三田村鳶魚(みたむら えんぎょ 1870年4月17日 - 1952年5月14日)は江戸文化・風俗の研究家です。
ある浮世絵コレクションの本を出すために、作品が創造された時代背景を調べることが必要になり、調査方法を探っていたら、三田村鳶魚に行きつきました。
そういえば、いつぞや古書店で見つけた『時代小説評判記』の復刻版があったのを思い出して書庫を「掘り進み」そして掘りあてました。
この本は『大衆文芸評判記』と対をなしているようですが、ぼくが蔵書しているのは時代小説のほうだけ。
島崎藤村の「夜明け前」、吉川英治の「宮本武蔵」など9編について、作品そのものの善し悪しよりも、考証についてアラ探しをしてイチャモンをつけたり、さらなるウンチクを付け加えたりしています。
吉川英治の「宮本武蔵」などはもうぼろくそです。
九四頁に「平和に馴(な)れてきた處女(おとめ)の胸」といふことがある。戦國から徳川氏の初(はじめ)へかけたところで、どうしてこんな事が云へるか、積りにも知れそうなものだ。
さらには、
「寺の借着(かりぎ)に、細帯をしめ手拭をさげてゐる」(一〇三頁)と云ってゐる。寺の借着といふのはどんな借着をしたのか、細帯といふのはどんな帯か、此等もごく新しい氣持から來ることで、慶長時分の武士がこんな風體をしてゐることは無い筈だと思ふ。
いやはやなんとも、言いがかりとも思える論評ですが、江戸の文化・風俗のオーソリティーとしては、我慢ならなかったのでしょう。
江戸文化の事を始めると、不思議な力が働いて、古書店でこんな本にも出合いました。
『鳶魚江戸学 座談集』は三田村鳶魚の話題を中心に、池波正太郎やら松本清張やら尾崎秀樹やら43人の江戸にかかわる研究者が、言いたい放題語り合っているのをまとめたもので、参加者そのものがとても楽しんでいます。
鳶魚に責任があることではありませんが、司会の朝倉治彦と中一弥が『江戸名所図絵』のことについて語るこんな場面が収録されています。
朝倉 『江戸名所図絵』、あれ全部名所でしょうか。何でもかんでも少し集め過ぎているような感じもするんですけれども。
中 飛鳥山や向島も出ていますが、神社、仏閣が中心ですね。ですから、有名な神社、仏閣が江戸の名所だったんでしょうか。『江戸名所図絵』を持って東京を回ったら、お宮なんかばっかりで、つまらなかったといっていた人がありました。
この『江戸名所図絵』は角川文庫版が復刻されたときに、たまたま思いついて購入し所蔵していたので内容を確かめてみたら、たしかに「神社、仏閣」だらけです。
思わず笑ってしまいました。
ちなみに朝倉氏は、『江戸名所図絵』の校注を担当しています。
しかし、内田百閒といい、北大路魯山人といい、そして三田村鳶魚といい、明治の人は他にはばからない辛口のユーモア豊かな人が多いようです。
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