ひまわり博士のウンチク

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読書週間には古典を読もう

2008年10月27日 | 日記・エッセイ・コラム
 10月27日から11月9日までの2週間は読書週間です。
 読書週間が始まったのは1947年で、最初は11月17日から23日までの1週間でした。しかし、1週間ではたいした読書はできないだろうということで、2回目から現在の2週間になりました。

Koten

 子どもたちの間でコンピューターゲームが読書を駆逐して久しいものがあります。そういう子どもたちは大人になっても、さまざまなメディアの氾濫から活字を読まなくなって来ています。
 というよりは、活字が読めなくなっています。

 テレビなど電波のメディアと違って、本を読むという作業はエネルギーを必要とします。読書の習慣どころか新聞すら読まない人が、「読書週間だ、さあ本を読もう!」と意気込んでも、そうそう読み切れるものものではありません。

 うちのカミさんの場合、若い頃はよく読書をしていて、速度もそれなり早かったのですが、子育てに時間を取られているうちに次第に読書離れが起き、今では数ページ読むと眠くなってしまうといいます。
 あれも読みたい、これも読みたいと、ぼくの書棚から本を持っていきながら、結局枕元に読みかけの本がうずたかく積まれて、現在どの本を読んでいるのか、本人でも分からなくなっています。
 過去に読書好きであってさえこの始末ですから、まして、子どもの頃から活字を読む習慣がなければ、最初から読書するという発想には向かいません。
 「本を読まなくても生きていける」
 そう言ってはばからない人のなんと多いことか。

 で、この記事のテーマである古典についてですが、最近は読書好きの人ですら敬遠しがちで、本を読まない人にはそれこそ真っ先に嫌われているようす。
 まあ、夏目漱石やトルストイは、東野圭吾や宮部みゆきと比べたら確かに読み難い。新字新仮名に直されたものでも、段落が長いので紙面全体に文字が詰まって見えて、ページを開いたとたんに「ゲッ」。
 しかし、かつては読書といえば古典を読むことが中心でした。小さな活字でぎっしり組まれた2段組みが普通だと思っていました。
 それでもトルストイやドストエフスキーの大作は、学生時代のたっぷり時間があるときを利用しなければなかなか読めるものではありませんでした。
 読書が盛んな時代でも、社会人になってから長編小説や難解な哲学書を読むにはまとまった読書時間はなかなか取れません。ほとんどが挫折を体験することになってしまいました。

 現代の若手ビジネスマンの多くは、コンピューターゲームなら何時間でもやっているのに、会社から薦められた、薄っぺらい新書判のビジネス書ですらなかなか読破できないそうです。

 「夏目漱石? 名前は知ってるけど、読んだことない」
 「イプセン? ゴーリキー? 知らない。誰それ」
 「ゲーテって、フランスの人だったっけ。あ、イギリスだ、イギリス」
 ……おいおい。

 岩波文庫の巻末には「古今東西にわたって(中略)、いやしくも万人の必読すべき真に古典的価値のある書を極めて簡易なる形式において逐次刊行」するという岩波茂雄氏による発刊の抱負が記されています。角川文庫にも、創立者の角川源義氏による概ね同じ内容の文章があります。
 本来、文庫とはそういうもの。
 しかし、現在にいたるまでそれを守っているのは岩波文庫だけで、後に続々と発刊された文庫本は、その多くが単なる廉価版に過ぎず、「万人の必読すべき真に古典的価値のある書」とはあまりにもかけ離れています。
 作家の故倉橋由美子氏は、自分の作品が新潮文庫に納められると知ったとき、大変名誉なことだと感じたのもつかの間、その文庫のラインナップから廉価版に過ぎないことを知り失望したと何かに書いていました。
 それはもちろん、ただひたすら利益に走る出版社にも責任がありますが、読者の古典離れが非常に大きい。

 古典とは長年読まれ続けられたという実績に裏付けられた名作のことをいいます。古典の価値は、それを読むことでその後読む書物のための基準ができ、良い本とそうでない本を見分ける力が付くというものです。

 近頃は学校でも古典を読む機会があまりないと聞きます。読書週間という旗振り以前に、普段の生活から、周囲の環境から、そして親ぐるみ街ぐるみで、読書に親しむことを進めていく必要があるのではないでしょうか。

◇この秋に読んでおきたいおすすめの古典5冊◇
 あまりリストに乗らない作品を岩波文庫から5作品6冊プラス1冊。
 どちらかというと、若い人向きかもしれませんが。

 『五重塔』幸田露伴
 (創造へのこだわり。権力に抗して)

 『断腸亭日乗』(上下)永井荷風
 (有名な「正午浅草、正午浅草」)

 『トルストイ民話集 イワンのばか』トルストイ
 (「人にはどれほどの土地がいるか」)

 『インディアスの破壊についての簡潔な報告』ラス・カサス
 (侵略の悲劇と植民地の実態)

 『賃労働と資本』カール・マルクス
 (資本主義の仕組みと罪。格差の要因)

 もう1冊、現在品切れ中なので番外にした本。
 『芸術とはなにか』トルストイ
 (芸術のほんとうの役割とは……)
 この本はぼくが若い頃とても感銘を受けた本で、実は一番のおすすめ。古書でなら比較的入手しやすい本です。

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