平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

警官嫌い エド・マクベイン

2008年02月28日 | 小説
 エド・マクベインの87分署シリーズ。

 この作品は舞台となる街もひとつのキャラクターになっている。
 第1作「警官嫌い」の冒頭ではこんな描写が。

「北辺を流れる河からは、市は空にそびえる巨大な屋根の輪郭しか見えない。見上げるものは、何か畏怖に似たものを覚え、ときにはあまりの壮麗さに息を呑むくらいである」

 87分署の管轄する地区はビル群なのである。
 その屋根の輪郭は
「雑然とした矩形と針の様に尖った屋根、尖塔、避雷針。紺青と城のぼかしの大空に、あらゆる形が幾何学的調和を持っている」

 街の光についても描写がある。
「行きかう車は巨大な目玉を輝かせ、大通りに沿って輝く白熱の光が目の痛くなるような光の洪水と色彩の氾濫に絡み合っている。市はきらめく宝石ケースのようだ。そそり立つビルは舞台のセット。」

 少し気取った翻訳文体だが、ブロードウェイミュージカルの舞台の様な華麗なイメージを読む者に与える。
 しかし、マクベインはこうも描写する。

「だが、そのビルの背後、輝く明かりのかげには街がある。街にはごみもあるのだ」

 都市の背後にある影=犯罪をにおわせる描写。
 ちょっと目を凝らして見れば、街には人が住んでいて生活の営みがある。人の営みには愛憎、犯罪もある。
 警察小説の導入としては申し分ない描写だ。

 犯罪都市の描写は次の様にも描かれる。

「この地区は、どう考えても、刑事が百十六人いても手不足は解消しないといってよいくらいの地区だった。リヴァー・ハイウェイや、いまでもドアマンやエレベータ・ボーイたちの自慢の種になっているその一帯の高層建築から南にのびて、食料品店や映画館のあるステム大通り、さらにカルヴァ街やアイルランド人の集まっている住宅街に伸びて、さらにその南、プエルトリコ人の住む一画からクローヴァー公園にまで拡がっているのだった。この公園がまた、追い剥ぎや痴漢の横行する舞台なのだった。東西に伸びる三十五本もの通りを管轄しているのだ。しかも、南北に公園から河まで、東西に三十五の町筋をもつこの地区には、九万人の住人がいるのだった」

 前の描写が上から見下ろす俯瞰描写だったのに対し、この描写はかなり地面に近づいている。
 公園や映画館、アイルランド人、プエルトリコ人の姿、そして三十五本の通りがイメージされる。追い剥ぎや痴漢の姿も。

 事件が進むに連れて街の描写はますます地面に近くなる。

「淫売通りは南北に三区画の通りだった」

 きらめくネオンと摩天楼からいかがわしい通りへ。
 様々な街の顔を見せて、マクベインは読者をぐいぐい作品世界に引き込んでいく。  


コメント
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