「自分には関係ない」と思っている人たちへ
今日、7月1日「集団的自衛権」の行使が公明党の合意を得て閣議決定された。
新聞各紙はその関連記事で大半が埋まっているが、他のマスコミはどうかといえば、民放のワイドショーなどでは遠野なぎこの離婚のほうに多くの時間が費やされている有様だ。
いったいなんなんだ!
昨日の夕方、フジテレビが独自にとったアンケートでは、国民の60パーセント以上が集団的自衛権容認だという。
どんなアンケートのとり方をしたのか!
周囲の人間に集団的自衛権の話を振っても乗ってくるのは一部で、多くの市民は興味もなければ理解すらできないというのが実態である。これは明らかに、報道の責任といわなければならない。
「集団的自衛権て、友だちが危ない目にあわされたときに手を差し伸べるってことでしょう、これって、人として当然のことじゃないの?」
それは立前であって、実際はそのような人道的な見地から行われるものではないことが、まったく知られていない。仮に百歩譲ってそうであったとして、その「友だち」がだれなのかを考えたとき、日本が「手を差し伸べて」役に立つのかどうか。また、その「友だち」を助けたために、無用な被害を被るのはいったい誰なのか。
さらに、集団的自衛権を行使する主体は自衛隊であって、自衛隊員そのものへの影響はどうなのか。そして自衛隊のあり方が変わることで、国民生活はどう変わるのかを考えなければならない。
●明らかな憲法違反
集団的自衛権とは同盟国が他国からの攻撃を受けたときに、ともに武器を使って戦うということである。ちなみに、専守防衛とは、自分の国が攻撃されたときのみ、反撃できるというもので、憲法で定められた「国際紛争を解決する手段」としての戦争は永遠に放棄する、「そのための兵力は」保持しないという規定を、ぎりぎりの「解釈」によって容認しているものである。
したがって、自分の国が攻撃されてもいないのに武力を行使するということは、明らかな憲法違反である。
つまり、本来なら憲法そのものを変更しなければならないのだが、それには国民の反対意見が強く実現するためのハードルが高い。だから、「友だちを守るのも防衛」などと都合良く「解釈」したのである。
ちなみに、アジア太平洋戦争が終わってから以降、日本は1人の戦死者も出していない。ベトナム戦争も湾岸戦争も、いっさいアメリカの誘いに乗ることはなかった。つまり、70年近くも日本が戦争をしていないということは、憲法で戦争を禁じているからに他ならない。
●助ける「友だち」とは「アメリカ合衆国」
アメリカは6820億ドル(2012年)で世界の軍事費の60パーセントを占めるダントツの軍事大国である。憲法で兵力を持たないことになっているはずの日本は第5位で、4位の英国とほぼ同額の600億ドル(同)だが、アメリカの10分の1にも満たない。しかもアメリカは、地球上に存在する核兵器の大半を所持しているともいわれている。
つまり、「ドラえもん」でいえばジャイアンがよその学校の不良にからまれたからと、のび太が助太刀するようなもの、いやそれ以上の差がある。かえって足手まといだ。
だから、兵力的に日本は、アメリカにとっては何の役にも立たない。
●海外侵略ふたたび
なのになぜ、アメリカは日本を戦争に引き込みたいのか、またなぜ、安倍政権を中心とする日本の政財界は、集団的自衛権を推進しようとするのか。
安倍政権は、その強大なアメリカの軍事力を背景に、中国や韓国などの周辺諸国に対し、優位に立ちたいと考えている。尖閣諸島や竹島問題は、あくまでもシンボルにすぎず、狙っているのは中国や韓国を経済的植民地にすることである。日本は、長い不況で財界は国内市場だけでは発展できない現状にある。地球上の人口の大多数を要するアジア諸国を手中に収めることで、広大な市場を獲得し、日本の大企業を発展させようという目論見だ。ただしその場合、中小企業は人件費の安いアジア諸国に仕事を奪われ、発展どころか倒産に追いやられることになる。そうなると、ほとんどが中小企業によって守られてきた日本の技術は失われることになる。
