渋谷アップリンクで上映されている「南京 引き裂かれた記憶」を観て来た。
久しぶりに渋谷に出たが、どうも渋谷という街は好きになれない。人が多くて騒々しいだけでなく、歩いている連中に目的が見えない。ただ何となくぶらぶら歩いているのがやたらいるから、目的があって出かけてきた当方にとっては、邪魔なことこの上ない。
したがって、NHKや渋谷公会堂(現CCレモンホール)に行くときは原宿経由で行くことにしている。似たようなものといわれればそれまでだが、渋谷経由よりはましだ。
だが、今回はつい、渋谷で降りてしまったのだ。東急本店の先のアップリンクまでかなりストレスがたまる。
この映画は、松岡環さんが10年以上かけて収集した、南京事件における元日本兵の加害体験と、中国の被害者の証言を映像化したものだ。
松岡さんの成果は、これまで中国側のものがほとんどだった南京事件に関する証言に、加害者としての元日本兵の証言が加えられたことだ。
松岡さんの仕事はすでに、「南京戦 元日本兵102人の証言」(2002年)と「南京戦 被害者120人の証言」(2003年)としてまとめられ、社会評論社から出版されている。出版当時はともに、賛否両論激しい論争をまき起こしたものだ。
ひどいものは、証言した兵士が所属する33連隊も88連隊も、南京には侵攻していないなどという極論さえあった。
南京事件、靖国問題、沖縄戦は、右翼がもっとも神経を尖らせる。ところが、「南京 引き裂かれた記憶」に関しては、右翼の妨害がまったくなかった。過去には右翼の街宣車が行列を作ったり、スクリーンが引き裂かれたり、上映館に脅迫電話が入るなど様々な妨害が行われて、かえってそれが宣伝になっていたのだが、この映画に関してはまったく右翼の反応がない。
右翼も賢くなって、妨害行動は逆に宣伝になると気づいたか。
映画に出演されている証言者の中には、すでに故人になっている方々も何人かいて、証言収拾のリミットが近くなっていることを感じた。
証言者が高齢のために、映像との同時録音で聞くと、いかにも聞き取りにくい。字幕なしでは半分も理解できないのだ。
日本全国のみならず、中国までも証言者を訪ね歩き、聞き取りにくい証言を本にまとめた松岡さんの努力に頭が下がる。
映画は、南京事件にかかわる元日本兵と中国人被害者の証言が半々に振り分けられているが、とくに元日本兵の証言は大変貴重だ。心を許して話をしてくれているのは、松岡さんが女性であるせいかもしれない。
自分の記憶だけにとどめ、墓に持っていくのがほとんどだろう。
「いつ死ぬかわからないし、兵隊は皆若いから。そりゃ男だからねえ。50人くらいかなあ。上官は止めなかったね。憲兵? いなかった」
強姦を経験した元日本兵の言葉だ。
「病気を持っているかもしれないから、調べてからやれって軍医に言われた。やるまえに、カンカンって言うんだ。見せろってね。大丈夫そうなら、サイコ、サイコって言う。性交ってことだよ」
「人間じゃない。獣になってたね」
「揚子江を木っ端船で逃げてく人間をね、『あれを撃て~!』って、命令されます。タタタタタタって、小銃で撃つんです。生きてるものは皆殺せって」
「捕虜? 殺しました。生かしとったら食わせにゃならんでしょう」
「南京大虐殺なんてなかったっていう人がいますけどね、あれは間違いなくあったことです」
悪いことだとはわかっている、しかし、あの状況では仕方なかった、という、証言者の苦しい気持が伝わってくる。もしそうした環境に逆らっていたなら、軍隊での彼らの立場は間違いなく悪くなっていただろう。
「嫌なこともいっぱいあったけど、楽しいこともあった」
ふと漏らしたこの言葉に、元日本兵の追い詰められた立場が映し出される。だれかを犠牲にすることでしか、楽しみはなかったのだ。表面的にはともかく、心の深いところで彼らは後悔している。しかしそれは、死んでも認めたくないのだ。
生の声を聞いてもまだ、「あれは言わせられている」とか「ウソだ」とかいう人がいたなら、その人こそ感性が狂っている、と感じさせる映画だ。
奇しくも、上映館内で松岡環さんにお会いすることができた。上映前に挨拶をなさっていて、終了まで待っていただいた。
若い人たちにぜひ見てもらいたいとのことだったが、この上映も我々も含めて年配者ばかり。
「ウザッタがられるかも知れませんが、若い人に勧めてください」といわれる。
松岡さんは今年8月「戦場の街南京―松村伍長の手紙と程瑞芳日記」という新刊を社会評論社から出版している。これまでの証言は名前が伏せられていたということもあって、右翼から創作だの捏造だのと言われていきさつがある。しかしこの著書では実名で掲載することができたという。
不覚なことに出版されていることに気づいていなかった。本多勝一さんや笠原十九司教授も言っていることだが、「あっち方は声が大きい、それにくらべてこっち方は声が小さい、もっと声を上げようじゃないか」ということは、出版社にも言えそうだ。
「今回は右翼の妨害もなく、無事に上映できて良かったですね」
「そうですね、期待してたんですが」
やっぱり松岡さんは半端ではない。
映画やパネルの貸し出しがあるという。松岡さんの講演付で、杉並でできないものだろうか。提案してみたい。
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