ひまわり博士のウンチク

読書・映画・沖縄・脱原発・その他世の中のこと

ゴダール『気狂いピエロ』

2010年07月29日 | 映画
 CATVで放送された、ジャン・リュック・ゴダールの『気狂いピエロ』を観た。
 ジャン・リュック・ゴダールはヌーヴェルヴァーグの旗手として、1960年代には非常に人気の高かった映画監督である。
 『勝手にしやがれ』『アルファビル』『中国女』『男性・女性』など、多くの作品を手がけ、いずれも平均以上の評価を得た。
 『気狂いピエロ』は彼の代名詞ともいわれる代表作である。主役のアンナ・カリーナとは夫婦であったがこの年に離婚。翌々年、『中国女』で主役を演じたアンヌ・ヴィアゼムスキーと結婚。1973年にはスチル・カメラマンのアンヌ=マリー・ミエヴィルと、前妻と離婚せずに同棲を始める。まさに、「勝手にしやがれ」である。
 そんなことを知らずに(知るわけがないが)ヴェトナム戦争のさなかの60年代、反戦色の濃いゴダール作品が公開されるたびに観ていた。
 
 『気狂いピエロ』は各所に反戦・反米を感じさせる台詞が現れるが、映画そのものはどちらかといえばピカレスクだ。ゴダールの映画は映像が抽象的なので、しっかり台詞を聞いて(字幕を読んで)いないと何がなんだかわからない。俗にいう「難解」な映画である。
 この時代は、難解な方が受けたのである。今なら自主映画扱いされるような作品がほとんどだ。
 
 ちなみに『気狂いピエロ』は「きちがいぴえろ」と読むのが正しい。「きちがい」が放送禁止用語なので、「きぐるい」と読むことが多くなっているが、それは間違いである。
 ゴダールの映画は放送コードぎりぎりの台詞が多く、今回の放送でも字幕に訳されていない部分が多々あった。
 
Pielo1
 
 ジャン・ポール・ベルモンド演じるフェルディナンは「ピエロ」と呼ばれ、金目当ての愛情のない結婚をしていた。ある日、元彼女のマリアンヌ(アンナ・カリーナ)と出会い一夜を過ごすが、翌朝室内に見知らぬ男の死体があるのを見つけ、マリアンヌと共に逃避行を始める。
 盗んだ車とともにギャングの金を水没させたため、アルジェリアのギャングに追われながらも、スリリングで充実した生活を過ごすが、やがて、マリアンヌとの間に亀裂が生じ始める。ギャングと通じフェルディナンを裏切ったマリアンヌを、フェルディナンは銃殺。
 すべてに絶望した彼は顔にペンキを塗り、彼なりの虚飾にそまろうという行為だった。
 
Pielo2
 
 そしてダイナマイトを顔に巻きつける。 しかしこれは、彼にとって一種の冗談であり、本当に死ぬ気などなかった。
 ヘビースモーカーのクセで、何かが一段落するごとにタバコに火をつける。その火がダイナマイトに引火する。
 アホである。

Pielo3

 あわてて火を消そうとするが、一度導火線についた火は消すことができず、フェルディナン爆死する。
 彼は最後までピエロを演じ切ったというわけである。
 
 印象的な台詞にこんなのがある。
 ヴェトナム戦争でベトコンが115人死んだというニュースを聞いたマリアンヌがいう台詞。
 「何にもわからない。115人が死んだというだけ。映画は好きだったのか、妻や子はいたのか。何にもわからない」
 アルジェリアのギャングに脅されたフェルディナンの台詞。
 「俺達は無理矢理コカコーラを飲まされている。アリジェリアで、ヴェトナムで」
 (いずれも、正確ではないと思うので、そのへんは悪しからず)
 
 
 CATVではこの後、同監督の『小さな兵隊』も放送したが、こちらの方は気力が続かず、途中で止めた。
 
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ブラゼル31・32号、タイガース首位!

2010年07月27日 | スポーツ
 ずっと我慢してたけど、首位になったので、やっぱり一言。
 
 
 もう、このまま行くっきゃない!
 んだけれど…
 
Brazel
(c)デイリースポーツ
 
 天王山が2試合雨で流れて、ちょっと遅れたけれど、予定通りの首位奪回。
 なので、そろそろ言わせてもらおうかと……。
 
 今年、ジャイアンツの優勝はおそらくない。
 ジャイアンツファンには悪いけど、今のジャイアンツはこれから先落ちる一方だろう。
 その理由は、重量打線がすっかり個人プレーに走っていて、つながりを意識していない。
 たまたまつながっても、それは個人プレーがつながっただけで、チームプレーではないからだ。
 とくに、リードされるとどいつもこいつも「俺が決めてやる」的なバッティングをする。
 それが、小笠原やラミレスならともかく、坂本や脇谷、松本までが、「自分が犠牲になる」ことを嫌がって、「絶対生きる」バッティングばかりをする。
 しかも、計算できるピッチャーは東野一人だ。
 これでは、つながりを意識した打線をもつ、阪神・中日には勝てないだろう。
 
