オバマ前大統領の2022年のお気に入り映画の一本であるとか、イラン版の『リトル・ミス・サンシャイン』であるとかの前評判を聞いて、楽しみにしていました。
イランの国境近くを車で旅する、4人家族と1匹の犬。
大はしゃぎする幼い弟を尻目に、兄と父母は口に出せない何かを心に抱えている。
彼らの行き先とは?
「この旅の行く先を知った時、我々は深い感動に包まれる」と予告編にもポスターにもありましたが、その目的というのが中々明かされません。
禅問答のような会話や、訳の分からない仮面をつけた男などが色々出て来て、視聴者は(少なくとも私は)、かなりイライラさせられます。
ずっとハイテンションの弟が、お兄ちゃんは何処へ行くの?と聞くと、父親は嫁を貰いに行くんだよと答える。
それにしては、弟以外の3人は、あまりに沈痛な表情をしている。
我慢して観て行けば最後に分かるのかと思いきや、結局ハッキリとは明かされないのですが、長男はどうも違法な国外脱出を果たしたようなのです。
もうひとつ気になっていたのは、犬の存在。
「戦禍のアフガニスタンを犬と歩く」というノンフィクションの本の中で、イスラム社会では犬は穢れた存在であり、忌み嫌われるとありました。実際、犬と旅したスコットランド人の著者は、それが理由で石を投げられたり、宿を断られたりするのです。
しかしこの作品の中では、そのことに特に触れられることもなく、余命短い犬を残しておけないからという理由で一緒にいたようでした。実際、ジェシーという名のおとなしいその犬は、旅の途中で死んでしまうのです。
イラン辺境の雄大な自然の中に、犬はひっそりと埋められます。
イラン映画の巨匠ジャファル・パナヒの長男、パナー・パナヒのデビュー作品。
父ジャファルは改革派を支援したことなどを理由に2010年に逮捕、その後も散々迫害され、今も収監されていると。「リトル・ミス・サンシャイン」とはまるで違う、自由や人権を弾圧していると国際社会から非難されているイラン当局への、この映画は静かな抗議作品のようです。
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