「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

家族の視点 -- ある母親の経験 (2)

2013年09月22日 20時53分48秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
(前の記事からの続き)

 私たちは、 遺伝子の問題なのか、 子供のときの環境が原因なのか、

 自分たちを責めました。

 親戚から偏見も経験しました。

 私たちは 現状を誰にも話したくなくて、 社交的な場に顔を出すのを避け、

 親戚との関係は ギクシャクしたものになりました。

 多くの臨床家が、 私たちの話に耳を傾けてくれず、 治療困難であり、

 家族の過干渉だとして、 見離されたことを 思い知らされました。

 精神疾患の支援団体までもが、 BPDに ほとんど関心を持っておらず、

 私たちの声を 抑圧しようとさえしたのです。

 私たちは、 多くの治療者, デイケアに 援助を求め続け、

 5回の入院のあと エネルギーと望みは消えてしまいました。

 ある日、 娘は大量の薬を服用して 救命救急質に運ばれ、

 四肢を拘束されて、 様々なチューブが取り付けられていたのです。

 私は 弁証法的行動療法 (DBT) を知らされました。

 週に1度、 複数の家族による 集団療法に参加しました。

 安全な状況の中で、 しっかり嘆くことによって 自分を責めるのをやめること,

 深く悲しむことによって 罪悪感の重荷を下ろすこと,

 偏見の苦しみから逃れることに 取り組んで、 大いに助けられました。

 教えの多くは、 BPDの人から学んだものです。

 どうすれば 押しつけがましくなく支持できるか,

 どんな場合なら 罪悪感を抱く必要がないか,

 偏見や差別に対して 娘をどのように助けていったらいいのか、 などです。

 私たちは、 娘が自ら責任を持って 回復できるよう、

 援助するチームの 一員になったのです。

 それは長く、 辛い取り組みでした。

 娘はもう一度 働くようになって 大学を修了したいと強く望み、

 一歩一歩目標へ向かっています。

 彼女には 再び友だちもでき、 リーダーとして見られています。

 私たちのもとに、 かつての娘が戻ってきたのです。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 

家族の視点 -- ある母親の経験 (1)

2013年09月21日 21時09分26秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
 学校の先生は、 発達上の問題についての知識は ごくわずかです。

 成長すれば治るという 神話が広がっています。

 BPDへの関心は深まりつつありますが、 実際に話をする人は誰もいません。

 ある種の秘密であるかのようです。

 BPDに苦しむ家族の 物語を紹介しましょう。

                   *

 娘は美しく、 すらりとした女性に成長しました。

 成績優秀で、 絵の才能がありました。

 しかし 彼女は自分のことを よそ者と捉えていました。

 彼女は自分の状態や、 何が起こっているのか、

 何の手がかりもないと 感じていました。

 私にはそれが なかなか理解できませんでした。

 BPDと診断されのは 20代の初めでしたが、

 それまで理解しがたかった症状に 説明ができるようになって、 安心しました。

 彼女は 摂食障害や過食症の症状を 示していましたが、

 自分の食生活について 嘘をつき、 標準体重スレスレに留めていたので、

 医師や私は まんまと騙されていました。

 薬物とアルコールの問題も生じました。

 にも拘らず、 娘は名門大学に入学しました。

 私は、 すでに病気が彼女を 蝕んでいることに思い至りませんでした。

 彼女が絵をやめてしまった時、 良くないことが起きていると気付くべきでしたが、

 勉強のために時間が必要と 彼女が言い張ったので、 安心してしまったのです。

 2年生になったとき、 娘は大学をやめて 自宅に帰ってきましたが、

 身長1m68, 体重39㎏でした。

 娘は助けを求めるのを ためらっていました。

 私と夫は、 良くないことに気付いていましたが、 なおも否認していたのです。

 優秀な娘が、 ごく普通の活動に対応できず、 自己破壊的な行動に走るなんて、

 どうしてあり得るでしょう? 