 客観的に見ると、最も優勝に近いと思われるチームはドラゴンズだ。悔しいが。
 投打共にバランスがとれていて、こういうチームは後半戦になっても失速しない。
 先発の柱(安藤、能見、岩田)が故障不調にもかかわらず、タイガースがずっと2位をキープしていられたのは、打線がジャイアンツに比肩するくらい強力で、しかも、投手陣の後(セットアップ、クローザー)が安定しているからだ。
 しかし、このままでは、各チームが総力を尽くして戦うことになる終盤に不安が残る。
 
 で、今年の予想。
 今のままの戦力なら、ジャイアンツは3位。
 優勝は、悔しいがドラゴンズ。
 タイガースが優勝するためには、あと二人、計算できる先発が欲しい。
 岩田、能見の復活がベストだが、当てにはできない。
 したがって、だれかが這い上がってくることが絶対に必要だ。
 
 いずれにしろ、後半戦の優勝争いは、巨人・阪神ではなく、中日・阪神になる可能性が高い。
 ジャイアンツ・ファンは、残念!
 
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訃報:早乙女愛さん~「南京1937」

2010年07月27日 | インポート
Saotomeai
 
 元女優の早乙女愛さん(本名・瀬戸口さとみ)が20日、多臓器不全のため米国・シアトルの病院で死去していたことが昨日報道された。
 51歳だそうである。
 普通ならまだまだ女優として活躍できている年齢だ。
 
 彼女のデビューはコミックを映画化した「愛と誠」の早乙女愛役であった。4万人のオーディションの中から選ばれたと伝えられる。
 役名をそのまま芸名にしてデビューした彼女が、次に登場した時には日活ロマンポルノであったからびっくり。
 「そんなのありか!」と思ったものだ。
 次々にセクシーな役柄をこなして、すっかりポルノ女優と化した印象を一変させたのが、表題の中国映画「南京1937」である。
 
Nanking1937
 
 この映画は、1937年、旧日本軍が南京侵攻時に犯した大虐殺事件をテーマにしたものである。
 「南京大虐殺事件」と称され、「アウシュビッツ」「原爆投下」と並んで、第二次世界大戦時における三大戦争犯罪と言われている。
 しかし「南京事件」は、日本軍の証拠隠滅などが原因で、日本側の証拠資料が乏しいために、右翼が中国側の捏造であると主張して、最も神経を尖らせる事件の一つである。

1937_2
 
 この映画で中国人医師の日本人妻として主役を務めた彼女はその直後から、右翼による脅迫に遭い、日本映画界やマスコミからも冷遇され、芸能界から身を引く原因になったとも言われている。

 映画「南京1937」は、1995年に中国で製作された南京大虐殺をテーマにした劇映画で、監督は呉子牛。女優早乙女愛が主人公の中国人医師の日本人妻を好演した。日本人を糾弾するのでなく、中国人と日本人の人間としての「和解」へのメッセージを込めた映画で、中国では「日本人に甘すぎる」、告発性が弱いと批判があった。しかし、そのような映画でも、日本で1998年から劇場公開を始めたところ、6月に横浜で右翼が上映中のスクリーンを切り裂く事件が発生、街宣車が執拗に妨害活動をしたために、中途で上映を打ち切らざるをえなくなった。早乙女愛には右翼から脅迫があり、ボディガードを雇わざるをえなくなったという。さらに彼女はその後日本の映画界からは冷遇されたという話も聞く。(笠原十九司『南京事件論争史』平凡社新書238-239頁)
 
 映画のできそのものは、僕の主観だが、けっして良いとは言えないレベルで、登場する日本兵の台詞や振る舞い、衣装などが不自然で、もう少し何とかならなかったか、という印象ではある。
 事件を引き起こす日本兵の表現は、たしかに甘い。「必殺仕事人」シリーズの悪人の方がよっぽど残虐である。
 しかし、右翼にとってみれば、「南京事件」そのものを否定しているわけだから、放置できない映画だったのだろう。
 もっとも最近は、右翼も賢くなって騒がなくなった。騒ぐことでかえって宣伝になると思ったのだろう。
 したがって、「コーヴ」の騒ぎは久しぶりだ。
 
