

 被害者の妻の  「時間を返してほしい」 という言葉が 頭に浮かびました。

 「自分と同じように、 意識が回復するのを待ち続けた 奥さんの苦しみを思い、

 事件を初めて 心から後悔しました」

 少年はそう振り返りました。

(次の日記に続く)

〔読売新聞より〕
 
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少年院  指導名目に 「泣かす」 (2) -- 矯正の現場 (10)

2012年01月10日 10時06分23秒 | 罪,裁き,償い
 
(前の記事からの続き)

 広島少年院はその以前、 規律が大きく乱れました。

 新任の職員は なめられて指導できず、

 少年たちは 好き勝手にやっている状態でした。

 職員に  「あのような時代には 絶対に戻りたくない」 という意識が、

 根強く引き継がれていたといいます。

 法務省が 全国の少年院の職員に 行なったアンケートでは、

 過去に暴力行為などの 虐待をしたことがあるという回答が 1割ありました。

 元法務教官は、

 「暴力に頼るのは論外だが、 少年院では 施設の秩序維持のためには、

 少年たちを 厳しく統制せざるを得ないと 考える傾向がある」 と指摘します。

 ある法務教官は、 一人の少年のことが 忘れられません。

 交際相手を巡り トラブルになった男性に 激しい暴行を加えた少年は、

 「被害者は自分だ」 と 教官に食ってかかるだけでした。

 しかし、 時には個室で生活させ、 他の教官も含めて話すうち、

 家族がアルコール依存症で、 暴力を受けて育ったことを 語り出します。

 「被害者にどうやって 謝ればいいでしょうか」 と

 相談してくるまでになったのです。

 「力で抑え込んでも、 問題の根本は解決しない。

 大切なのは、 自分を受け入れてくれる 人がいると、 少年に知らせること」

 この法務教官は 今もそんな思いで、 少年たちと向き合っています。

〔 読売新聞より 〕
 
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少年院 指導名目に 「泣かす」 (1) -- 矯正の現場 (9)

2012年01月08日 20時05分17秒 | 罪,裁き,償い
 
 「やってはいけないことだとは 分かっていました。

 犯罪にあたるという 認識はありました」

 広島少年院のN法務教官は、 18人の少年に 24件の暴行を加えたとして、

 特別公務員暴行陵虐容疑で起訴されました。

 同少年院では他に、 法務教官3人と元首席専門官も 同罪に問われました。

 広島地裁はN被告に 懲役2年6月の実刑を言い渡します。

 「陰湿で卑劣な 加虐行為以外の何ものでもなく、

 指導の延長線上の行為として 是認することなど到底できない」
 

 少年院は 刑罰を科すのではなく、 少年に矯正教育を 授ける場です。

 少年たちは 寮生活を通じて 社会性を身に付け、 職業訓練などを受けます。

 しかし 広島少年院では、

 「泣かす」 「つぶす」 という言葉が 教官の間で交わされていました。

 「寮の生活に従わせるために、 怒鳴りつけて泣かす。

 口で言ってダメなら、 暴力をふるった」 と N被告は明かしました。

 少年と教官の 力関係を分からせることを  「泣かす」 と言いました。

 規律違反を繰り返す少年には 殴るだけでは限界があると思い、

 全裸にするなど 精神的にも追い詰めました。

 「殴った少年の 痛そうな表情を見ると、 やっと懲りたなと感じた。

 彼らに 心の底から反省させるには、 手を出すことを必要だと 信じていた」

 一方、 N被告に殴られた少年は、

 「何で自分が殴られなければいけないのか、 全く分からなかった」 と 言います。

 「少年院に入って、 自分のためになったことは 何もなかった」

 少年は院を出たあとも 精神的に不安定な状態が続き、 精神安定剤を手放せません。

(次の記事に続く)

〔 読売新聞より 〕
 
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12回入所、 「反省の場」 遠く (2) -- 矯正の現場 (8)

2012年01月07日 20時01分17秒 | 罪,裁き,償い
 
(前の記事からの続き)

 古い構造の女子刑務所では、 雑居房と廊下が 引き戸で仕切られているだけで、

 刑務官の巡回のすきを見て、 違う部屋の受刑者と 互いに行き来して話ができました。

 刑務所内で 出所後の連絡先を教え合うことは 禁じられていますが、

 テレビで料理の手順を メモする時に、 材料の分量を 電話番号に書き換えておけば、

 刑務官に見つかることは まずありません。

 女性受刑者は、 教誨 (きょうかい) を受けましたが、

 「お釈迦さまの話は 私たちの罪とは関係ない」 と思いました。

 教材として 助産師などのドキュメントを見ても、

 「それで 窃盗をやめなければと 思えたことは一度もなかった」。

 2006年から、 受刑者に矯正教育を行なうことが 義務づけられました。

 ただ、 窃盗は 犯行までの事情が 受刑者ごとに異なるため、

 一定のプログラムがなく、 各刑務所が試行錯誤を続けています。

 窃盗の受刑者を対象に 勉強会を始めた刑務所では、

 8人ずつのグループで、 どうすれば盗みをしなくてすんだかを 考えさせます。

 罪を悔いる 発言は多いですが、 再犯者を何人も見てきた 矯正処遇官は、

 「彼女らの本心を知るには 限界があり、 態度が良くても 安心しきれない」

 と話します。

 刑務作業を 安全に進める心得を 書くように求められた時、

 ある受刑者は、 別の受刑者に考えさせた文章を 書き写して提出。

 その文章は 模範的な作品として、 工場に向かう廊下に 張り出されました。

 多くの受刑者は、

 何とかうまく 刑期をやり過ごすことだけを 考えているといいます。

〔 読売新聞より 〕
 
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12回入所、 「反省の場」 遠く (1) -- 矯正の現場 (7)