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より

(次の記事に続く)
 

当事者の体験記 (その2) -- BPDと手を繋げるようになりましょう (3)

2013年09月20日 21時05分18秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
(前の記事からの続き)

 第3の要因は、 場当たり的な行動を防止する 具体的な手段です。

 私はデイケアプログラムに参加しました。

 セラピストと、 必死に奮闘している仲間たちは、

 私を理解してくれ、 私は徐々に変わり始めました。

 弁証法的行動療法では、 自分の心に焦点を当てる 方法を教えられました。

 そして、 否定的な感情も、 肯定的な感情も

 受け入れられると理解できるようになりました。

 不信感の認識の仕方, 衝動的に行動しないための技能,

 人と関わる方法を 教えてもらいました。

 苦痛を和らげるための その場しのぎの行動は、

 健康的な行動に 置き換えられるようなりました。

 それには 練習を重ねる必要があります。

 容易ではありませんが、 充分 努力のしがいのあることでした。

 第4の要素は、 家族の愛と支援です。

 あなたを信じてくれる 人の大切さは、 どれほど強調しても足りません。

 家族のいなかったら、 私は今日 ここにいることさえできなかったでしょう。

 夫が諦めないお陰で、 BPDとともに 生きていけるようになったのです。

 現在、 私は 幸せと悲しみの両方を 安全に感じられるようになりました。

 感情的になっても 耐えることができ、 衝動を感じても 行動する前に考えます。

 自分の敏感さを恐れませんし、 いつ助けを求めていいか 分かります。

 「分裂」 することも それほど多くありません。

 自分の心の中を どのように表現したらいいか 学び続けています。

 問題の引き金に向き合うため、 自分にかける 優しい言葉を書き留めたり、

 混乱した感情を 言葉で表現するために、 日記を持ち歩いています。

 人生には 良いことも悪いことも 両方あることを知っていますが、

 安全に対処していけます。

 この数年、 私は仕事に復帰し、 心理学の修士号を取りました。

 精神病の人とその家族に、 弁証法的行動療法と対処技能を教え始めました。

 混乱を感じながらも、 私は毎日 自分にこう言っています。

 「BPDと手をつなぐのよ。  恐れちゃだめ!」

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 

当事者の体験記 (その2) -- BPDと手を繋げるようになりましょう (2)

2013年09月19日 21時27分59秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
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 とうとう私は BPDと診断されました。

 自己コントロールが失われる、 それは恐ろしいことでした。

 私はこれまで 何もかもちゃんとコントロールして、 よくやってきたんじゃないの?

 しかし 最も大切なのは、 私がBPDということではなく、

 私が現在、 健康で幸せな生活, 喜びと悲しみ,

 穏やかな時と辛い時に 満たされた生活を送っているということです。

 4つの要因のお陰で、 私はBPDとともに 生きていけるようになったと思います。

 第1の重要な要因は、 自分の考え方を 進んで変えていこうとする姿勢です。

 私は診断されてから2~3年かかり、 その間はほとんど進歩しませんでした。

 新しい方法で世界と向かうことを 不快に感じ、 耐えようとしませんでした。

 内面から変わらなければいけないと気付いたとき、 私の回復は始まりました。

 第2の要因は、 患者を支持し、 情報を提供してくれる 医療チームの存在です。

 個人療法は、 プライバシーが守られた環境で、

 自分の体験を 安心して吟味することができます。

 集団療法は、 自分と同じように苦しんでいる 仲間の支持や、

 自分の所属を得ることができます。

 対人関係を学び、 感情や欲求を 言葉で表現する練習もできます。

 私は 自分に対して批判的でしたが、 先生は安心できる環境を作り、

 共感的に 私の考えを変えようとしてくれました。

 私は頻繁に嘘をついたため、 自分がついた嘘を 忘れてしまうほどでした。

 私の行動を理解し、 次の予防戦略を 長時間考えました。

 自分が自分との関係を築き、 自分が何者なのか 明らかにしようとしていたのです。

 私は、 自分の課題をこなすことを 求められました。

 自分の選択とその結末の 関係を学ぶのは、 一貫した支持が非常に重要です。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より

(次の記事に続く)
 

当事者の体験記 (その2) -- BPDと手を繋げるようになりましょう (1)

2013年09月18日 22時16分54秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
 私の問題は かなり早い時期に始まりました。