 日活ロマンポルの時代の早乙女愛作品は、プレミア価格でべらぼうだ。まあ、大枚はたいてまで観たいとは思わないが。
 そのうち、日本映画専門チャンネルで特集を組むだろう。
 
 ご冥福をお祈りする。

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河童忌

2010年07月24日 | 日記・エッセイ・コラム
Akutagawa
(岩波書店版「芥川龍之介全集」第7巻口絵)
 
 今日は「河童忌」である。
 河童忌とは芥川龍之介の命日で、代表作「河童」に因む。
 芥川 龍之介(1892年(明治25年)3月1日 - 1927年(昭和2年)7月24日)は83年前のこの日、雨の降りしきる田端の自室で服毒自殺をした。享年35歳である。
 「河童」はほとんどが短編で占められる芥川作品の中では最も長い。長いといっても岩波文庫でわずか73ページである。
 しかし、如何にもユニークなこの作品の中には、芥川ワールドがぎっしりとつまっている。
 
 これは河童の世界に模した、人間世界のパラレルワールドである。時代的なギャップはあるものの、人間界で常識とされていることの正反対のことが、河童の世界での常識なのだ。
 悪い遺伝を撲滅するために、不健全な河童と結婚する。
 結婚したいと思った雄を、雌が徹底的に追いかける。(これは現代と同じか)
 
Kappa
 
 1955年発行の岩波版「芥川龍之介全集」が手元にある。全19巻別巻1の20冊で、別巻の「芥川龍之介案内」に雑誌「新潮」が主宰する座談会形式の「河童」評がある。
 尾崎士郎、横光利一、林房雄、葉山嘉樹ら、文學界のそうそうたるメンバーが、「河童」についての(それぞれ勝手な)印象を語っている。
 尾崎士郎「僕はこの作品を読み始めてから何か特殊なものに触れるだろうという期待をもって読んで行ったが、結局終いまで行って何にも触れなかった」
 尾崎士郎は、通俗的な面白さに過ぎないとか、随筆をまとめたようなものだとか、ぼろくそ言っていて、それなのに「ある意味で好きなんだ」とは何が言いたいのか。
 横光利一は「子供っぽいところがある」と言ったかと思うと、林房雄は「これは全面的な社会批評だ」という。
 大物連中が集まって大混乱しているところが面白い。
 当時としては、それだけユニークな作品だったと言うわけだ。
 
 ぼくが生まれて初めて読んだ岩波文庫が、芥川龍之介の「鼻」であった。短いので、旧字旧仮名だったが中学生のぼくにもすぐに読めた。
 「鼻」や「蜘蛛の糸」は、教科書にも全文が載る作品である。
 しかし、その短い小説の中に、溢れんばかりのウンチクが込められているのが凄い。
 
 高校生と中学生の子供たちが夏休み用のお薦め本リストをもって来た。最近は若者の活字離れが顕著であるせいか、我々が夏休みといえばこの時とばかりチャレンジした、トルストイやドフトエフスキーの大長編はまったく見当たらない。
 何も夏休みを利用しなくても、と思えるような作品ばかりだ。
 そういった意味では、芥川作品は、活字が苦手な彼らにお勧めだと思うのだが。
 
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DAYS8「イルカを獲ってなぜ悪いのか」

2010年07月23日 | 本と雑誌
Daysjapan
 
 8月号の「DAYS」は映画「ザ・コーヴ」でクローズアップされたイルカ漁で特集が組まれた。
 「ザ・コーヴ」は、先頃中野ゼロで上映されたのを観に行くつもりだったのだが、ぼやぼやしているうちにニュースで報道され、たちまちチケットが売り切れてしまい、見逃してしまった。
 しかし、内容を聞いてあまり乗り気はしなかったので、まあいいか、と思っている。
 観ていないので、したがって映画についての論評はできない。
 
 「DAYSjapan」に掲載された写真の一枚、「抗議行動を繰り広げる人々」が奇声を上げるかたわらの電柱に、おかしな張り紙があった。
 
 「3大情報テロ 南京大虐殺 従軍慰安婦 THE COVE」
 
 明らかに右翼による張り紙だ。しかし、少し前まで右翼が神経を尖らせていた問題は、「南京大虐殺 従軍慰安婦 沖縄集団自決」ではなかったか。
 いつの間にか「沖縄」が消えて「THE COVE」にすり替わっている。「大江岩波裁判」に代表される「沖縄集団自決」の問題は、およそ彼らに勝ち目はないことが明白なので、二つでは座りが悪い、ということで、「THE COVE」を足したか。
 
