桃井章の待ち待ち日記

店に訪れる珍客、賓客、酔客…の人物描写を
桃井章の身辺雑記と共にアップします。

2009・11・12

2009年11月13日 | Weblog
幕が開いた。幕はないけど、幕が開いた。開演ベルが鳴った。ベルはないけど、ベルが鳴った。遂に今日、『独房、若しくは雑踏』の幕が開いて、開演ベルが鳴ってしまったのだ。本当だったら多分開演前の一時間程は控室で緊張してそれまでの時間を過ごすのだろうけど、この芝居の場合、開演ギリギリまでY君とMはカウンターでドリンク作りとお客さんの応対、そして俺はこの公演中の特別メニューであるポルトガル風料理(イワシとじゃが芋の包み焼き、タラとタコのカレー、モツとソーセージのトマトソース煮込み、ポルトガル風お焼き、きのことカキのショートパスタ)を作るのに追われ、緊張する暇がなかった。何しろ開演時間になってもまだイワシを焼いていたのだから緊張しろと云う方が無理だ。それが却ってよかったのか?開演時間が五分過ぎた時点で舞台監督を勤めてくれている女優のHさんに急かされ、慌てて控室で着替え、何も考えることなくステージへ出て行く。台詞を忘れるのではないかと云う不安なんか感じている暇もない。誰が来ているか見ている余裕なんか全くない。ただイワシの臭いがついている。そう云えば俺はリスボンの裏町に住んでいる男で、さっきまでイワシを焼く屋台で立ち話をしていたんだっけと役柄に入る。ウェイトレスに扮したMに白ワインを注文したら、本当は水の筈なのに何の手違いか本物のワインを持ってきたので、そのまま飲んでしまい現実にリスボンのカフェにいる錯覚に陥ってしまった俺。本当にいい性格をしている俺。そんなこんなで……台詞を忘れることもなく、大きくトチルこともなく、少なくとも俺の出番を無事終えることができた。本当だったら「演出家」としてY君の演技や照明の効果などを気にしなくてはいけなかったのだけど、ラストは控室に入ってしまったこともあって、もう「演出家」なんてやっている余裕などある筈がない。というか、リハの段階から自分の演技のことばかり気になって「演出家」をとっくに放棄していたのだけど。ともあれ、挨拶が終わったら後は祭り。開演前に料理は作りおきしておいたので、そっちはHさんに任せて、見てくれたお客さんと飲みながら話し続ける。ええっ、こんな人まで来てくれていたんだと初めて気づくお客さんもいたりして、普通ならこんな芝居の専門家に見られたら気後れするなのに、そして常連のお客さんは俺を慮って俳優桃井章の話題には触れないでいてくれたりしたけど、全く気にせず、一人充実感に浸る夜が深夜まで続いたのだった。後金曜日と土曜日で三回。この幸せが続いてくれ。
★好評上演中!『独房、若しくは雑踏』(改訂版)
八月に催した『コレド演劇フェスティバル』でたった一日だけ公演し、好評を博した芝居を大幅に改訂し、桃井章が出演するバージョンとして再演いたします。
作演出・桃井章、出演・吉野翼、桃井章、みきてぃ
日時・11/12(木)、13(金)、14(土)全日19時30分開演(土曜のみ15時のマ チネあり)、料金3000円
~予約お問い合わせはコレドシアター(3470ー2252)まで~
コレドのホームページのアドレスイベントスケジュールなどご参照ください。