尖閣映像流出事件を考える。

★現在＜尖閣映像流出事件＞について様々な議論がなされている。
　ここで思うのは言葉というものの不安定さだ。
　ある人は、この事件を組織の一員（国家公務員）として行うべきでない＜守秘義務違反＞＜背信行為＞と語り、ある人は国民が知るべきことを知らせた＜内部告発＞＜隠蔽暴露＞と語る。
　物事は立場や価値観によって様々に表現できるのだ。

　これを数年前にあった＜食肉偽装事件＞と比較してみる。
　ミートホープという食肉加工業者が、表示とは違った肉や期限切れの肉を混ぜていた事件。
　これを世間に暴露した人は、組織の一員としては＜守秘義務違反＞＜背信行為＞、しかし世間や消費者からすれば褒め称えられるべき＜内部告発＞＜隠蔽暴露＞。

　＜食肉偽装事件＞と今回の＜映像流出事件＞を一緒に論じるべきでないという議論はあるだろうが、対立の本質は同じだ。
　＜食肉偽装事件＞の場合は、期限切れの肉を混ぜることは現在の日本社会では明らかにいけないことであるから、その是非はわかりやすい。
　一方、今回の事件は映像を流出することが良いことか悪いことかの意見が分かれる所であるからわかりにくい。

　流出が良いこととする立場では、＜国民の知るべき権利を守った＞＜映像を世界に公にして日本の正当性を明確にした＞＜中国に強くものを言える＞という主張になる。
　一方、悪いこととする立場はいわゆる政府の立場であり、流出すれば＜日中関係に悪影響を及ぼす＞＜日中関係が悪くなれば経済が悪くなる＞＜お互いのナショナリズムが高まり戦争になるかもしれない＞＜情報管理の甘さが露呈し、日本が世界から信用されなくなる＞という主張になる。

　これは難しい議論で、おそらく結論の出ないものだろうが、この議論から放れて唯一言えることは＜政府の統治が効かなくなる状態になるのは怖いな＞と言うこと。
　今回はひとりの（あるいは複数の）海上保安官の事件だが、これがもっと大きな組織であったり、警察であったり自衛隊であったりしたらどうだろう。
　たちまち息苦しい＜警察国家＞＜軍事国家＞の誕生だ。
　日本は軍備を増強し、中国やロシア、北朝鮮と戦うべきだと主張する政権の誕生になる。
　大げさなことと思われるかもしれないが、小さな穴が堤防を決壊させるように、我々の拠って立つ社会など簡単に変わる。
　だから小さなことも見逃さず対処しなければならない。
　現に今回の海上保安官を＜英雄＞とする世論もあるようだし。

★そして菅政権。
　この政権は本当にダメですね。全く国民に説明していない。
　菅総理はこう説明すればいいんですよ。

・日中関係に悪影響を及ぼすことは経済、ひいては国民生活にマイナス。
・中国側の怒りに怒りで対応していたら燃えさかる火は大きくなるばかり。
・だから多少の妥協をし、弱腰外交と非難されても現在の方針をとった。

　大多数の国民に理解されるかどうかは難しい主張だが、それが正しいと思うのならしっかり主張すればいい。
　何も説明していないから、頼りなさやモヤモヤだけが残る。
　「菅政権って国民の方を向いていなくて中国の方を向いている」という感じになる。
　小沢氏の証人喚問にしてもさっさとやればいい。
　どうせ野党は大した追及は出来ないだろうし、行うことが国民の政権への信頼に繋がる。
　また今回のことに関しては馬淵国交大臣は辞めるべきだ。
　直接関わりはないにしてもそれが政治主導でケジメ。それが国民の信頼に繋がる。
　
　菅総理、国民のフラストレーションは結構溜まっているんですよ。
　中国は国民のフラストレーションを逸らすために日本を敵にしているようだが、この日本でもフラストレーションのガス抜きは必要。
　そうしないと、この国はどんどん＜海上保安官を英雄視するようなマズい国＞になる。