 しかし無理がある。問題の本質がまったく違うのだ。
 
 「反日」だの「情報テロ」だのと右翼の宣伝材料にしてもらっては、捕鯨やイルカ漁についての正常な判断が阻害される。
 
 ぼく自身は、資源保護のルールがきちんと守られていれば、捕鯨もイルカ漁も続けられてかまわないと思っている。いや、鯨は食べたいし、太地町のイルカ漁を批難するのはお門違いだと思っている。
 牛や豚は下等だから食べていいが、鯨やイルカは知能が高いから殺すべきではない、と言う考え方には違和感を覚える。
 貧しい人間は能力がないからだという差別意識と共通するものを感じる。
 
 広河隆一さんは記事の中で、捕鯨やイルカ漁が文化であるかどうか以前に、軍事利用されるために訓練されたイルカが売買されていることや、調査捕鯨という名目で行われる農水省の利権構造を問題として指摘する。
 表紙は機雷探索のセンサーを取り付けられたイルカである。
 
 捕鯨やイルカ漁の問題は、それ自体ではなく、その問題を利用して別の問題にすり替えようとするところにあるようだ。どうやら映画「THE COVE」もそうだし、右翼もそうだ。
 実は、最初から問題などなくて、問題にすることで、それを利用し合っているというのが本質ではなかろうか。
 農水省の利権はあってはならないことだが、それと捕鯨禁止は別の問題だと思う。

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井上ひさし『一週間』

2010年07月19日 | 本と雑誌
Isshukan
 
『一週間』
井上ひさし 著
新潮社 発行
 
 「最後の長編小説」、「『吉里吉里人』に比肩する面白さ!」というキャッチコピーに誘われて購入し、500ページを超える長篇を仕事の合間に、まさに「一週間」かけて読んだ。
 今年4月に亡くなった井上ひさしさんの最後の小説である。
 
 『吉里吉里人』の舞台は東北だったが、『一週間』ではシベリアの捕虜収容所が舞台である。
 物語は敗戦間もない昭和21年早春に起きた、わずか6日間の出来事である。(最後の日曜日はおまけ)
 満州でソ連極東赤軍の捕虜になった小松修吉は、ハバロフスクの捕虜収容所に送られる。
 ロシア語に堪能であったために、収容所内で発行される日本語のソ連宣伝紙の編集部で、脱走防止のパンフレット作りを依頼される。
 
 脱走に失敗した軍医、入江一郎の手記をまとめさせ、脱走することがいかに辛く無意味なものかを知らしめるのが意図である。
 ところが、入江から聞いた脱走体験は、辛いどころかバラ色だった。
 堂々と列車に乗って移動し、行く先々で女性にもてる。「いいかげんにしろ!」と言いたくなるような「楽しい」逃避行だった。
 
 その「ばかばかしい」脱走体験の途中で入江は、レーニンの友人と称する老人の世話になり、ついでにその娘からは夜の世話になり、さらについでに、若き日のレーニンの手紙を見せられる。
 その手紙には、革命ソヴィエトからすれば、神とも崇められる(唯物主義のソ連に神はいないが)レーニンの権威を、根底から覆す内容のものだった。
 というよりは、スターリン政権を脅かすものだったのである。

 手紙を借り受けた入江は、せっかくの逃避行を放棄し、越境寸前で赤軍兵士に確保される。
 
 小松と同じハバロフスクの収容所に送られた入江は、そこで小松から手記執筆のための取材を受ける。
 そこで手紙は、入江から小松の手に渡ることとなった。
 ソ連にとってはまさに爆弾を抱えたに等しい。
 
 しかしそこには、日本語がわからないはずの若い衛兵が同席していた。
 
 入江から手紙を託された小松は、その手紙をネタに日本への帰国を認めさせることを画策する。
 しかし、ソ連の将校たちも一筋縄でいかない。
 様々な手段で手紙を隠す小松に対し、脅したりなだめたり、果ては色仕掛けまで……。
 
 そうして、レーニンのたった一枚の手紙は、ソ連の赤軍を大慌てさせる大事件に発展する。
 
 そこここに井上ひさしらしい冗談とユーモアを交えながら、シベリア抑留所という暗いテーマの物語を軽快に進めていく。
 主人公の小松修吉は元非合法政党の工作員で、そうとうな策士なのだが、ピリピリ、カリカリしたところが感じられず、ふつうのノホホーンとした「おじさん」にみえるところが「井上ワールド」なのだろう。
 