2012年01月06日 22時29分39秒 | 罪,裁き,償い
 
 「累犯部屋」。

 更生保護施設にいる女性 (64) が、 過去に入った 刑務所の部屋は、

 仲間内でそう呼ばれています。

 女性は 5ヶ所の刑務所に 計12回入所しましたが、

 そのうち4ヶ所では、 罪を重ねた受刑者を 同じ部屋に収容していました。

 「覚せい剤やらない?」  「空き巣は面白いよ」。

 「殺人以外の ほとんどの犯罪の誘いが 飛び交っていました」 と、

 女性は振り返ります。

 30年前、 万引きなどで3回目の服役中、

 累犯部屋で すり常習犯の受刑者と知り合いました。

 出所後、 この人物に すりの手口を教えられ、 やめられなくなりました。

 回を重ねるにつれ、 出所から次の再犯までの 期間は短くなりました。

 「今度こそやめる?」 と、 面会に来た母親から 尋ねられても、

 うなずくことができません。

 母親は 9回目の服役中に他界。

 身元引受先になっていた子供も、 11回目の入所以降、

 音信不通になってしまいました。

 「私にとっての刑務所は、  『もうあんな所に行きたくない』 と、

 犯行を思いとどまらせるものではなかった」 と 女性は言います。

 「過ごしにくいという訳でもなく、

 刑務所というより 学校か会社の寮みたいな 感じの所もあった」 と。

(次の記事に続く)

〔 読売新聞より 〕
 
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交通刑務所は 「開放的」 -- 矯正の現場 (6)

2012年01月04日 20時05分59秒 | 罪,裁き,償い
 
 交通犯罪の刑務所は、 分厚いコンクリートの壁はなく 大人の背丈ほどの金網で、

 鉄格子もありません。

 家族との屋外面会所は 木立に囲まれ、 オープンカフェのようです。

 一般の刑務所より 規則が緩い、  「開放的処遇」 が行われています。

 快適そうな環境で、 被害者や遺族の苦しみを 考えることができるのか、

 ある遺族は疑問をぬぐえません。

 受刑者は刑務作業以外に、 交通安全や断酒の 指導を受けます。

 「開放寮」 では、 寮生活のルールを決める 寮委員が選出され、

 視聴するテレビ番組も 受刑者自身が決めるのです。

 自分の責任で行動するのは 逆に辛い、 と言う受刑者もいます。

 そういう人も トラブルなく刑期を終えると、

 自信を持って 社会に戻れるというのが、 開放的処遇の意義だといわれます。

 一方、 事故とはいえ、 他人の命を奪った人への 処遇としては甘い、

 という意見もあります。

 出所後の心構えの講義でも、 脇見やあくびをする姿が 目に付きました。

 犯罪を犯したという 認識に欠けた人が 多いことも否めません。

 制限速度を70キロも超えて 対向車と正面衝突し、 相手の命を絶った加害者は、

 「被害者に恥ずかしくない 日々を送ろう」 と 決心して入所しました。

 枕元には 被害者のお墓の写真を 置いていますが、

 厳しく注意されることのない 日々を、 楽に感じてしまうことも あると言います。

 交通刑務所には 被害者を供養する 「つぐないの碑」 があり、

 「あやまちを反省し、 社会人として立ち直ることを 誓います」

 と刻み込まれています。

 出所前に受刑者は、 この文章を大きな声で 読み上げるのが習慣です。

〔 読売新聞より 〕
 
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雑居房で犯行 「謀議」 -- 矯正の現場 (5)

2012年01月03日 18時23分34秒 | 罪,裁き,償い
 
 2002年、 マブチモーター社長宅から 火の手が上がり、

 焼け跡から、 殺害された 妻と娘の遺体が 発見されました。

 有力情報に謝礼金を支払うと 発表されると、

 「犯人を知っている」 という 電話がかかってきました。

 それを基に 小田島と守田が逮捕されました。

 二人はかつて、 刑務所の同じ雑居房にいました。

 情報提供者も 同じ刑務所の元受刑者でした。

 「逮捕されないためには、 強盗の後で 目撃者を殺した方がいい。

 証拠採取できないように 現場も燃やす」

 小田島は刑務所で そんな話をしました。

 守田は  「出所したら 一緒にやらせてくれ」 と 言ってきたのでした。

 「金目当ての犯罪は繰り返してきたが、 残虐なことだけはしなかったのに」

 守田の弁護士は 首をかしげました。

 「刑期の長い受刑者ばかりが 集まる刑務所で、

 互いに悪い影響を 与えてしまったのではないか」

 そう思えてなりませんでした。

 小田島は、 贖罪の場である 刑務所において、

 更生を図り 内省を深めるどころか、 前回同様に強盗をしようと考え、

 さらに証拠隠滅のために 家人を殺害する計画まで立て、

 共犯者を巻き込んでしまったのです。

 雑居房の棟は 自由時間になると、

 受刑者たちがテレビをつけたり 談笑したりするため、

 刑務官が巡回しても 室内の会話は ほとんど聞き取れないといいます。

 刑務所で受刑者同士が 新たな犯罪に向かうのを 防ぐには、

 刑務作業以外の時間は 独房に入れるのが理想です。

 しかし物理的な事情で 雑居房は大幅に増やせません。

 馬淵元社長は こう訴えています。

 「罪を償い、 反省すべき刑務所が、  『犯罪学校』 になっている。

 更生以前の問題が そこにはあります」

〔 読売新聞より 〕
 
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