 11歳の時に、 母と揉めていたことを覚えています。

 母は酷く怒っており、

 私は 自分の内側の世界に逃げ込むと、 ふたつに 「分裂」 しました。

 自分の身体から 内的な自分を取り出し、 箱の中に入れるのを想像しました。

 私は 「消えて」、 自分の好きなときに 戻ってこられましたし、

 その時の記憶を 持つ必要もありませんでした。

 現実は、 精神疾患なんて言葉が 許されない世界でした。

 高校生の時、

 私は 二人の人間がいるように  「分裂」 する練習をして過ごしました。

 別々の世界に出入りして 精神的な漂流をしていました。

 独りぼっちでいることが恐くてたまらず、

 その場しのぎの 薬, アルコール, 自傷行為, 自殺企図に走りました。

 成長するにつれて私は、 愛らしく、 人に受け入れられる

 見せかけの姿を装うことが できるようになりました。

 大学卒業後、 働きに出て結婚しました。

 子供を持つようになり、

 26年を経た現在でも、 夫と私は お互い深く愛し、 尊敬し合っています。

 自己同一性がないために発生する 問題を抱えていましたが、

 いつでも 「分裂」 することができました。

 母が亡くなると、 またしても私は 疑い深くなり、 自殺の思いに捕らわれ、

 向こう見ずな衝動に 走るようになりました。

 虚しさや恐れ, 自己嫌悪に耐えられず、 しばしば解離状態に陥りました。

 もし家族が 私について本当に知ってしまったら、

 彼らは私を見捨てるだろうと 考えていました。

 でも私の家族は、 私が苦しんでいることを知っていました。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より

(次の記事に続く)
 

当事者の体験記 (その1) -- 「同一性に対する疑問」 (2)

2013年09月17日 20時20分09秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
(前の記事からの続き)

 私はいつも、 変化したのは私以外の人だと 想像したものでした。

 まるで夢の中で、 誰かがその人でないように 意地悪くひねくれたと感じるみたいに、

 周りの人に対する 自分の気持ちが 分からなくなることがよくありました。

 友だちとして付き合いたい人や、 傷つけたくない人から、 離れることを決めかねて

 ぐずぐずしていることがよくありました。

 しかし、 その人たちの所へ戻ったことは 一度もありませんでした。

 一緒に働いていた人のことも 恐れました。

 体調が悪くて、 電話するのが 恐ろしくてできない時は、 大量に薬を飲みました。

 全てから逃げてしまうほうが 楽だったのです。

 かつては 無鉄砲で図々しかったのですが、

 尻込みして怯え、 内部が破裂しそうでした。

 26歳の時、 転移に焦点を当てた 精神療法を始めました。

 するとすぐに 自殺企図をしなくなりました。

 私の中に 生きたいと思う部分があり、

 治療を台無しにしないためには どうしたらいいのか、 自分でも分かったのです。

 先生は、 私の最も強烈で、 最も混乱した感情にも 耐えてくださいました。

 それらの感情は、 以前は何らかの 危険な行動化をしていたのですが、

 転移の中で 詳しく探求できたのです。

 治療はセラピストにとって、

 知性と理解の両方を必要とし、 単なる知的な経験ではなく、

 患者の激しい感情の世界に 溺れることなく、

 それにさらされることを必要とする 感情的な経験でもあるといいます。

 治療を初めて8年、 理性を失わせる激しい怒りは、 普通の怒りになりました。

 圧倒的で強烈な欲求不満は、 単なる欲求不満になりました。

 幸せを死に物狂いに求めて 何も思いつかない空虚感を、 ほとんど思い出せません。

 私はそれまで、 風変わり もしくは創造的であるということと、

 正気ではないということの 違いを分からない恐ろしさから、

 しばらくの間 何もかも放っておいたのです。

 今は 風変わりでも気にしません。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 

当事者の体験記 (その1) -- 「同一性に対する疑問」 (1)

2013年09月16日 22時45分21秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
 私がBPDと診断されたのは 22歳のときです。

