ひまわり博士のウンチク

読書・映画・沖縄・脱原発・その他世の中のこと

戸谷由麻『東京裁判』

2008年10月06日 | 本と雑誌
Tokyo_saiban

東京裁判
第二次大戦後の法と正義の追求
戸谷由麻 著
みすず書房発行

 みすず書房の出版案内に掲載されていて、どうしても読みたかった戸谷由麻の『東京裁判』が今日届きました。
 
 戸谷由麻という名前をぼくが最初に知ったのは、2006年発行の『現代歴史学と南京事件』(柏書房 笠原十九司・吉田裕 編)に掲載された、40ページほどの論文でした。
 その論文「東京裁判における戦争犯罪訴追と判決」は東京裁判での検察側の立証から判決にいたるまでを、まるでドキュメンタリーのようにリアルに描いています。
 特に、日本軍の中国女性に対する性暴力については、これまでの研究者があまり重視していなかったことがらを改めて掘り起こし、それが裁判に少なからぬ影響を与えたことを実証しています。

 1972年生まれという若い女性研究者の、あたかもリアルタイムで裁判に同席していたかのような表現力の豊かさにも感服しました。この論文が掲載された『現代歴史学と南京事件』の執筆者紹介に「博士論文を出版に向けて改訂中」と紹介されていたのがこの本『東京裁判』です。
 
 この本は当初ハーヴァード大学出版部より英語版で出版され、それを著者自身が翻訳・改定したものです。

 今年は東京裁判(極東国際軍事裁判)が結審してちょうど60年にあたり、それぞれの立場でしきりに論議が巻き起こっています。
 東京裁判のあり方そのものやA級戦犯の靖国神社合祀に関わる問題など、議論はますます混沌としてまったく着地点が見いだせません。
 ぼくは唯一A級戦犯の全員無罪を訴えたパール判事について、靖国派とは異なる意味で評価している部分があるのですが、戸谷さんはかなり手厳しい見方をしているようです。

 この本の帯には「『勝者の裁き』の判決が今、国際人道法の発展に貢献している」とあります。これまでの東京裁判研究にはない、まったく新しい観点の「東京裁判論」が読む前から予感させられるのです。
 著者は学問的な見地から「東京裁判を国際人道法形成・発展のプロセスの中に位置づけようとしている」と評した書評もありました。(中島岳志『東京新聞』)

 ぼくは今、日中戦争のある部分についての本をまとめようとしているところで、とくに東京裁判についての評価でしばしば判断が分かれる「不作為の責任」(重要な事件の発生を未然に防いだり止めたりできる立場にありながらそれを怠ること)について、より多くの論評を知りたいと思っていたところでもありました。またどうしても、参考文献が監修等の関係で偏ってしまいがちで、それを埋めたいという気持からも戸谷さんのこの本は興味深いものがあります。

 戸谷さんのこの本には、これまでの研究者が気付いていなかったり、取り残して来た問題点が多く語られていそうで大変楽しみです。

◆~~~~◆~~~~◆~~~~◆~~~~◆~~~~◆
◆あなたの原稿を本にします◆
出版のご相談はメールでお気軽に galapyio@sepia.ocn.ne.jp まで