1930年代の日本は、やはり深刻な不況に陥り、中国東北部(満州)や朝鮮半島を侵略し、やがて無謀な太平洋戦争に向かっていった。まったく同じとはいえないが、状況は80年前と酷似していることを認識しなければならない。
●日本が攻撃される理由になる
集団的自衛権を行使するということは、日本がなんと言おうと、外国から見れば軍事行動以外の何ものでもない。アメリカ国と戦争しているB国の手助けを日本がすれば、B国は攻撃されたととらえ、日本の自衛隊基地や基地が集中する沖縄が攻撃されることは十分考えられる。
ミサイルによって日本の首都東京が攻撃される場合も皆無ではないのだ。
●徴兵制度は「飛躍した論理」か
イラク戦争当時、自衛隊の幹部養成学校である防衛大学で、自衛隊に就職しない卒業生が増えたという。防衛大学を卒業して自衛隊に入れば、一般大学の卒業生とは明らかに異なるエリートコースが約束されているにも関わらずだ。また、一般の隊員の中でも、退職する自衛隊員の数が前年を大幅に上回ったという。
待遇がよく、再就職にも有利といわれる自衛隊に入隊する裏付けには、日本が憲法9条で戦争をしないために、自らのいのちがおびやかされることはないからだと、退職自衛官からきいたことがある。
それを裏付けるように、「東京新聞」の取材で若い自衛隊員の意見として「災害救助」や紛争国への「支援物資の運搬」などが入隊理由の主流を占め、実際の戦闘行為を目的に入隊する人間はあまりいなかったそうだ。
だとすると、集団的自衛権が行使されれば戦地に派遣され、自らの命が危険にさらされる可能性が高くなることから、退職自衛官はいっそう増えるだろう。まして、親は「自衛隊を辞めてほしい」と考えるに違いない。
そのため、よほどの待遇改善が見られなければ、隊員募集も思うようにいかなくなり、政府としては何らかの手段を講じざるを得ない。
〈徴兵制度は権力者には都合が悪い〉
戦前の日本のように徴兵制度を実施することが手っ取り早いかもしれないが、それには国民の激しい抵抗とともに、もっと都合の悪いことがある。
公平な徴兵制度では、政治家や政財界の大物の子息であっても入隊しなければならない。常々言っていることだが、戦争とは、
「イカないやつがヤリたがる」ものだからだ。ぼっちゃん方も高見の見物でいられなくなる。そのために韓国などでは、芸能人や政財界の子息には特例が設けられていたり、なにがしかの金を払うことで徴兵が免除になる。
つまり、金持ちケンカせず(?)のとおり、金さえあれば戦争に行かなくても済むようになっている。
〈格差社会〉
アメリカに徴兵制はない。だれもが軍隊に入らなければならない徴兵制度は国の権力者にとって都合が悪いからだ。そこでアメリカは極端な格差社会をつくることで、貧しい家の子どもを見つけ出しては、「家族のために海兵隊に入ろう。短期間で金が稼げてオキナワにいけば女はやりたい放題だ」と軍隊に勧誘する。だから、沖縄では海兵隊による犯罪が多い。
日本の場合もたぶん、最初に考えられるのはこれに近い方法だろう。いっそう就職難を増長し、自衛隊以外に就職できなくするという方法だ。これはすなわち、形を変えた徴兵制度に他ならない。
つまり、最近の若者たちが「まさかそこまでしないだろう」と高をくくっている徴兵制度は、決して飛躍した論理でもなんでもなく、現実のものになる可能性が限りなく高い。
●情報が行き渡らないわけ
日ごろから気になっていることだが、脱原発でも集団的自衛権でも、集会に集まる人々の年齢層が高い。50歳以上からリタイヤ組に当る年代がほとんどで、30代以下はまれにしか見られない。
「東京新聞」の「こちら特報部」によると、脱原発デモを高円寺から全国に拡げた「素人の乱」の松本さんは次のように語る。
