ひまわり博士のウンチク

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堤未果『ルポ 貧困大国アメリカ』

2008年10月12日 | 本と雑誌
Mika_tsutsumi

 奥付を見ると、初版発行日はぼくの誕生日と同じでした。
 だからなんだ、と言われそうですが、9カ月も購入したままほっておいた、ということになります。
 目次を見て、特別新しい情報があるとは思えなかったので、優先順位を下げてしまったのが原因です。
 先日、友人たちと居酒屋で飲んでいた時にこの本の話が出て、(こういう本を読むような連中が集まったというわけでもないので、意外でしたが)これはけっこうおもしろいのかもしれないと、急遽読んでみました。

 たしかに、内容的には目を見張るような新しい情報はありませんでしたが、非常に良く構成されているのと、とても理解しやすい。
 どちらかというと、この手の本は、いささか脳みその力を込めないと読み切れないものが多いのですが(眠くなるし)、これはサクサク読めます。
 高校生レベルであれば十分読みこなせる平易さです。

格差に支えられる国
 この本に書かれている「アメリカ」はまぎれもなく日本の「未来」です。
 そのことははっきりと言っておきたい。

 まずこの本では「貧困の作り方」が述べられています。
 社会保障、医療などなど、自由競争で市場を活性化させるという名目で「民営化」し、それは生活費の高騰を招き、人びとの生活を圧迫しました。
 さまざまな政策で格差を作り、そこから逃れようとする人びとを国家レベルで追い討ちをかけます。
 自民・公明政府がやっていることとそっくりです。

 レーガン政権以降の新自由主義・市場原理主義によって格差が拡大し、1960年代70年代、日本国民が憧れ、アメリカンドリームの象徴だった「中流家庭」が下層に転落し、そこから這い上がれないでいます。

 貧困層を襲ったのは、今問題になっているサブプライムローンだけではありません。さまざまな政策が、最貧困の人びとの暮しを圧迫していきます。
 さらには、ハリケーン「カテリーナ」の被害を利用してまで、富裕層に都合のいい社会をつくろうとするのです。
 被災地では電気も満足に回復しない状態の中で、国からの支援が打ち切られ、人びとの生活は最下層に突き落とされました。

 多くの公共機関が民営化され、特に国民皆保険制度のないアメリカは、高額の保険料を払って民間の保険会社に加入し、株式会社化した医療施設で受診しなければならず、保険会社も保険金をまともに払うことはまれで、一度病気になった瞬間に最下層に転落することがしばしばだとか。
 このことはマイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画『シッコ SiCKO』にも描かれているので、ご存知の人もたくさんいると思います。

 ホセの弟は一歳の時、医療保険がないため医者にかかれず疫病で死んだ。
 その時彼の母親は、それまで決して口にしなかったことを夫に向かって言ったという。
 「もしもこれがキューバだったら、あの子は助かったわね。
(65ページ)

貧困層に支えられるアメリカの「戦争」
 高校や大学は、極貧に喘ぐ若者の個人情報を、軍に「協力」の名目で提供しています。また、携帯電話会社も、個人情報を国防総省に提供し、リクルーターたちが経済状態の悪い若者から順にターゲットにしていきます。
 日本でもドコモが自衛隊に情報を流していたことが、国会の追求でわかっています。

 借金が膨らみ、このままでは退学しかないと考えていた若者たちは、短期間で大金が入手できる軍隊への誘いに飛びついていきます。
 命の危険があっても、今のままの生活よりはましだと思ってのことです。

 「軍と聞いた時は躊躇しました。陸軍にいる私の従兄弟がバグダッドにいるし、私はこの戦争を正しいとは思っていませんでしたから。するとリン(リクルーター)は、入隊すれば学資ローンの心配がなくなるだけじゃない、あなたは他の兵士たちとは違い、初めからすごいチャンスを手にすることになると言ったんです」(132ページ)

 リクルートされた新兵が真っ先に配属されるのはイラクです。当然死ぬことになるかもしれないということは知っていますが、現状を考えれば選択の余地はないということです。
 彼らは、愛国心とか国際貢献とかではなく、目的はただ生きたいが為に死地に向かいました。

これはアメリカだけのことではない
 個人情報の保護がしきりに叫ばれていますが、インターネットや携帯電話によって、実際、個人情報は丸裸です。
 そして、この世界的大恐慌によって、中間層の多くが下層に落ち、格差はますます拡大しています。
 今の日本に「軍隊」はありませんが、世界第三位の軍事力を持つ「自衛隊」があります。
 そして自衛隊員の自殺は、一般国民の6倍と言われています。
 憲法九条をもつ日本は戦争をしないはずだった。ところが銃弾の飛び交うイラクに派遣された。
 「こんなはずではなかった」
 多くの自衛隊員が感じていることです。

 そして今、かつては跡を継ぐことのできない農家の次男坊三男坊が自衛隊に入隊したように、ネットカフェや個室ビデオ店に寝泊まりする若者たちを、自衛隊がリクルートの対象にしているという話も出始めています。

 堤未果さんのこの本は、アメリカだけのことではなく、新自由主義の世界全体に当てはまることなのです。
 今の日本人の多くが、「自分には関係のないこと」「自分は大丈夫、そんなひどい事にならない」「政治の話はしないで、わからないし興味ないから」そう考えています。
 知らないでいることは、まさに「頭隠して尻隠さず」。今世界が、日本が、どこに向かおうとしているのかしっかりと目を見開いてみていかないと、「危険が頭の上を過ぎていく」ようなことはあり得ませんから。

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