プロメテウスの政治経済コラム

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宇宙基本計画決定 宇宙開発を軍事分野に拡大するのではなく、日米衛星調達合意の廃棄こそを!

2009-06-03 17:15:35 | 政治経済
自民・公明の与党と民主党がわずか4時間の審議時間で「宇宙基本法」を強行可決して1年。政府の宇宙開発戦略本部(本部長・麻生太郎首相)は2日、初めての宇宙基本計画を正式に決定した。これまで「非軍事」を原則にしてきた日本の宇宙政策を180度転換し、宇宙空間を軍拡に利用するもので、アメリカ的ミニ軍産複合体を目指すものである。日米軍事同盟の侵略的強化政策に歩調を合わせながら、日米軍需産業の宇宙での大儲けを保証しようというわけだ。自民党や日本経団連は、日本の宇宙開発の現状を「研究開発優先」と批判し、これが実用化や産業化がおくれている原因として閉塞感を強めていた。しかし、「日米衛星調達合意(90年合意)」によって実用衛星の開発を事実上禁じられたら、宇宙科学以外には研究開発しか残らなかったのは理の当然である。日本の宇宙産業の不振を克服したいというのなら、軍事分野に向かうのではなく、90年合意の廃棄にこそ向かうべきだ

小惑星探査機や天文衛星の活躍など、日本の平和的な宇宙開発は、国際的に高い評価を受けてきた。しかし、1990年6月に日米両国政府において合意された「非研究開発衛星に関する調達手続」(以下、90年合意)は、日本政府関連機関が調達する通信、放送、気象衛星等の非研究開発衛星(いわゆる、実利用衛星)について、国際公開入札を行うことを義務付けた。軍事技術をベースにした欧米諸国の宇宙開発利用に対して、平和目的・民生利用で推し進めてきたわが国の宇宙開発利用が、芽を出し始めたときに、厳しい国際的な競争にさらされることとなってしまった。日本の衛星市場への参入を目的とした米国の衛星メーカの陰謀であった。こうして、90年合意以降の政府調達については、1機を除いて全て海外の衛星メーカが受注しているという。結果、信頼性が最も重要である宇宙開発利用の分野において、わが国の宇宙関連メーカは実利用衛星の実績を積み重ねることができなかった。日本の宇宙産業の不振の本当の理由は、「非軍事」が問題なのではなく、米国製衛星の購入を約束した90年合意にこそあるのだ。

90年合意においては、わが国政府は毎年、研究開発衛星の開発計画を含む「宇宙開発計画」を官報告示することが義務付けられており、さらにその区分に疑義が生じた場合、米国政府は日本に協議を開始することができることとなっている。つまり、安全保障に資するもの等を除き、この「宇宙開発計画」に掲載していないものは全て国際公開入札であり、官報掲載により国際入札が免除された研究開発衛星についても、米国からの「発意」によって協議が開始される。その過程においては、協議に必要な衛星のスペックなどは、わが国から米国に提供されることとなるため、極論すれば、米国は日本の衛星について、その詳細までも常に知りうる立場にある。また、わが国の宇宙開発計画に対して、大きな影響力を及ぼすことが可能となる(伊佐進一「日本の宇宙開発利用の今後―日米90年合意について―」2007年05月14日)。
例によって例の対米従属の屈辱的な協定である。自民党や日本経団連も、日本の宇宙開発を妨げ、90年合意によって宇宙開発が壊滅的な打撃を受けたと思っている。ところが、自民党や日本経団連から、これを変更しようという議論はほとんど聞こえてこない。自民党や日本経団連は、日本の宇宙開発の現状を「研究開発優先」だと批判し、攻撃の矛先を「非軍事」に向ける

政府が決定した宇宙基本計画は、宇宙開発利用の力点を、従来の「研究開発」重視から「利用」重視に転換。そのうえで「宇宙を活用した安全保障の強化」「戦略的産業の育成」など、基本的な6つの方向性を掲げる。
90年合意のもとで閉塞感に陥っていた、日本の宇宙企業は、基本法が「非軍事」限定を解除したことを歓迎している。防衛目的の衛星は、90年合意の適用除外と考えられており、したがって、政府の「非研究開発衛星」を企業が調達するための追い風となると考えているからである
自民党や日本経団連は、「政府が継続的なユーザーとして財政支出を行って宇宙産業界を支援したら、メーカーに競争力がつき、入札で外国のメーカーに勝てようになる」というのだ。この「継続的なユーザーとしての支援」が、軍事衛星への財政支出を意味することは言うまでもない。

宇宙の軍事利用が進むとどうなるか。イラク・アフガンの戦争では、70%の砲弾・ミサイルが宇宙衛星によって誘導され、今日もアフガン・パキスタン国境地帯では軍事衛星に誘導された無人飛行機からミサイルが発射され、多数の民衆を殺傷している。米国の新型戦争システムのもとでは、偵察衛星も早期警戒衛星も通信衛星も、すべてが海外での攻撃のための「準兵器」である。宇宙の軍事利用とは、米軍の優秀な下請け部隊として、自衛隊がアメリカとともに海外で戦争するさいの備えにほかならない。アジア諸国にとっては、日本の矛先が自分たちに向けられたと思うだろう
政府・防衛省の宇宙基本計画は、日米軍事一体化を狙うアメリカの要求と、宇宙を新たなもうけ口にしようとする財界・軍需産業の要求に応えるためだけのものである。宇宙開発を軍事分野に拡大するのではなく、日米衛星調達合意(90年合意)の廃棄こそが必要なのだ

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