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ひまわり博士のウンチク

読書・映画・沖縄・脱原発・その他世の中のこと

43年ぶりの「沖縄戦」資料集

2017年05月29日 | 歴史

 
 沖縄県では米軍占領下の1963年から断続的に「沖縄県史」を刊行してきた。
 今から5年前、「沖縄県史」資料編23として、日本軍の資料を集めたものが、研究者の間で高い評価を得た。
 今回発行されたのは、『沖縄県史 各論篇6 沖縄戦』として、住民からの証言をもとに編まれている。つまり、先の資料編が日本軍サイドから見たものとするならば、本資料集は住民にとって「沖縄戦」とは何であったのかが、高齢化が進む戦争体験者の視線からの貴重な証言が記録されている。
 旧日本軍による住民への加害行為のほか、現在も、沖縄戦生存者がPTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされていることにも触れている。「集団自決(強制集団死)」や米軍の無差別爆撃で、肉親の死を目の当たりにした生存者は、雷や花火の音にもおびえると話す。
 過去の体験集などでは発表されなかった多くの新証言をもとに構成されており、「日本軍資料」とあわせて沖縄戦資料の集大成と言えよう。
 

 
 本書は学校図書館及び研究者向けのため、書店では販売していない。
 B5判上製約800ページ、カラー印刷。
 問合せ 沖縄県教育庁文化財課資料編集班(098-888-3939)。在庫があれば一部5000円(税込 送料別)で分けてもらえる。

透谷と啄木を通してみる明治維新という迫害

2017年03月26日 | 歴史

 渥美博『封殺されたもうひとつの近代』
〜透谷と啄木の足跡を尋ねて〜
スペース伽耶 発行 四六判268ページ 2,000円+税
 
 本書は明治の代表的な文学者である北村透谷と石川啄木の生き様を柱に、当時の下層階級にとって明治とはどんな時代だったのかを探求した研究書である。
 両者ともはじめから封建社会や明治の帝国主義に疑問を持っていたわけではない。彼らがぎりぎりの貧困生活を送る中で、庶民を置き去りにした指導者たちによる帝国主義政策の実態に気付きはじめ、抵抗感を深めていくのである。
 
 啄木のばあい、当初はきわめて保守的な考えの持ち主だった、それが小国露堂ら社会主義者と出会い、交流を深めていく中で少しずつ視野を広げていく。目先しか見えていなかった啄木が、世界に目を向けはじめたときの象徴的な短歌がある。
 日本中が「韓国併合」でうかれているとき、世界地図の赤でぬられた日本の領土が朝鮮半島に及んだとき、啄木はその赤色を墨で塗りつぶした。
 
 地図の上 朝鮮国にくろぐろと
 墨をぬりつゝ 秋風を聞く

 
 時系列は逆になるが、最後の章で語られる一揆についての記述も面白い。1866年(慶応2)陸奥国信夫、伊達郡で十数万人が参加したといわれる大一揆をはじめ多くの一揆では、代官、豪商、豪農などの家屋敷のうちこわしが目的で、放火、略奪、窃盗乱暴狼藉ははたらかなかった。
 米一粒なりとも持ち帰ってはならないと取り決められていた。放火や盗みをしないことで一揆弾圧の口実を避けたものと言われているが、語られるだけでは本当にそうだったのか疑わしい。しかし、複数の記録で実際に規律が守られていたことが伝えられている。破壊するための道具は持っていたが、殺人に使う武器などはいっさい持参しなかった。
 実に統一のとれたものだったらしい(例外はあったようだが)。
 著者は、もし農民軍として組織されていたならば、おそらく明治維新のかたちは変わっていただろうと語る。余談だが、封建制度に苦しむ農民を民兵として組織し、革命を成し遂げたのが中国の毛沢東だ。
 日本は真の民主国家をつくる絶好の機会を逃したのかもしれない。
 
 教科書や一般の歴史書では語られることのない、日本の下層階級から見た明治維新と明治の世相を描いた本書は、熟読に値する。