Zooey's Diary

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静謐な佳作「ヤコブへの手紙」

2012年01月15日 | 映画
2009年、フィンランド映画。フィンランド・アカデミー外国語映画賞代表作品。

小さな、静かな作品です。
登場人物はたったの三人。
盲目の老牧師、刑務所から恩赦で釈放された元女囚、そして郵便配達人。
BGMも、雨だれのような静かなピアノ曲のみ。
これだけの材料で、これだけ人の心を打つことができるとは。

1970年代のフィンランドの片田舎。
白樺に囲まれた、雨漏りのする粗末な牧師館。
教会を訪れる人はもはや誰もおらず、日曜日のミサも結婚式もない。
引退した老牧師ヤコブと外界とのつながりは、悩みを持つ人から手紙を受け取り、その返事を書くことだけ。
そこに、手紙の代読と返事の代筆の役目を担ってやってきたのは、元終身犯レイラ。
この女が、呆れるほどにふてぶてしい。
鈍重という言葉がピッタリの体格と態度で、ニコリともしない。
神も信じず人間も信じず、誰にも心を開かない。
たったひとつの仕事すらも嫌がり、牧師に来た手紙をこっそり捨ててしまうほど。
やがて牧師への手紙が届かなくなり…

来る日も来る日も、手紙を待つ老牧師。
「人々のために祈ることが使命だと思っていたのに。私はもう必要とされていない。」
とうなだれる牧師に
「だったら祈るのをやめればいい。自分のために祈っていただけでしょ。」
と言い放つレイラ。
なんでももう少し優しくしてあげないの!?と、観ている側にはレイラが憎らしくさえ思えます。
それでも毎日、郵便配達人が来るのを待ち続ける老牧師が悲しい。

そして奇跡が訪れる。
頑なに閉ざされたままだったレイラの心が、ある日静かに溶かされるのです。
手紙などないのに、あるように装って読むふりをするレイラ。
しかし老牧師は、それにすぐ気がついたのでしょう。
静かに席を立とうとするが、その時レイラの口から語りだされた真実とは…

奇跡は、ただ降ってわいたのではない。
牧師ヤコブの真摯さと善良さが、頑なだったレイラの心を溶かしたのです。
そしてそれによって救われたのはレイラだけではなく、老牧師でもあったという奇跡。
悲しい結末ですが、そこには確かな救いがあります。

低予算でも人を感動させることはできるという、見本のような映画です。

ヤコブへの手紙 http://www.alcine-terran.com/tegami/
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10 コメント

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これも ()
2012-01-16 13:42:09
去年かしら?観損ないました。
単館系映画は、かなり遅れてですが、
横浜のシネマ・ジャック&ベティで観ることにしています。
いわゆる昔の名画座なので、上映期間も短く、時間も限られてしまいます。
なので、うっかりしていて……「あ~あ」となることばかり。

低予算でも良い映画というのは確実に存在しますよね。
この映画も静謐という言葉が本当に合いそうです。

明るいヒマワリの花のごとき映画鑑賞をと思っていたのですが、
やっぱり、なかなかそうもいかない感じです。
今、観たいな~と思っている作品が既にダメ(笑)
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Unknown (tona)
2012-01-16 20:00:00
人の好みもありますが、良い映画は良い映画なんですね。
過去いろいろな映画を観てきて、本当に良い映画は限られてきました。
解説が素晴らしいのでとてもよくわかります。
フィンランドの映画なんですね。どこの国にも同じような人がいるものです。
返信する
釉さま (zooey)
2012-01-16 21:19:52
丁度去年の今頃やっていたのじゃないかしら?
都内でもごく小さな映画館で
短くひっそりやっていたような気がします。
しかもこういうのってDVDになっても
レンタル屋の何処かに紛れちゃうんですよね。
あるいは取り扱ってなかったり。
私は2~3年前に見損なった「英国王給仕長に乾杯!」というチェコの映画が観たいのですが
近くのTSUTAYAにも置いてないし、
DISCUSでも取り扱ってないようなのです。

>今、観たいな~と思っている作品が既にダメ

私もあるのです、気になっているのが。
もしかしたら同じ作品かもw
返信する
tonaさま (zooey)
2012-01-16 21:22:26
はい、良い作品だと思います。
映画にさほど興味のない人にも
クリスチャンでない人にも。

フィンランドには行ったことがないのですが
北欧を訪れた時に味わった冷涼な空気、
木々の葉を揺らす風の音などが伝わってくるような画面でした。
返信する
Unknown (慕辺未行)
2012-01-17 22:32:52
こんばんは (^o^)/
森と湖に囲まれたフィンランドの片田舎・・・、そこでのストーリーを想像するだけで、心静かになれそうです。
私は真冬に訪れたのですが、夏だったらこのような風景が広がっているんだろうなぁと、思いを馳せていました。
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慕辺未行さま (zooey)
2012-01-18 00:32:53
この映画には
冬のシーンは出てこないのです。
短い夏を惜しむかのようなキラキラした画面ばかり。
寂れた村の荒涼としたシーンもあったのですが
夏でさえこうなのだから
冬になったらどんなに厳しいだろうと思いました。
真冬のフィンランド、さぞ寒かったでしょうね。
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Unknown (matsubara)
2012-01-18 07:52:32
フィンランドにも昨年行ったところですし、
是非見たい映画です。
でも多分暇はないので、DVDを借りて見る
ことになるでしょう。
何年かたって・・・
HP見たのですが、なるほど聞いたことのない
特殊な言語ですね。
返信する
Unknown (hiro)
2012-01-18 14:06:25
zooeyさん、こんにちは~♪
ホームページで予告編を見ました。
本当に静かで、心が洗われそうな作品ですね。
最後の方でレイラが泣いていましたが、
それはレイラのかたくなな心が溶けたから?
それとももっと悲しい結末?
最近DVDは借りていませんが、見てみたくなりました。
英語の帰りに寄ってみましょう。
返信する
matsubaraさま (zooey)
2012-01-19 00:20:15
DVDは最近出ました。
時間も75分だったか、短いし、
非常に分かりやすい映画なのでお勧めです。

スカンジナビアでも
スゥエーデン語やデンマーク語は非常に似ているが
フィンランド語だけは別格なのだと聞いたことがあります。
返信する
hiroさま (zooey)
2012-01-19 00:22:49
レイラが泣いた理由は…
是非お確かめ下さいませ。
それを言うと全ネタばれになってしまいますので。
おどろおどろしい映画も多い中で
たまにこういうのを観ると
本当に心が洗われるような気持ちになります。
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