 分厚さのわりには手軽に楽しめるが、「『吉里吉里人』に比肩する面白さ!」とはいささか言い過ぎだ。
 『吉里吉里人』のような作品は、そうそう世に出るものではない。
 
 しかし、井上作品のベストファイブに入ることは間違いないので、お薦めできる。
 
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ジャレド・ダイアモンド「銃・病原菌・鉄」

2010年07月17日 | 本と雑誌
Gungermssteel
 
銃・病原菌・鉄
一万三〇〇〇年にわたる人類史の謎
ジャレド・ダイアモンド 著
倉骨 彰 訳
草思社 刊
 
 この本は、朝日新聞の「ゼロ年代の50冊」(2000~2009年)という企画で第1位に選ばれた。
 初版は2000年10月であるから、発行されてこの秋で10年になる。
 内容がやや興味の外にあった(と思っていた)ので、これまであえて読んでみようとは思わなかったのだ。
 
 「ゼロ年代の50冊」という企画は、「識者151人」(読書欄で書評を書いている筆者たちだが、識者の基準はわからない)がこの10年間で最も優れた本50冊を選び、順位をつけて毎週日曜日に掲載される読書欄で紹介している。
 
 上位10点を紹介しておく。

1 銃・病原菌・鉄 ジャレド・ダイアモンド著(00年)
2 海辺のカフカ 村上春樹著(02年)
3 告白 町田康著(05年)
4 磁力と重力の発見 山本義隆著(03年)
5 遠い崖 萩原延壽著(80、98~01年)
6 博士の愛した数式 小川洋子著(03年)
7 木村蒹葭(けんか)堂のサロン 中村真一郎著(00年)
8 東京骨灰紀行 小沢信男著(09年)
9 孤独なボウリング ロバート・D・パットナム著(06年)
10 トランスクリティーク 柄谷行人著(01年)
 
 読んだことのあるのは2.3.6.10の4冊だけだった。50冊全体の中でも、10冊ほどしかない。どうやらぼくはへそ曲がりなのか。
 「識者」なるものが評価したからといって、必ずしも自分にとって興味深いとは限らない。いや、概ね外す方が多い。
 しかし、ここに出ている本のうち、すでに読んでいる4冊は、自分の中でも比較的評価が高い。
 ならば、1番の『銃・病原菌・鉄』も読んでおいて損はないのではなかろうかと思っていて、アマゾンの「ほしいものリスト」に加えておいた。
 ただし、毎度のことながら緊急性のない本は「ほしいものリスト」に入れてはおくものの、そのまま放置してやがて興味を失っていくのが常だ。
 
 ところが、『銃・病原菌・鉄』は、どうしてもぼくに読まれたいらしい。ふらりと立ち寄った荻窪のブックオフに、新品同様の美本が1冊1000円で出ていた。上下で税込2000円。
 定価は税込で2冊合わせると3990円だからほぼ半額である。
 これは買わなければなるまい、と買ってしまった。
 他に読まなければならない本が山ほどあるのに、どうするつもりだ、と反省しつつ、とりあえず上巻の「プロローグ ニューギニア人ヤリの問いかけるもの」に目を通す。
 
 「あなたがた白人は、たくさんのものを発達させてニューギニアに持ち込んだが、私たちニューギニア人には自分たちのものといえるものがほとんどない。それはなぜだろうか?」。それは単純な質問だったが、核心をつく質問でもあった。平均的なニューギニア人の生活と平均的な欧米人の生活とには、依然として非常に大きな格差がある。このような格差は、世界の他の地域でも見られる。これほど大きな不均衡が生まれるには、それなりの明確な原因があってしかるべきだろう。
 
 いきなりガツンときた。
 
 著者は、「なぜ南北アメリカの先住民やアフリカ大陸の人々らがヨーロッパ系やアジア系の人々を征服するというような、我々の知る歴史とは「逆」のことが起きなかったのだろう。一体なぜ、世界文明のありようは我々の知る結果と異なる方向に進まなかったのだろう??」と疑問を投げかける。
 
 この本に書かれたことではないが、以前スリランカの民主化運動を進めているアリア・ラトネ博士から「発展途上にある人々が貧しいのは、先進国の人々より能力が劣るからだ」と、アメリカのある起業家からいわれたと聞いた。
 博士は寄付の依頼でその起業家を訪ねたのだが、そのあまりにも無知蒙昧な一言で怒り心頭に発し、踵を返して帰国したそうだ。
 
 『銃・病原菌・鉄』には、冒頭の格差にかかわる記述を初めとして、世界全体だけでなく、それぞれの地域国家に潜んでいる問題についての答えも見出せそうな気がする。
 
 合間合間に、ポツポツと読んでいこうと思う。
 
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「10%」の価値とは

2010年07月14日 | 国際・政治
 民主党が大敗した。まあ、当然だと思う。
 普天間・辺野古の基地問題は、結局自民党時代に逆戻り。
 この不況のさなかに消費税アップを持ち出す。
 評価が下がらない方が不思議だ。
 
