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緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

自分にとってのONEを探すこと

2013年03月03日 | つれづれ

15年以上前になります。
緩和ケア病棟に勤務していた頃。

ある患者さんとの会話から、
私自身が生きるという意味を
真に感じさせてもらった出来事でした。


ここから2007年の記事の再掲です。

 

ある日の朝。
患者さんの診察に部屋に伺った時、
まっすぐ見つめながら、
質問されました。

「私、奇跡的にがんが治ったという本を読みました。
 私は今まで、正直に生きてきたつもりです。
 そりゃあ、ちょっとした嘘位はついたこともありました。
 でも、盗んだりしたこともありません。
 なのに、奇跡がおこったという人もいるのに、
 何故、私には奇跡が起こらないのでしょうか。」

あまりに、難しい質問でした。

「奇跡でがんが治ったという人の本を読まれたのですね」

必死に、リフラクションを行いながら、
頭の中で、整理をしていました。
ふと、言葉が流れ出したような感覚になりました。

「がんが奇跡的に治ったという方は
 その後、どのような人生をおくったと本に書いてありましたか?」

「いえ、本には治ったとだけ・・」

「がんが仮に本当に奇跡的に治ったとします。
  でも、必ず、最期が誰にでも訪れます。
  治ったとしても、もし、その後
 その方は、どのような人生を送られたのでしょうか。
 そして、いつか来る最期は
 どのようだったのでしょうか。
 ご家族とはどうだったのでしょう。
 もしかすると、予想しない悲しい人生だったかもしれません。
  人生の目標は、病気が治ることではないと思うのです。
 
 限りがある人生を
 幸せだったと思いながら
 手を振ることができるか・・ 
  ではないでしょうか。」

「私は、症状もまずまずで
  家族に囲まれて幸せだと感じられることができます。
  これでいいのですね」

その3日後、大量の下血で亡くなられました。
あまりの急変でしたが、
この時の最後の言葉は何事にも代え難い
ありがたい贈り物でした。

(ここまで再掲)



 
時間、労力、経済的なバランス・・

病だけとのタックルではなく
人生幸せだったと思えることに
目を向けられる時間があるだろうか・・

友と会う時間、
過ちを和解する時間・・

疾病の見通しを生活に即して
伝えることの意味は
ここにあります。

緩和ケアチームで支援していると、
単に、痛みなどの体の症状をとることに留まるのではなく
生き抜くことへの支援のあり方に悩みます。



私たちは、何か、目の前のものと戦おうとします。
取り組んでいる問題、
疾病、
ライバル、
不快な出来事・・・
心はもがきます。


先日、
ONE to one
とう言葉を読みました。

one to one
一対一
個々への対応でもあり、
対峙でもあります。

ONE to one
宗教を持つ人々にとっては
ONE は神なのだそうです。

虐めや傷つけられるようなことがあったとしても、
目の前の雑多なことに揺さぶられるのではなく、
自分にとっての大切なもの
大きなものとの関係性の中で、
自分を生かしていくことの重要性が述べられていました。

惑わされずに、
生きていく・・

そんな達観した境地には
とても到達することはできませんが、

自分にとってのONEを探索していこう・・

そうした自分の探索を続けることが
患者さんを理解することに繋がるのではないかと
感じるこの頃です。


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9 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
まさしく。 (ぴょん)
2007-01-26 10:15:45
まさしく、私は、先生のご意見に賛同する一人。
でも主人の妹2人は・・・。
何とかして!!ソレは、十分に解ります。
問題はその後・・・。
占いの先生に、方角の良い病院をみて貰ったり、「歯の矯正をすると癌が治るって言っている先生がいるから、病院なんかで化学療法をやったり、緩和ケアに入ったりしないで、歯医者に行って!!」という風になってしまいます。そのことで、諍いが起こってしまいます。ハイ。
返信する
ありますよね (aruga)
2007-01-26 23:39:36
本当によくあることです。身近で看護している人ほど、状況やご本人の気持ちをよ~くわかっているのですけれどね。ぴょんさん、大変でしたね。
返信する
本当に。 (ぴょん)
2007-01-27 08:10:25
気持ちは、解るのですが、そうじゃない方向へ・・・。と、お願いしたり・・・。
そう言うことが私の一番の悩みでした。亡くなってからもね。ハイ。病は気から。確かにソレも一理あるのですが・・・。
返信する
緩和ケアチームにいます (セロー)
2007-02-02 23:23:53
いつも、思います。奇跡が起きて、治らないかなと。
ご家族とありがとう、また、会おうねって言い合えるように言葉をかけたり、接したりしています。
先生のように、『限りがある人生を幸せだったと思いながら…』と声をかけてゆきたいと思いました。

薬の使い方とか、いつもとても参考になります。
これからも、よろしくお願いします。
返信する
セローさんのブログにもお邪魔しました。 (aruga)
2007-02-03 22:29:00
緩和ケアチームの看護師さんなのですね。同じ志を持つ方とこのような場で知り合えることがとても嬉しいです。患者さんも、そして、私たちも、幸せ感を持っていられたらよいですね。こちらこそ、よろしくお願いいたします。
返信する
生きること、生きていること。 (KAYAU)
2013-03-04 01:01:59
「生きている」ことが当たり前というか、前提なのですよね、病気や自分が日常生活に不自由をしていない人間は。

だから、目の前のことの喜怒哀楽に、右往左往したり、惑わされたり。


自分自身が、生きること、生きていることについて、改めて目の前に「突き付けられた問題」として置かれた時、どのように考えるのか?

少なくとも。
「今日と同じ明日が来るとは、思ってはいけない。」
と、思いながら毎日をすごさねばと思う昨今です。


先生の記事から様々なことを考えます。
いつも、ありがとうございます。


寒すぎる東京。
あと2週間で幼稚園を卒園する娘は、いろいろな風邪をひいているようですが、インフルエンザとノロウイルスは大丈夫です。

子供からもらってしまう風邪、何故か親は症状がひどいです(笑)。

先生、お体御自愛下さい。
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Unknown (リョウ)
2013-03-05 22:18:01
ここ数日また亡くなった父を考え辛い毎日でしたが、先生の記事を読んで心が少し軽くなりました。ありがとうございます。
返信する
KAYAUさん (aruga)
2013-03-10 22:03:22
患者さんは沢山のメッセージを残してくださいます。
でも、中々、大切なメッセージの本質を即座にキャッチすることができず、こうしてブログに書いていると、初回に書いたときとも違う気づきを得ている自分に気づきます。
そんな自己の中のささやかな変化に、こうして、「様々なことを気づきます」と書いてくださることに、言葉にならない嬉しさを感じます。

コメントを頂いたときは、とても寒く、今日は本当に暑かったです。夜から急に冷え込んできました。

ほんと、体がついていきませんね。
共に、大切にしましょうね・・
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リョウさん (aruga)
2013-03-10 22:14:25
お父様を見送られた辛さは、波をもって流れていることかとお察ししています。
いつも、こうしてメッセージを下さり、本当にありがとうございます。

もうすぐ、本格的な春が来ますね。
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