 数々の症状を包み込んでくれる 名前の付いた入れ物があるというのは、

 安心させてくれることだと感じました。

 私に同一性の感覚を 与えてくれたのです。

 死を望んでいるというより 癇癪といったほうがいい自殺企図,

 温かく にぎやかな群衆の中にいても 自分を封鎖してしまう 漫然とした空虚感、

 これらが全て この障害の一部だと 明らかになったのです。

 私がすることは 全て度を越していました。

 食べきれないほど多くのトリュフを 食べることができないなら、

 トリュフは一切いらない、 と言うようなものです。

 私は自分が何者であるか、 何を望んでいるのか、

 回復したいために 長く生きたいと望んでいるのかも 分かりませんでした。

 治療の先に 全く光のないトンネルを 進んでいくような、

 限りない曖昧さや 不確かさに対して、

 私は物を蹴ったり 引き裂いたりしたくなりました。

 私の中には 生きたいと望む 不完全な薄い層がありましたが、

 それとは別の強力な声が 高波のように頭を満たし、

 急いで薬を飲みなさいと言って、 ホテルの部屋へと急がせました。

 同一性障害は、 BPDの子供に認められるが、 神経症の子供には存在しない

 と言われ、 子供の時からBPDだったと 認識せざるを得ませんでした。

 私は年1回の割合で 自分の呼び名を変えていました。

 他の子のお弁当を盗んで、 嘘をついて 信じてもらえないと分かっていながら、

 嘘をつき通せば 私は大丈夫だと考え、

 嘘に包まれて保護されているように 感じたことを覚えています。

 あれは 本当の私ではありませんでした。

 私はひょうきんで、 多くの突飛なことを思いつき、 向こう見ずでした。

 「私を見て。

  私がした楽しいことを聞いてちょうだい」 と よく言ったものです。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より

(次の記事に続く)
 

境界性パーソナリティ障害の長期経過

2013年09月15日 20時08分04秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
 BPDの人の長期的な転帰や、 どの人が改善するのか、 またはしないのかについて、

 ほとんど分かっていません。

 統合失調症や双極性障害は、 長期経過を検証した研究が 多数ありますが、

 BPDの経過を追った研究は ごくわずかです。

 後方視的 (回顧的) 研究 〔*注1〕 では、

 BPDの経過が 非常に変化しやすいことが分かりました。

〔*注1: 診療記録によって 対象患者を特定し、

 現在の時点から 過去を振り返って、 その診断に関係する事項を 調べていく研究〕

 患者によっては 職場や社会的状況で うまく機能できますが、

 苦しみの続く人もいます。

 3%から10%の人が 自殺によって亡くなっています。

 前方視的研究 〔*注2〕 は ふたつ行なわれています。

〔*注2: 時間の経過とともに、 被験者の集団を 観察していく研究〕

 マクリーン病院成人発達研究では、 BPDの症状の改善は 一般的に見られものの、

 感情症状は衝動性と比べると 軽減のスピードが緩やかでした。

 一方、 パーソナリティ障害経過共同研究では、

 BPD患者で比較的早く 改善が訪れていることが分かりました。

 1年後の追跡調査で、

 患者の半数以上が BPDの診断基準を満たさなくなっていました。

 これらの研究からは、

 BPDの人とその家族にとって、 従来より肯定的な見通しが 明らかになっています。

 研究が重ねられれば、 改善の要因が明らかにされ、

 回復の新たな希望が 見えてくるでしょう。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 

衝動的な行動症状に対する薬物療法

2013年09月11日 21時16分19秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
 BPDの衝動的な行動症状には、 自他や物に対する 衝動的な攻撃が含まれ、

