
「痛み止めは体に悪いと思って・・」
痛みを我慢しているわけではない。ただ、薬の副作用を考えるとむやみには飲みたくない。と患者さん。でも、医療者から見たら、明らかにQOLは低下していて、何とか薬を勧めてもらえないものかとよく相談を受ける。でも、次の話をすると、大概の方は前向きに考えてくださるようになる。
非ステロイド性抗炎症薬・・いわゆる痛み止め。医療用麻薬の前に投与する鎮痛薬。
北米で、リウマチ患者さんでこの鎮痛薬を長期に服用されている方の発ガン率が低いことが注目され始めたのは、1990年よりもっと前。大規模な臨床試験から、発ガン予防効果があることが明らかになった。なぜ、このような鎮痛薬にがん治療関連薬として痛み止め以上の効果があるのだろうか。
がんには、炎症を伴うものと、炎症が少ないものに分かれる。炎症が強いものにはcox-1, cox-2という炎症を奮起する蛋白が発現しており、これがあるとその周囲にプロスタグランジンが増え、疼痛を招くだけではなく、さまざまな負の因子が増加する。発癌性、炎症、血管新生(発育を良くし、転移が増える)、免疫抑制、アポトーシス阻害、腫瘍浸潤や転移の促進などである。(Cancer Control:9,28-35,02)
このcoxを減少させると、腫瘍の増大が緩やかになったり、抗がん剤や放射線療法に併用するとその効果が有意に増す。例えば、放射線療法中に併用すると、放射線でダメージを受けた後の腫瘍塊が再度増殖するとき、がん細胞や血管内皮細胞のcoxが抑えられていると、再増殖が遅れる。結果、放射線療法の効果がより長く維持できる。(JNCI:95(19)1440-1452,03)この、coxが過剰発現しやすいがんの種類もわかってきており、この論文に簡潔にまとまっている。
緩和ケアで何も積極的な治療はできていないと言われることがあるが、実は、非ステロイド性鎮痛薬を飲んでいるだけで、腫瘍をこれ以上大きくしないように踏ん張っている状況に持っていけているわけである。もちろん、薬にも食物にも予期せぬ副作用や好ましくない効果はあるので、そこは、十分気をつけながらフォローしていくのは、専門医の役割である。むやみに避けるのではなく、上手に使っていきたいものである。
ただ、鎮痛薬を処方するではなく、こういう相談も私の緩和ケア科外来で行っている。
2年前のアサヒメディカルでこの一連のことを書いたが、このとき、正しいことを書きたくて、何十本もの英文論文を読んだ。ご参考になれば・・
http://www.asahi.com/medical/0409.html
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