「『戦争反対』と叫ぶ人たちは、政党などとつながりのある団体が多い。政治に無関心な若者にとっては別世界の人種だ」
脱原発デモは、
「当時は放射能への怖さという切迫した動機があった」
からだそうだ。
集団的自衛権は閣議決定されてもすぐに影響が出るわけではない。したがって積極的な関心事にはならないということだ。
〈ハブかれたくない、という若者心理〉
「友だち同士の会話で政治の話は持ち出さない、サークル仲間ならサークル、バイト仲間ならバイトの話、あまり関係ない話をするのは…」
最近の若者の傾向として、ちょっとかわった人間を仲間から排除する。いわゆる「ハブき」という行為がある。「ハブき」とは、仲間はずれにすることで一種のいじめである。ハブかれることを怖れるために、他とは異なる意見を述べたり違った行動をすることは避け、できるかぎり自分を出さないようにするのだ。
今の大学生は、全共闘世代のように、居酒屋や喫茶店で侃々諤々と口角沫を飛ばして討論するなどということは皆無に近い。議論を交わせば、自分の知らない知識を持っていたり、異なる意見の人間から様々な意見交換ができるはずなのだが、「ハブき」を怖れるあまりその機会を失っているのだ。
彼らは基本的に新聞を読まないし、関連書籍に目を通すこともない。情報はもっぱら、権力に都合良く編集されたテレビ番組や、在特会などに代表されるゆがんだネット情報である。
「アメリカに守ってもらわなければ、日本はたちまち北朝鮮の餌食になる」
「日本に来ている中国人や韓国・朝鮮人は子どもも含めてみんなスパイだ」
「集団的自衛権の行使は、日本を侵略しようとしている中国や朝鮮から、アメリカに守ってもらうために重要だ」
こんなまちがった考え方を、あたかも真実であるかのようにネット上で語る人間が増えているのは、ディベートなどの討論で自らの知性を磨かなければならないはずの学生たちの多く(全部とはいわない)が、最大関心事を就職と異性に求めることに没頭し、意識的に政治から目を背けていることによる。
●おわりに
集団的自衛権の行使は、自分と関係のない遠い世界のことではない。アメリカは日本と異なり、アジア太平洋戦争が終わってからもずっと戦争をし続けている。それは国の最大の収益である軍事産業を維持するために、世界のいずれかで兵器を消費しつづけなければならないからだ。アメリカの軍事産業はアメリカ国内はもちろんのこと、日本をはじめとした同盟国に高額な兵器を売りつけることで利益を上げている。
たとえば、パレスチナとの長い闘いで疲弊したイスラエルに莫大な軍事援助費を送り、その金でアメリカの軍事産業から兵器を買わせている。その軍事費はアメリカ国民の税金であり、それは軍事産業を潤す利益としてアメリカに戻り、アメリカの政治家たちの政治資金として政治家たちも潤す。金持ちはますます儲かり、貧乏人はいっそう貧しさを増すという構図だ。
湾岸戦争はアメリカの兵器の在庫整理だったといわれる。使わなければ新たに買うことはできないので、戦闘員のいない地域や攻撃の価値のない建造物に対してまで、雨あられと砲撃した。そうしておいて、軍事行動をしなかった同盟国の日本に、その費用を出せと言ってきた。日本はそれを支払い、そのあげく日本人は血を流さずに金で済ませたとまで言われた。本来、血を流す必要もなければアメリカの大企業に入る金を支払う義務もないはずなのだが。
日本が集団的自衛権の行使を容認したということは、こうしたアメリカの不健康きわまりない構図を助長する手助けにもなるということだ。
『ここがおかしい 集団的自衛権』
もう少し詳しく知りたい人のために。
Q&A方式になっているため、レイアウトがごちゃごちゃしていて一見読みにくい印象があるけれど、文章はわかりやすいのでおすすめ。
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