 自殺関連行動の 主な危険要因です。

 浪費, むちゃ食い, 薬物使用, 性行為に現れることもあります。

 軽はずみな判断をするといった 認知的側面に影響があるかもしれません。

〈SSRI抗うつ薬〉

 衝動的行動に対する治療の 第一選択となる薬です。

 効果が不充分な場合には、 MAOI抗うつ薬, 気分調整薬が検討されます。

 暴力など 性急な効果が必要な場合には、

 期限を限って 低用量の抗精神病薬の筋肉注射が 必要かもしれません。

〈気分調整薬〉

 炭酸リチウムは、 投与量が多すぎると 重大な副作用を 引き起こす恐れがあり、

 過量服用が致命的となりかねません。

 定期的な血液検査で 血中濃度をモニターする必要があります。

 カルバマゼピンは、

 感情統制不全と行動面の症状の 両方に用いられる 抗けいれん薬です。

 ディバルプレックスは、 不安定な気分と 攻撃的行動に対して有効です。

 共に 定期的な血液検査が必要です。

○ 薬物療法の継続期間

 認知-知覚的症状に対する 低用量の抗精神病薬は、

 短期的使用 (数週間~数ヶ月) が現実的でしょう。

 感情統制不全と衝動的行動の 治療の場合、

 患者がストレスに うまく対処できるようになるまで、 薬を続ける必要があります。

○ 結び

 BPDの薬物療法は 試みの段階です。

 混乱した対人関係を 治療するものではありませんが、

 精神療法の効果を増す 治療法です。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 

感情統制不全に対する薬物療法 (2)

2013年09月10日 19時53分11秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
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〈モノアミン酸化酵素阻害薬 (MAOI) 抗うつ薬〉

 MAOI抗うつ薬は、 感情統制不全に対する 効果が実証されていますが、

 使用には危険が伴います。

 チラミンを含む食物を 多く取ると、 血圧上昇を引き起こします。

 鼻づまりの薬や、 幾つかの降圧薬,

 鎮静剤 (メペリジン) も服用できなくなります。

 不法なドラッグは 特に危険です。

 服用中に避けるべき 食物と薬を よく理解していることが不可欠です。

 MAOI抗うつ薬は 過剰に服用すると 極めて有害ですが、

 SSRI抗うつ薬が効かない場合に 考慮すべきです。

 非定型の抑うつ症状には 極めて有効なことが多いのです。

〈抗不安薬〉

 アルプラゾラム, クロナゼパムなどの薬剤は、

 BPDの急性・ 慢性の不安に しばしば用いられます。

 これらはベンゾジアピン系薬剤であり、

 乱用されがちで、 依存する可能性があります。

 突然使用を中止すると、

 けいれん発作などの 離脱症状 (禁断症状) が生じる恐れがあります。

 アルプラゾラムは、 自己破壊的行動や 他人への暴力といった、

 重大な脱抑制行動が認められます。

 クロナゼパムは、 重症患者の興奮や攻撃性に 有効であるという報告があります。

〈気分調整薬〉

 感情統制不全と衝動的行動の 両方に使用されます。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 

感情統制不全に対する薬物療法 (1)

2013年09月09日 21時44分28秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
 感情統制不全は、 気分の著しい反応性, 不安定性として現れ、

 そこから怒り, 落ち込み, 不安の感情が生まれます。

 自殺関連行動は 抑うつ症状よりも怒りによって生じることがよくあります。

 気分の制御の異常によって、 拒絶に敏感になり、

 落ち込んで  「気分の崩壊」 を招くこともあります。

 これは セロトニンの機能低下が関連しているとされ、

 SSRIなど セロトニンの機能を高める薬が 症状を和らげる作用があります。

〈SSRI抗うつ薬〉

 SSRI抗うつ薬は、 気分の落ち込み, 怒り, 不安など感情の統制不全に対して、

 最初に使用するべきものです。

 衝動的な攻撃性に対しても 明らかに効果があり、

 自傷行動にも効果的であることがあります。

 衝動的攻撃性への効果のほうが、 抑うつ気分への効果より

 ずっと速く現れるようです。

副作用

 SSRI抗うつ薬は 重大な副作用がなく、

 過量服用の場合でも 危険性がずっと低い特長があります。

 副作用としては、 一過性の軽い吐き気, 口の渇き, 便秘または下痢,

 不眠症または眠気, 落ち着きのなさ, 四肢の震え, 発汗などが挙げられます。

 他に、 性的な欲求や行動が 減少することがあります。

 落ち着きのなさによって、 自殺企図が生じることは重要です。

 あるSSRIを 4~6週間服用して さほど効果がない場合は、

 別の種類のSSRIを 試みることが推奨されます。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より

(次の記事に続く)
 

認知-知覚症状に対する 薬物療法

2013年09月07日 21時42分43秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
 BPDの薬物療法は、 

