『南京!南京!』
陸川 監督
史実を守る映画祭実行委員会 主宰
なかのZEROで『南京!南京!』を観た。
中野駅から会場までの沿道に、警察官が点々と立って警備をしていた。以前のように機動隊の車がずらりと並ぶというようなことはなかったが、念のためということなのだろう。しかし、右翼の街宣車はまったく見当たらない。
なまじ街宣活動などをしたらかえって宣伝になると、右翼も騒ぐのを控えているようだ。
この映画、以前友人から中国版のDVDを借りて観ようと思ったのだが、うまく再生できずにあきらめた記憶がある。
日本版のDVDが発売されることを期待したい。
南京事件についての概略は以前この映画の予告で書いたので省略する。
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『南京!南京!』日本初公開
2009年に日本で公開されるはずであったこの映画は、一度は交渉成立に至った日本の配給会社が、右翼からの妨害行動を怖れて上映を中止したため、これまで公開されていなかった。その後、「史実を守る映画祭実行委員会」があらためて交渉し、今回の上映に至ったのである。
中国映画は最近技術の向上が目覚ましくて、メジャーな作品では目を見張るような作品が少なくない。しかし、ゲリラ的な部類にはいる作品には、いささか見劣りするものが多かった。だが、「期待(?)に反して」映像的にはたいへんよくできている。モノクロ作品だが美しい映画だ。
登場する中国の女優さんたちは無名だが(僕が知らないだけなのかもしれないが)それぞれ美形である。こんな美形な女性たちが、粗暴な日本軍人の毒牙にかかるとは、何とも耐えられない。(美形でなければかまわない、という意味ではないので誤解なきよう)
登場する日本兵はほとんどがこれまでの南京を描いた映画と同様粗暴で悪辣だが、主役クラスの若い日本兵(中泉英雄)は友軍の行為に疑問を持ってると感じさせる。日本人の従軍慰安婦に恋心を抱いたり、中国人が処刑されるシーンでは表情を曇らせたりする。
しかしそういった表現は、中国では日本に肩入れしていると批判されたようだ。しかし、この映画の目的が中国人の反日感情を鼓舞することではなく、「史実」を伝えることにあるならば、実際、日本軍の行為に批判的な日本軍人もいたわけで、これは正しい表現である。
なによりも、学校でも詳しく学ぶことのない「南京事件」を初めて知った日本人にとっては、陸川監督のこの映画が、受け入れられる限界だろう。これまでの「南京」ものは、これでもかというくらい残虐性を誇張して、拳を振り上げすぎるきらいがあった。
それでも、目を疑うようなシーンは各所に見受けられる。
このシーンはマネキン人形を運んでいるのではない。死亡した従軍慰安婦をまるで粗大ゴミのように捨てにいくシーンだ。
従軍慰安婦は、多い日には数十人の兵隊を相手にするという。そのために、行為の最中に命を落とすことが少なくないという。裸のままなのはそのためである。
揚子江の川岸に捕虜や住民を何千何万と集め、一斉射撃で殺害するシーンもある。これは史実通りである。これよりももっと残虐な行為に、大きな穴に集めて一斉射撃で殺害した上、石油をかけて焼き殺したという記録があるが、そういったシーンは描かれていない。
街中のシーンでは路上の各所に死体が転がっているが、残虐すぎる死体の姿はあまり見せていない。もしかするとそのあたりも、中国では生温いとされる所以かもしれない。
それでも、「安全区」を襲う日本軍の理不尽さや、窓から子どもを投げ落とす残虐行為は日本人の目には辛い。
うまくできていると思える個所が多い反面、もう少し何とかならなかったのかという個所も少なからずある。
これは祭りのシーンということなのだが、なんだかよく分からない。日本の兵隊たちが列を作って妙な振りで踊りながら行進する。
いったいどこのどんな祭りなのか、もし知っている人がいたら教えてほしい。
どのシーンでも、歩兵銃に着剣したままというのはどうなのか。重いし危険だ。
日本人俳優がキャストに含まれてはいるものの、年齢からいって陸川監督に意見を言える立場ではなかったろう。中国人にとって、「こう見えていた」ということで納得したいのだが、それにしても……。
中国映画に限らず、だいたい外国映画に描かれる「日本」はヘンである。
中国映画ではないが、日本の結婚式のシーンで、神社の鳥居の下に畳状のものを重ね、その上で牧師が誓いを求め、参列者の中には着物に下駄履きで蛇の目をさしているのがいた。外国人の目にはそう見えているのだろうけれど、笑うに笑えない。
話を戻そう。
もう一つ注文を付けるならば、「南京事件」や「近代史」についての基礎知識のない人には理解し難い個所が少なからずあった。ジョン・ラーベやミニー・ヴォートリンといった「南京事件」ではおなじみの外国人が登場するが、彼らがどういう立場で何故南京にいたのかがほとんど説明されていない。
当時南京は中華民国の首都で、世界中から多数の外交官や記者などが駐留していて、ジョン・ラーベはナチス・ドイツの商社員、ミニー・ヴォートリンはアメリカのキリスト教伝道師である。
また、シーンからシーンのつなぎが説明不足で、できごとの羅列のようになってしまっているのは否めない。
たとえば、ジョン・ラーベが帰国する際、彼と共に脱出できる権利を他人に譲った男性が、次のシーンでいきなり処刑されたりするが、まるで中抜けしてしまったような違和感を覚える。
捕虜は処刑することを前提とした日本軍のあり方を、あらかじめ説明しておかないと、すべてにおいて処刑のシーンが唐突になる。
中国人にしてみれば常識でも、外国人には理解できない点が多々あるので、世界レベルでの上映を想定するのであれば、そのあたりの配慮が欲しかった。
◆日本軍は何故、国際法に反して捕虜を処刑したのか
1933年7月7日の盧溝橋事件を発端に本格化した日中戦争で、日本軍は戦場を拡大し、住民から物資を略奪しながら南下していった。
戦線の拡大は関東軍を中心とする日本帝国陸軍の強行であって、本国からの補給はほとんど追いつかない状態であった。
大本営からも、「物資は現地調達」という指令を受けており、兵たちはこれが犯罪行為であるという意識はなかった。その流れの中で、兵たちは戦争ならば何をやっても許されると思い込み、略奪、強奪、暴行を繰り返した。将校たちはそれをとどめるどころか奨励したのである。
12月13日に南京を攻略した時には、兵士たちは心身共に疲弊しきっていて、精神状態は荒みの極みを見せていた。
まず第一に、南京での一般住民に対する略奪や暴行は、こうした状況の中で起きた。
さらに、膨大な人数の中国人を捕虜として(中には兵士でないものも多数含まれていたが)捕らえはしたが、国際法に従って収容所に収容し、必要な食事や日用品を与えることを、日本軍は惜しんだ。というよりも、日本軍にその余裕がなかった。
したがって、捕らえては殺すを繰り返した結果が南京大虐殺である。
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