9月12日に英国ロイヤルオペラMacbethを見ました。
シェイクスピアの有名な戯曲マクベスをもとにヴェルディが作曲したオペラです。
ストーリーは、シェイクスピアの戯曲に忠実なので、誰でも知っているストーリーですが、私はいろいろオペラを見ている割には、この演目は初めてとなります。
今回、とても完成度の高いオペラを見ることができたと思います。
演出においては、この物語がすべて魔女の掌中の上で展開していることが重要な局面で強調されています。
魔女から聞かされた不思議な予言の内容をマクベスが夫人に書いて伝えた手紙を届けるのも、バンクォーが自分の命と引き換えに逃がした子を救出するのも、その子を将来の結婚相手となるであろうと娘とともに連れ出すのも、また、もう一度予言を聞くべく再度魔女を訪れたマクベスを正気が戻った形で王の城に戻すのも、そしてマクダフと一騎打ちで闘い、敗れ去り、晒し者にされたマクベスの遺骸を嘲り笑うように覗き込むのも、皆魔女たちです。魔女たちは、3名ではなく多数登場し、皆赤い頭巾をかぶっているので、とてもわかりやすい演出です・
マクベス夫妻が、マクダフの城を急襲して、妻子共々皆殺しを命じる場面では、最初に子供好きの夫妻のイメージを演出させておいて、その後に、自己保身のために何らの躊躇いもなく子供まで含めて殺害を命じさせ、また実際に国王自身が手にかける場面まで描き、残虐非道な国王夫妻を演出しています。王位を簒奪するため、自己保身のために何ら躊躇なく人殺しをしながら、その後になって、自己の犯した罪に慄くマクベス夫妻の姿がよく描かれていたと思います。
また、国王の天蓋のような役割を果たす、四角い金色の格子型の立方体まで登場し、国王の地位を象徴しています。物語の内容だのみならず、形が鉄格子のようであることからしても、自由がなく、縛られた国王というイメージになっています。マルコム王子も、マクダフが王冠を差し出したのに、なかなか王冠を受け取らなかったようです。
なお、この演出ではマクベスの死のモノローグ「やみくもに地獄の予言を信じたのだから」も歌われていますが、改訂版ではこの部分は歌われないということです。
歌手は、マクベス夫人役のリュドミラ・モナスティルスカが発狂した場面も含めて、特別によかったと思いますし、それ以外の役の歌手も皆非常にうまかったと思います。マクダフ役の歌手なども、一人で歌う場面は非常に限られていたにもかかわらず、とても印象に残っています。
音楽も、パッパーノの牽引力なのでしょうか、非常に見事にまとまっていて落ちがなかったように思います。観客にこういうオペラを見たかったのだという気持ちにさせてくれる力を持った方です。
音楽、歌手、演出どれも満足な内容のオペラでした。
惜しむらくは、といっても、これは単純に私だけの事情なのですが、今回、あまりいい座席を取らず、舞台の端に行ったバンクォー親子の姿が見えにくくなったことです(昨年の来日公演オペラがさほど特別なものではなかったので、今回はあまりこだわらないでいいと思ってしまったのです。)。
指揮:アントニオ・パッパーノ
演出:フィリダ・ロイド
美術・アンソニ・ワード
照明:ポール・コンスタブル
振付:マイケル・キーガン=ドラン
再演振付:キルスティ・タップ
殺陣:テリー・キング
合唱監督:レナート・バルサドンナ
コンサート・マスター:ヴァスコ・ヴァシレフ
マクベス:サイモン・キーンリサイド
マクベス夫人:リュドミラ・モナスティルスカ
バンクォー:ライモンド・アチェト
マクダフ:テオドール・イリンカイ
マルコム:サミュエル・サッカー
医師:ジフーン・キム
夫人の侍女:アヌーシュ・ホヴァニシアン
刺客:オーレ・ゼッターストレーム
伝令・亡霊1:ジョナサン・フィッシャー
亡霊2・亡霊3:野沢晴海、鈴木一磋
ダンカン王:イアン・リンゼイ
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