monologue
夜明けに向けて
 



 ある時、今度ガーデナに店を出すのでエンターティナーを週に1日やってほしいと頼まれた。ピアノやギターの弾き語りはエンターティナーと呼ばれている。

 ガーデナはロサンジェルスの南で日本人が多い町。約束の日に行くとそのクラブのママが上海帰りのリル をリクエストした。わたしが歌い終わると「この歌は実話 なの。わたしの家は銀座で店をやっていてリルが働いてたの」という。真偽はわからずそんなものかと思った。歌詞に夢の四馬路(スマロ)が出てくるところをみるとリルは上海の四馬路(現在の福州路)あたりの茶館や妓楼で働いていた女性のようだ。そこで生まれた恋物語を歌にしてヒットしたらしい。するとママの旦那が来て当時のヒット曲を歌本から5曲ほどみつくろってリクエストする。わたしは聴いたことのない歌の譜面を初見で歌った。するとチップをはずんでくれる。それからその店に行くたびにわたしが知らないかれらの青春期の歌をリクエストするようになった。わたしは油汗を流して戦後しばらくの全然知らない歌を感情を入れることもできずなんとかごまかし歌うのだった。

 そしてある日、店に行くとドアに「このたび事情によって閉店することになりました」との貼り紙があった。繁盛することもなくそれで終わりだった。あのママは「ガーデナ帰りのママ」としてどこかの店に入ったのだろうか。

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )



« エレミアはガ... 河内音頭 »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
コメントをするにはログインが必要になります

ログイン   新規登録