緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

アセトアミノフェンの用量拡大

2011年03月06日 | 医療

アセトアミノフェンの用量拡大が1月に認められました。

今まで、保険適応は1.5g/日でしたが、
1g/回、4g/日となりました。




確かに、今までのアセトアミノフェンは用量が少なすぎました。
しかし、この1g/回、4g/日とは、この薬剤特性を理解して、
医療者が安全に使用できればよいのですが、
そうとも思えず、本当にこれが至適拡大なのか・・と思います。

何せ、私は卒後すぐには腎外科に所属し、
人工透析や急性薬物中毒なども経験がなかったわけではありません。


アセトアミノフェンを経口摂取すると、その大部分が肝臓で、グルクロン酸抱合や硫酸抱合を受け代謝されますが、一部はチトクロームP-450代謝経路に入り、毒性をもつN-アセチル-p-ベンゾキノンイミンが生成されます。常用量のアセトアミノフェンであれば、この代謝物は肝臓のグルタチオンによって抱合され無毒化されますが、大量摂取時にはグルタチオンが急速に使用され、その生合成が追いつかず、グルチオンが枯渇してしまいます。そのためこの酸化活性代謝物N-アセチル-p-ベンゾキノンイミンが、細胞内高分子と結合して細胞壊死を起こし、肝障害や腎障害を発現します。
http://medical.radionikkei.jp/suzuken/final/020530html/index_2.html


つまり、グルタチオン枯渇状態にあるときに、
アセトアミノフェンを投与するとその毒性は増悪すると考えられます。

グルタチオンで代謝されるような薬剤を大量、長期に使用している場合
大量アルコール飲酒者
肝機能障害などでが想定されます。

グルタチオンで代謝されるような薬剤というと、
もちろんこのアセトアミノフェン(なので、アルコールを飲んでいることを知らず、1gボンっと内服すると急な枯渇に至る可能性はないとも言えないように感じます・・推測の域をでません)

白金剤(シスプラチンなど)

がん治療中の患者さんへのアセトアミノフェンの4gというのは、
注意深い観察を行うべきと思います。






ここには、薬剤師さんも多くお訪ねくださっていますが、
この周辺の知識でコメント頂けるとありがたいです。






ただ、今回のこの用量拡大・・
その前の週(1月13日)に、
アメリカFDAはアセトアミノフェンの警告を出していましたので、
これを用量拡大について聞いた時、本当に戸惑いました。
http://www.fda.gov/Drugs/DrugSafety/ucm239821.htm

Prescription Acetaminophen Products to be Limited to 325 mg Per Dosage Unit; Boxed Warning Will Highlight Potential for Severe Liver Failure




薬食審・医薬品第二部会・資料をみると、
このFDAの警告は知った上で
今回の最大用量変更を行ったようです。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000010omj-att/2r98520000010ool.pdf







埼玉県本庄市でおきた保険金殺人事件などを考えると
基本的には安全な薬も投与方法を間違えると中毒を起こします。
私が研修医時代にも、風邪薬の不適切使用で、
透析を回し、N-アセチルシステインを投与したこともありました。
ただ、このN-アセチルシステインは、単回大量服用後24時間以内(理想的には8時間以内)
には用いないと効果はありません。


よい薬剤です。
NSAIDsの代替薬としても必要ですし、
使いこなせるとさらに良質の除痛を目指せると思います。
しかしながら、今回の用量拡大を
何でも量を増やせばよいと
安易に捉えないでほしいと思います。
どのような時が、リスクがあるのか
どのような時は、どのような投与をすればよいのか、
十分学んでおく必要があると思っています。






こんな折、この用量拡大から1カ月以上も過ぎたころ・・
たまたま別件でDI室に出向いていました。
背後から、アセトアミノフェン関連製薬企業のMRさんの
のんきな声が聞こえてきました。

私は、芯から怒りを覚えました。


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2 コメント

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イレッサの二の舞になるな! (itopie)
2011-03-08 17:52:03
少し古いデータですが、アセトアミノフェンと肝不全の関連を解析した以下の論文が発表され、米国メディアでも大きく取り上げられました。Larson AM et al Acetaminophen-Induced Acute Liver Failure: Results a United States Multicenter, Prospective Study. HEPATOLOGY 2005;42:1364-1372.
http://www3.interscience.wiley.com/cgi-bin/fulltext/112161379/HTMLSTART

500mg製剤の規格追加が予定されているカロナール錠についても、米国で1規格あたりの成分配合量を325mgまでとしたことから、500mg製剤の承認を認めるかどうか、今後厚労省とPMDAで再検討することになったそうです。
高用量の有効性だけを声高にプロモーションするMRさんには違和感を覚えます。
過量投与による重篤な肝障害が発現するおそれがある事も十分医療者側に説明してもらいたいものです。
ありがとうございます (aruga)
2011-03-08 22:57:38
itopieさん
論文のご紹介ありがとうございます。
勉強されてるなあ~って刺激を頂きました。
500mg製剤の件も、情報ありがとうございます。私もこの件は、注目しています。
よい薬剤がよい薬剤として使われ続けるためには、丁寧な観察が大切だと思います。
コメントを頂き、その力強い支えに、励まされています。

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