 民主党は基本的に保守なのだから、根源は自民党と同じ。
 ぼくは最初から過剰な期待はしていない。
 ああ、やっぱり、と思うだけだ。
 
 消費税を10%上げるということが、国民にとってどういうことなのか、議員たちはおそらく本当にはわかっていない。
 
 杉並区に「なみすけ商品券」というのがある。アホ山田区長が仕掛けた一時しのぎの子供騙しだが、1万円で千円得するこの商品券を買うのに行列ができ、たちまち売り切れた。
 庶民にとって、「10%」とは行列を作るほどの価値があるのだ。
 
 買い物をするとたまるポイントカードは、1%から5%だ。それでも庶民は必死でためる。
 政治を司る人たちは、そうした事実を知らないのだろう。いや、知っていても、わずかばかりの特典に血道を上げるのか不思議に思っているか、そういう庶民をばかにしているのかもしれない。
 
 電気代をどうやって払おう、月末の支払いをどうしようと苦労しっぱなしの庶民の気持を逆なでするように、消費税の話を持ち出すなど、意識レベルが低すぎる。
 石橋湛山や浅沼稲次郎の清貧を学んで欲しい。
 10円でも安く買い物をしようと、隣町のスーパーまで自転車を跳ばす主婦の気持を理解して欲しい。
 
 同じことが沖縄の基地問題にもいえる。
 沖縄の庶民の気持を実感として捉えていない。
 というより、沖縄の人々を理解することを避けているかのようにさえ感じられる。
 
 平和祈年式典で、日米同盟が大事とばかり、沖縄への負担を「感謝」の一言ですました、菅総理の実感のなさには呆れる。
 国会議事堂の中で安穏と過ごす輩の頭上に、米軍のヘリは落ちてこない、娘や息子が米兵に乱暴されることもない。
 だから実感がない。
 
 鳩山前総理は、「学ぶほどに海兵隊の抑止力の重要性がわかった」という。
 しかし、何がどう重要なのか説明がない。
 
 もうすこし、国民との間の温度差のない人間が政治家になる必要があるのではなかろうか。
 
 それにしても、消費税のことは自民党も同じことを言っているし、約束を守らないことは民主党以上だ。
 それなのに有権者の支持は、民主党から自民党に逆戻りする。
 自民党の亜流の「みんなの党」なるわけのわからない政党に票が集まる。
 日本は国民も意識レベルが低い。
 
 みんなの党?
 「みんな」ってだれとだれだ? 名簿を提出しろ。
 少なくとも、ぼくはその「みんな」の中には入っていないぞ。
 入りたくもないが。
 
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水上バス「いりす」

2010年07月12日 | まち歩き
Suijobus1
 
 日曜日、「東京国際ブックフェア」の帰りに、水上バスに乗ってみた。
 長く東京に住んでいるのだが、一度も水上バスを利用したことはなかった。
 現在東京都の水上バスは、東京港と浅草、東京港と東京ビッグサイト間など4路線が就航している。
 
 一時間に一本しかないのだが、ちょうど出航の時間直前に桟橋の前を通りかかり、娘の「乗ろうよ」という一言に押されて乗ってみることに。
 
 チケットは記念に持って帰りたかったが、乗船前に回収された。
 
Suijobus2
 
 これが乗船する水上バス「いりす」号。
 「いりす」とは、ギリシャ神話の「虹の女神イリス」から名付けられたと、後で知った。
 
Suijobus3
 
 けっこう込んでいて、座れるところはほぼ満席。
 甲板に上がろうと思ったが、何故だか立ち入り禁止になっている。
 
Suijobus4
 
 次々に頭上すれすれに通り過ぎる低い橋桁の下をくぐり抜けて、東京港日の出桟橋に向かう。
 甲板への立ち入り禁止の理由がわかった。橋桁に頭をぶつけるからだ。
 
 案の定、橋の下をすべてくぐり抜けたら、甲板への立ち入り禁止が解除された。
 
Suijobus6
 
 梅雨時の雨模様で残念だったが、遠く建設中のスカイツリーが見えた。
 晴れていれば、リバティ島から見るマンハッタンのような風景だったかもしれない。
 (それほどのもんじゃない)
 