(1) 認知-知覚的症状, (2) 感情統制不全, (3) 衝動的行動に

 効果がありますが、 心理社会的治療のなかで 補助的なものです。

 性急に多くの薬を導入すると、 相互作用や副作用の危険が増します。

 BPDの薬の効果は 中程度のものであり、 人の性格を変えるものではありません。

 認知-知覚症状には、 妄想的観念, 離人感, 脱現実感, 奇妙な信念など、

 知覚や思考の異常が含まれます。

 神経伝達物質のドーパミンは、 軽度の思考障害や、

 興奮, 焦燥感, 怒りに 関係すると考えられています。

 抗精神病薬 (ドーパミン阻害薬) は、

 これらの症状に 最初に使用されるべきものです。

〈抗精神病薬〉

 認知-知覚症状や、 それに伴う怒り, 焦燥感, 敵意に対して 最も効果的です。

 数時間から数日で 効果が出始めるので、

 怒りや攻撃性に対して、 危機の時期にのみ 使用することがあります。

副作用

 筋肉のこわばりや 足を引きずるような症状,

 じっとしていられなくなることや、 四肢の震えが挙げられます。

 ハロペリドールやチオチキセンといった 力価の高い薬で多く起こります。

〈非定型抗精神病薬〉

 副作用が小さく、 低用量なら受け入れやすいもので、

 オランザピンとリスペリドンは BPDへの効果が研究されています。

 オランザピンは 体重の増加や 軽い鎮静の副作用があり、

 高容量のリスペリドンは 抗精神病薬の筋肉症状と同じ 副作用の可能性があります。

 最も効き目が強い クロザピンは、 思考や知覚の重度の混乱を 改善させ、

 衝動的な行動に 効き目があることがあります。

 稀ですが、 白血球の減少で 生命に危険を及ぼすことがあるため、

 最期の手段とみなされています。

副作用

 旧来の抗精神病薬を長期間使用すると、

 遅発性ジスキネジアという 神経的障害が発生することがあります。

 非定型抗精神病薬は これを起こさないと考えられています。

 抗精神病薬は 数週間から数ヶ月の期間のみ 使用するのが一般的です。

〔「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」星和書店(林直樹訳)〕より
 

境界性パーソナリティ障害における薬物療法

2013年09月06日 21時41分47秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
 パーソナリティ障害は、 生物学的要因と生育環境的要因の相互作用で、

 知覚, 認知, 感情, 行動に異常が生じる 複雑な症候群です。

 学習による側面を 性格特性と呼び、 先天的な側面を 気質と呼びます。

 パーソナリティの成り立ちは、

 「生まれか育ちか」 という対立で 論議されがちですが、

 全て発達の過程と 密接に関連しています。

 例えば、 衝動的・ 攻撃的な気質の子供は、

 回避的・ 恥ずかしがり屋の子供とは 異なる方法で世界と関わり、

 周囲に対する 態度や対人関係を形成していくでしょう。

 幼い頃に 虐待を経験すると、 脳の神経内分泌系に変化が生じ、

 成人期にも持続します。

 海馬や扁桃体が小さくなり、 セロトニン機能も低下します。

 海馬は記憶, 扁桃体は感情 (特に怒り) の 制御に重要です。

 セロトニン系は感情, 衝動, 行動の 制御に関わっています。

○ 脳の機能に 神経伝達物質が果たす役割

 神経伝達物質は 世界ついての見方や考え方,

 感情体験や その表現, 行動を制御します。

 神経回路のバランスが 先天的, 後天的に失われると、

 適応不全となるかもしれません。

 これは 薬物に敏感に反応すると 考えられています。

 BPDは パーソナリティ特性と行動の組み合わせによる 症候群です。

 単一の病因を 指定できる疾患ではありません。

 衝動性と感情統制不全が中心的な 生物学的要素が特徴です。

 神経伝達物質の異常による、 思考や知覚の 軽度の障害が見られることがあります。

 BPDは症候群なので、 薬物療法は それぞれの精神症状に対して、

 多くの薬剤が必要となることがあります。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 

BPDの自殺関連行動の自己統制モデル (3)

