道楽ねずみ

ドイツに関するものを中心に美術展,オペラ,映画等の趣味の世界を紹介します。

レオナール・フジタ展(Bunkamuraザ・ミュージアム)

2013年09月02日 | 美術道楽
ドイツ旅行ベルリン編に入る前に,帰国後の美術館巡りの話を1つ。
渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで開催中のレオナール・フジタ展に行って参りました。今回の企画は,箱根のポーラ美術館の収蔵品を中心とした企画展とのことです。
レオナール・フジタが,戦前のパリ・モンパルナスの寵児,藤田嗣治であった時代から,日本で戦争協力者呼ばわりされ,失意のうちに日本を追われるようにパリへと再度渡り,レオナール・フジタと名前を変えた時代の両方の作品が展示されています。

1923年ころの作品は,白い女性像など,我々が藤田嗣治の作品としてイメージするものにあった作品が展示されています。藤田の作品のうち,「仰臥(裸婦)」という作品は,最初に素描で描いたときには,3番目の夫人の絵だったのに,完成した作品では4番目の夫人の絵となり,顔が変わってしまったというのは面白く思われました。藤田嗣治の作品だけではなく,アンリ・ルソー,モディリアーニ,スーチン,パスキンといった画家の作品も展示されていました。アンリ・ルソーの《「モンスーリ公園」のための習作(あずまや)》は,昔,パリのモンスーリ公園の近くに宿泊したことなど,懐かしく思い出しながら,見ました。さらには,土門拳が日本に帰国していた際の藤田嗣治のアトリエを撮影した写真なども興味深く見ることができました(その写真の中に藤田の絵の技法の秘密が一部写ってしまっていたのだそうです。)。

そして,戦後の絵です。子供や動物の絵が多くなります。この企画展のポスターにもなっている子供たちの会食の絵も,このころの作品ですが,大人のような子供のような不思議な雰囲気を漂わせています。タイルのような狭い空間にさまざま職業の人物を1枚1枚描いた作品も味わいがあります。フジタの絵よりも,むしろフジタの精神世界に興味を持ちながら作品を見ることができました。

ここからは企画展の絵とは,直接関係のない感想ですが,それにしても,いくらフジタが戦争中,凄惨な戦争画を描いたからといって,どうしてフジタばかり糾弾されたのでしょうか。フジタの父親は軍医として位人臣を極めているので,フジタ自身も戦争絵画への強力を拒みにくい立場にあったことは否定できないでしょうが,それだけではなく,やはりパリにいて日本画壇との縁が薄かったので,スケープゴートにされたのかもしれません。日本には,専ら戦費調達のためだけに描かれたファシズム一色の絵画さえあるのに,こちらの作品群はコレクターの手によって一箇所に集められ,今でも日本国内だけではなく,多くの外国人観光客の目に触れています。私も訪れたことのある美術館に収蔵されているのですが,フジタの戦争協力への批判の話になるたびに,その美術館のことを思い出してしまいます。