Suijobus5
 
 隅田川ラインかお台場ラインか、日の出桟橋を出たばかりの水上バスとすれ違う。
 こちらの方がスマートだ。
 
 
 わずか20分の乗船だったが、思いのほか楽しかった。これで運賃400円ならやすい。
 
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第17回東京国際ブックフェア

2010年07月11日 | 本と雑誌
Book1
 
 毎年この時期に東京ビッグサイトで行われている「東京国際ブックフェア」に行って来た。
 出品されているほとんどの本が2割引で買えるのがメリットなので、高価な本はこの機会に買うようにしている。
 しかし今年はとくに買いたい本はない。なので、様子見である。
 混雑しているという噂だったが、たしかに込んでいた。
 それもそのはずで、例年に比べて会場が狭い。
 昨年までは「過去最大」がうたい文句だったが、さすがに今年はそれはない。
 出版不況で出展する出版社が少なくなり、ブースの規模も全体的に小さく感じる。
 
 あまり見どころのない展示会で、ひときわ人だかりがしていたのが筑摩書房のブースだ。
 
Book2
 
 創立70周年ということで、気前よく在庫を出してくれているので、ついのせられ、今ここで買う必要のない新書と文庫を買ってしまった。
 絓秀実『1968年』とモーリス・ブランショ『明かしえぬ共同体』で、ともに、1968年前後に世界で同時多発的に起きた社会運動がテーマである。
 まあ、60年、70年安保闘争に関連して、読んでおこうと思った本ではある。
 
Book3
 
 70周年記念として、筑摩書房がこれまでの主要な出版物を展示していた。
 懐かしい「世界文学大系」も展示されていた。発行当時は人気の全集だったが、A5判で3段組みの小さい活字がびっしり詰まった重たい本は、活字が大きくて小型の本を好む最近の読者には敬遠されるだろう。
 しかし、筑摩書房といえば、全集もので優れた出版が多い。「世界文学大系」をはじめ、『定本柳田国男集』『宮沢賢治全集』『太宰治全集』など、装丁を変えて現在にいたるまでロングセラーとして版を重ねている。
 
 目についたのは、太宰治の初版本で、とくに『人間失格』と『ヴィヨンの妻』の初版は初めて見た。
 古書店に出ればとんでもない値段がつくだろう。
 
 
 
 実は失敗した。同時開催の「デジタルパブリッシング・フェア」で、電子ブックの製作システムを調べようと思っていたのだが、こちらは土曜日までだった。昨日出かけるべきだった。
 個人的には書籍の電子化はあまり賛成したくないのだが、時代の流れで知っておかなければならない。
 
 早晩、内部で書籍の電子化ができるようにしておきたいと考えている。
 しかし、先日テレビでやっていたが、本をバラバラに断裁してスキャナにかけ、電子化する方法は絶対にやりたくない。
 
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なぜ、誰も突っ込まないんだろう

2010年07月06日 | テレビ番組
 不治の病で死を迎えようとしている恋人を、海岸に連れ出し、波打ち際のビチョビチョに濡れる場所で彼女を抱えて座り込む。
 ヘンである。
 何でわざわざそんな場所を選んだのか、物語の流れから見ても納得できない。
 
 次のシーン。
 
 突然砂浜に白いピアノが現れ、波打ち際の海水が来る場所で、死んだ彼女を思い浮かべながらピアノを弾く。
 しかもそのピアノは、元は黒いピアノだったのだろう、塗装にムラがあって黒い部分が見えている。さらに、各所にシミが見られ、汚れている。
 
 学生の映画研究会が作った作品ではない、メジャーな韓流ドラマだ。
 
 
 毎朝、カミさんが時計代わりにつけているテレビで、その時間放映されていた韓流ドラマの再放送を、見るともなく見ていた。
 韓国の人気女優チェ・ジウ主演の『天国の階段』というドラマである。以前にも放送されていた記憶があるので、きっと日本でも人気のドラマなのであろう。それにしても、笑ってしまうくらいおおざっぱな作りなのだ。
 
 他にもおかしなシーンがいくつかあったので、その「代表的」なのを紹介する。
 丘の上に建つ家にいるチェ・ジウのもとを車で訪れる男性が丘の下に車を止めるのだが、その車から見た家の位置に比べ、建物の中からチェ・ジウが見下ろすときの車の位置が、極端に近いし角度も違う。
 外環と内部で、オープンセットが別であることがばればれなのだ。
 