2013年09月01日 21時22分19秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
(前の記事からの続き)

○ 危険性の評価と 入院必要性の判断

 入院の必要性を決める際に、 臨床家は、 自殺の危険を 重く捉えることと、

 患者自身が 自殺念慮を耐え抜く力を 高めることの、 バランスを取るのが必要です。

 自殺の意図があるかないかは、 多くの場合、 患者自身が明確に区別できるものです。

 BPDの自殺念慮と自傷行為は、 耐えがたい精神的状況を乗り切り、

 解放されたいという 死に物狂いの願望から 生まれたものです。

 それは生き続けるための努力です。

 それを認め、 安全に対処するよう支援できれば、 頻回の入院を避けられます。

 必要のない入院を繰り返すと、

 患者は 入院でしか 自分の辛さを認めてもらえないと思い、

 入院するような振る舞いを 見せるようになります。

 そのような 患者の入院の意味を 変えていくことが必要です。

 自殺企図を起こす 極端に苦しい時期には、

 入院治療によって 自殺企図を阻止したり、

 患者が落ち着くまで 耐えることを援助できます。
 

○ 自傷行為のまとめ

 BPDで自殺を試みた人は、

 自殺の意図が両価的で、 自殺企図のたびごとに その意図が変化しているでしょう。

 BPDの人には、 自殺の意図のない自傷行為, 自殺念慮,

 自殺をするといって脅す行動が 見られます。

 自殺企図と 自殺を意図しない自傷行為は 全く別のものです。

 人を操作したり 関心を集めるために 自傷行為をするというより、

 このような行動を恥じ、 隠すことが多く見られます。

 自傷のきっかけで 最も多いのは、 対人関係を失ったことです。

 自傷行為のプラスの作用としては、

 緊張を和らげる, 辛い気持ちをそらす, 精神的苦しみを目に見えるものにする,

 怒りの感情を行動にする などで、 統制できない感情を コントロールすることです。

 自傷行為によって 精神的プレッシャーから解放されると言います。

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より
 

BPDの自殺関連行動の自己統制モデル (2)

2013年08月30日 21時24分54秒 | 「BPD最新ガイド」より
 
(前の記事からの続き)

 自傷行為の治療では、 ふたつの臨床的課題があります。

 自傷行為を減らすことと、 入院の必要性の判断を含む 危険性の評価です。

○ 自傷行為を減らすこと

 患者の自傷行為の 主観的な体験を 包括的に評価し、 患者に伝えることで、

 自傷行為を減らすために 使うことができます。

 その際、 自殺関連行動の次の側面が 評価されます。

1. 自傷行為のプラスの作用

 自傷行為は 人を操作したり 関心を引こうとするのではなく、

 感情統制, 自己懲罰, 自己確認といった プラスの作用を理解しいきます。

2. 過去の自殺関連行動の意図

 過去の自殺関連行動の意図によって、 死ぬ意図の有無が 判断されます。

 この意図は、 客観的状況からだけでなく、

 患者の主観的な報告によって 確認していかなければなりません。

3. 自傷行為の原因となる 認知と認知過程

 患者は 自傷行為に良い点があるという、 歪んだ信念を持っています。

 辛い精神状態に対処するのは 自傷行為しかないといったものです。

 それは認知的再構成によって 修正することができます。

 臨床家と患者は協力して、 感情の高まりが どのようにして

 外的なでき事に 歪んだ認知をもたらすか、 理解していきます。

4. 自傷行為の影響

 自傷行為を強化するような 影響を知り、

 強化のパターンを変えて、 適切な行動を促していきます。

 患者が意図した影響と 意図しなかった影響を区別し、

 対人関係を改善する契機となります。

 弁証法的行動療法や認知行動療法では、

 自傷行為の衝動や 歪んだ認知の 修正を試みます。
 

 弁証法的行動療法では、

 患者の感情や経験を 有効なものと認める 「有効化」 と、

 価値判断をしない介入によって、

 感情統制機能の強化と 自己非難の緩和も 目標とされます。

(次の記事に続く)

〔 「境界性パーソナリティ障害最新ガイド」 星和書店 (林直樹訳) 〕より