松岡農相らの事務所費問題をきっかけに始まった政治資金規正法改正論議は11日、自民、公明両党の正式合意によって、資金管理団体の経常経費(人件費除く)に領収書のコピー添付を義務付けることで決着した。過去、幾多の金権腐敗事件で、自民党は、真相解明を拒否し、無意味な法制度いじりに問題をすりかえ、疑惑に幕を引いてきたが、安倍政権もまた、この手法を繰り返そうとしているのだ。
少数の支配階級・特権階級の利益のための政治を行いながら、多数派を維持するためには、多数派である労働者、一般市民のなかの有力者を日常的に買収することが必要である。マスコミ、御用文化人との付き合いも欠かせない。政治資金の使途を透明化せよといくら言われても、ザル法でその都度お茶をにごすほかないのである。
今回も公明党の顔を立てたように見せかけながら、ザル法の一部改定で逃げるつもりである。自公の合意は、一政治家に一つ認められている「資金管理団体」に限って、五万円以上の経常経費支出について領収書添付を義務付けるというものである。国民の目から隠したい支出は、資金管理団体以外の政治団体の支出として処理できるし、支出を五万円未満に小口分散するということも可能である。資金の透明化にはなんの役にもたたないにもかかわらず、安倍首相は与党の合意について「国民の強い声もあり、私が指示した」と胸をそらす。
それに対して国民は怒らない。学習が足りないからだ。
今の政治資金規正法をいじくる前に、やるべきことがあるのだ。いまの制度でも、政治団体は経常経費の支出について帳簿を備え、領収書類を保管することになっている。これを公表するかしないかだけのことである。バウチャーなしでも帳簿記録とその根拠は開示できる。
ここで問題になるのは、法と道徳の関係である。近代以前では、法と道徳や宗教の区別は明確でなかった。戦前日本の天皇制国家のもとでも、法と道徳は分離していなかった。その典型は教育勅語であった。父母への孝行や夫婦の和合、遵法精神、戦時における義勇心など12の道徳的秩序を国家が権力によって強制した。教育勅語は単なる道徳的規範ではなく、同時に法規範でもあった。しかし、近代国家では人間の精神的価値の自由は基本的人権の核心部分であり、国家は個人の精神内部に立ち入ってはならないということだ。天皇がただ一人の主権者として法の権威を持つと同時に、精神的権威、つまり道徳的権威の担い手であった天皇制国家は近代国家ではない(渡辺洋三『新版日本国憲法の精神』新日本新書)。ところが、安倍、松岡らを筆頭とする“靖国派”は、法と道徳を混同する日本的伝統を「政治とカネ」の問題でも、教育の問題でも悪用して国民を欺こうとしている。
法的に罪になるかどうかということと、道徳的にいいか悪いかということは、別問題である。「法律に求められているなかで説明を果たしている」―これが安倍、松岡の言い分である。いま問われているのは、家賃も水道料もかからない国会の議員会館に資金管理団体の主たる事務所を置きながら、数千万円もの事務所費、光熱水費を計上した異常な経理処理に関する政治倫理やその人間性である。「政治とカネ」の問題で、法と道徳を混同して「法」で逃げる“靖国派”は、教育の問題では「道徳」を法に取り込み国家権力によって強制する。学校教育法改定法案は、「規範意識」や「我が国と郷土を愛する態度」など多くの徳目を義務教育の目標に掲げ、達成を法的に義務付けている。
政治が庶民の思いとかけ離れるのは、政治が金の力でゆがめられているからだ。法と道徳の混同はファシズムにつながるということをしっかり学習することが政治を庶民の手に取り戻す第一歩である。
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