 こうしたおかしなシーンに対して、だれかが突っ込んだという話を聞かない。どこかでだれかが言っているのかもしれないが、耳に入ってこない。
 
 少なくとも、現在の日本のドラマでこんなお粗末なことがあったら、たちまちクレームの嵐だろう。
 
 そうは言うものの、日本のテレビドラマでも黎明期は如何にもひどかった。
 50歳以上の人ならご存知かもしれない。『少年ジェット』という子供向け冒険ドラマがあった。
 シェーンという名のシェパードが相棒で、その犬が実に良く活躍する。
 活躍し過ぎておかしなことをやった。
 ものをくわえて湖を泳いでくるのだが、少年ジェットにそれを知らせるために、ワンワンと二度ほど吠える。
 しかし、水中に落とすことなく、ちゃんとくわえて届けるのだ。
 
 ヘンである。
 
 悪役の親玉が少年ジェットに目をピストルで撃たれ、失明したはずなのに、次の回にはしっかり見えている。
 その理由は「とびきり上等のコンタクトレンズを使用している」から、ピストルの弾を跳ね返したそうだ。
 
 どんなコンタクトレンズだ!
 
 『まぼろし探偵』というのもあって、「親に心配かけまいと、あっという間の早変わり」なのだが、それはそれでいい。
 変身するとき、サッと草むらに、シュッと建物の蔭に、パッと塀の向こうに一瞬隠れると、次の瞬間まぼろし探偵になって現れる。
 
 何カ所に衣装を隠してる! 言っておくが、衣装を納めるバッグのようなものを持っていることはない。
 
 これらの「突っ込みどころ」は、お約束通り後に好事家に突っ込まれた。
 
 西部劇だってかつてはおおざっぱだった。ワンシーンなのに、くわえていたはずのタバコがカットが変わったとたんになくなったりする。
 日本語吹き替えのとき、声優さんはタバコ代わりのボールペンをくわえたり離したり、忙しかった。
 
 韓流ドラマも、突っ込み個所を探しながら見ると、別な面白さがそうとうあるかもしれない。
 しかし、熱心な韓流ドラマファンには叱られるだろうなあ。
 
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姜尚中『母?オモニ?』

2010年07月04日 | 本と雑誌
Omoni
 
母?オモニ?
姜尚中 著
集英社 発行
 
 姜尚中の自伝的小説である。両親は植民地時代の朝鮮から、仕事を求めて日本に来た。しかし、戦時下の日本でまともな仕事があるはずはなく、両親は苦労に苦労を重ねる。
 アジア太平洋戦争が終わり、後の朝鮮戦争で朝鮮半島は38度線で南北に分断された。そして、日本と国交が回復したのは、南の大韓民国であった。植民地時代に日本に渡って来た朝鮮人が母国の土を踏むには韓国籍をとるしかなかった。
 在日朝鮮人たちは、チョーセンと呼ばれる差別から逃れるために、民族名を隠し、日本名を名乗った。
 永野鉄男が姜尚中の日本名である。
 
 戦争で溢れる廃材を転売しようと思いついた廃品回収の仕事が、ようやく軌道に乗ったのは戦後しばらく経ってからであった。
 
 読み書きの出来ないオモニの努力は並大抵でなかったことがわかる。メモをとることさえ出来ないので、商売相手に騙されごまかされることはしばしばだった。
 努力が実を結んで廃品回収の有限会社永野商店になり、永野鉄男は東京に出て大学に行く。
 
 在日朝鮮人はどのようにして日本に定住するようになったのか、そして、どんな暮らしをしてきたのか。この小説は、多くの在日家族一つの物語に過ぎないかもしれないが、日本が朝鮮半島を植民地にしたことが、彼らに、そして日本人にどんな問題を引き起こしたのかがわかる。
 
 この本以前に、姜尚中は『在日』という自伝を書いている。順序からいえばこちらを先に読むべきなのだろうが、読んではいない。こちらはドキュメンタリーなので、一般には本書の方がうけいれやすいだろう。
 
 永野鉄男は学生時代に、決死の思い出日本名を捨て、姜尚中を名乗る。
 
 『今昔物語集』『宇治拾遺集』に登場する陰陽師、安倍晴明の言葉に、「名は呪(しゅ)である」というのがある。
 万物は「名」によって縛られるというのである。実態と名前がどれだけかけ離れていようと、名前の持つ印象は障害ついて回る。
 姜尚中と永野鉄男では印象がまったく違う。やはり、姜尚中は「姜尚中」だ。
 
 戦前の日本は韓国併合で朝鮮人が民族名を名乗ることを禁止した。「半島人も日本人」との号令のもと、創氏改名で強制的に日本名を名乗らせ、天皇に忠誠を尽くさせた。
 姜尚中にとって民族名を名乗るということは、安倍晴明が言う「呪」以上の意味があったのであろう。
 
 オモニは子供たちを育て上げ、波瀾万丈ながら努力が結実して幸せな生涯を終える。しかし、在日としてこのような家族は稀ではないだろうか。
 
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